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7.死闘

森の奥からゆっくりと這い出てくるナーガから目を離さず、腰にくくったポーチから残していた魔力40をこめた身体能力上昇と、魔力30をこめた耐久力上昇の2本のポーションを取り出し、同時に喉に流し込む。すると、体温が上昇し、全身の筋肉が張り詰めるのを感じる。さっきまで使っていたバフの2倍の魔力が込められたモノだ。当然効果も段違いである。


ちなみにこの時のレヒトは知る由も無いが、魔力を40込めたバフポーションはこの世界では超高級品である。理由は単純で、そもそも回復薬と違ってバフ効果は冒険者にしか需要がない。おまけに高い金額を払ってたかだか10分のバフを買う人間などおらず、冒険者のほとんどは錬金術師から魔力回復薬や身体回復薬を買いたいと考える。そういうわけで、先天的に魔力量が50を超えている上位数人の錬金術師たちは、1日に1本中級回復薬のどちらかを作るだけで生活できてしまうのだ。


そんな世界でバンバンとバフを使える冒険者など、チート以外の何物でもない。


ナーガが突進してきたのを横に大きく跳ねて避ける。すれ違いざま胴に短剣をふるうが、鋼鉄のような鱗に弾かれて俺の手にビリビリとした衝撃が返ってくる。こちらを向いたナーガは俺の攻撃が効かなかったのを良いことに、口を三日月状にして器用にニタニタ笑う。


もともとバフが切れるまでの10分間でコイツを殺すか逃げるかするつもりだったが、正直逃げ一択だな。バフがあっても、こんな安物の短剣ではこのバケモノに通用しないということだ。ため息をついた俺は突如としてナーガに向けて走りだした。




そして、ニヤニヤと待ち構えるヤツの横を抜けた俺は、強化された脚力を存分に発揮して脱兎の如く逃げ出した。


バーカ、諦めて無謀な突撃をするとでも思ったのか?そんなワケがないだろう。


後ろで怒りの咆哮が聞こえ、草木を踏み倒しながら追ってくる音がする。俺は村の方向を確認しようと走りながら太陽の位置を探す。


しばらく走っていると全身が泡立つ気配がして、俺は反射的に思いっきり上に跳ぶ。俺の足先をナーガの牙が掠めた。


俺はそのまま木の枝に乗って、ナーガを見下ろす。もう追い付かれるとは。さっきみたいにもう1度逃げている背中を襲われたら今度は無事では済まないかもしれない。


仕方ないが、戦ってコイツに手傷を負わせ、その隙に逃げる方針に変える。あわよくば倒してしまいたいが。もうバフの残り時間は5分もないだろう。長期決戦は避けたい。


俺を見上げていたナーガが、体をぐぐっと曲げるのを見て短剣を構え、集中する。恐らくチャンスは、一度きり。


ナーガが俺めがけて跳んですぐに、俺も上に軽く跳んだ。少しの浮遊もすぐに終わり、重力に捕まる。そして落ちる先には、さっきまで俺がいた枝に大口を開けて食らいつこうとするナーガの頭。完璧だ。


振りかぶった短剣をヤツの右目に思いっきり突き刺した。ナーガが絶叫し、そのまま落下する。俺も一緒に地面に叩きつけられるが、突き刺した短剣は絶対に手放さない。バフの効果によって人間離れしている怪力でもって、さらに奥までねじ込んだ。ナーガが再度絶叫し、のたうち回るせいで俺は何度も頭を地面にぶつけ、意識が朦朧とし始める。短剣が骨に当たった。この先に脳があるはずだ。


「この、とっととくたばれや!」


最後の力を振り絞って右腕を押し込んだ。短剣が骨を砕いてその中身に刺さる。ナーガの動きが止まった。遅れて俺の体をとんでもない全能感が包み込む。この感覚は知っている。祝福だ。


……倒したんだ。俺1人で、Bランクの魔物を。俺は生き残れたんだ。


何か込みあがってくるものがあって、しばらく俺はそれに浸っていた。それにしても今回の祝福長かったな。もしかして2レべ上がったか?


祝福の成果はデカかった。俺は普段魔物を狩った後放置しているのだが、本来冒険者は狩った魔物の肉や鱗、種によっては内臓などを売って生計を立てるものだ。このナーガの鱗なんか絶対良いものだし、持って帰ろうと思った結果、俺はナーガの頭を背負って自分の体重の何倍も重い体を楽々引きずりながら村に帰ったのだった。


そして俺が森を抜けて帰ってきた今、村は大パニックである。……なんかごめん。



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