9.推薦
俺はナーガの解体が終わるまでの間、冒険者たちに話を聞いて回っていた。彼らは何故かとても丁寧な物腰で、聞いていないことまで色々と教えてくれる。この世界の大まかな地理も知ることが出来た。
この世界は2つの大陸があり、ここは西にあるウーラルト大陸北方の平原地帯にある小規模国家フェルト王国らしい。北の大森林の先には港町ハーフェンと氷河島があり、南には砂漠が広がっており、オアシスにそれぞれ点在する都市国家が緩い国家連合を形成している。西は山脈、東は海に囲まれたこの国は、なるほど平和ではあっても発展はしないわけだ。
そして東の大陸は不毛の大地と呼ばれ、南部に1つ巨大な帝国が存在するのみだそうだ。
その話をしてくれた冒険者たちの大半がシルバーランクパーティーで、ゴールドランクは1パーティー5人だけ。残りはブロンズだった。冒険者ランクはそのパーティー毎に与えられるもので、下からアイアン、ブロンズ、シルバ―、ゴールドの4つらしい。駆け出しはアイアンで、その1パーティ―でDランクを倒せるのがブロンズで、シルバーはCランク、ゴールドはBランクというのが常識らしい。このランクは祝福を受けた回数が規定数に達すると上がれる。祝福を1回でブロンズに、3回でシルバー、6回以上でゴールドにランクアップするようだ。
ここまで聞いて俺は思う。冒険者たちのレベルが低い気がする。この祝福という仕組み的に、年齢が上がるほど実力も上の者が増えるはずだ。この村の冒険者の多くはベテランである。にも関わらず、シルバーランクがほとんどだ。
理由は話を聞くうちに見えてきた。冒険者ギルドはソロ活動を禁止し、パーティーでの活動のみ認めている。これは何もおかしい話ではない。ここはゲームみたいに町から近いほど敵が弱く、離れるほど強いなんて甘い世界じゃない。急に強力な魔物に襲われて死ぬことなんてザラである。現に俺もナーガに襲われ死にかけた。少しでも生存確率を上げるためのギルドの策だろう。
しかし、これが恐らく原因だ。魔物を倒した時の経験値は、パーティーで頭割りなんじゃないだろうか。現にこの冒険者ランクシステムは、全員が同時に祝福を受けるのが当然のようだ。経験値は人数で等分されると見て間違いない。
レベルが低いから弱い魔物しか狩れない、弱いと経験値が少ないからレベルが上がらない、という負のループが起きているせいで、俺と冒険者たちでは描く成長曲線がまるで違うのだ。
既に祝福を6回経験している俺は、ちょうどゴールドランクである。これに各種バフも使うので、早くもレヒトは人類でも上位の実力者である。
俺はせっかく異世界に来たのだから冒険者になろうと思っていたが、今の成長速度が5分の1になるのはできれば避けたい。しばらくぼっちで森にこもるか、などと思っていた矢先だった。村長がギルドから出てきて、俺に話しかけてくる。
「おぉレヒト、ここにおったか。先ほど支部長と話し合った結果、君を王都の戦術学園に推薦することにした。幸い学園の本格的な授業はまだ始まっておらんはず。推薦が受理され、途中編入試験を受ける許可が下りるのはすぐじゃろうから、大体3日後くらいにここを離れるつもりでおってくれ」
俺は絶句した。何か笑顔でとんでもないこと言い出したぞ、このじいさん。俺の様子に何を勘違いしたのか、村長はますます笑顔を深め、饒舌に語る。
「ほっほ、喜びで声も出んか。分かるぞ、戦術学園を卒業すれば栄えある未来が約束されるからの。冒険者はもちろん、優秀であれば王家直属の近衛や軍の指揮官クラスにもなれるという話じゃ。学園では有名な元冒険者などもたくさん指導しているから、レヒトの錬金術師という職を生かす方法もたくさん教えてくれるはずじゃ。頑張ってきなさい」
どう断ろうか考えていた俺はその言葉を聞いて考えを改める。たしかに、今まで剣術なんてなくひたすらに刺すことしか出来なかったのが、華麗な剣捌きを身に着けられるとあれば俄然行きたくなるな!俺は武器の適性が存在しないから、むしろ全ての武器を修めてやろう。技術で専門職に負けようとも、筋肉で勝てば良かろうなのだ。
「ありがとうございます。俺、学園で頑張ります!」