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動画アクション

作者: 藤乃花

動画を撮影して配信するのが趣味の畔並景くろなみケイの日課は、空き時間を使っての動画撮影。


彼女の撮影方法には個性的な動き方があり、撮影用のモバイルを空中に投げて狙い通りのモノを映像に収めるといった手法。


撮りたい景色の位置へモバイルを軽く放り投げ、かなりのタイミングで画面に収める事が出来て、落ちてくる位置まで自身が移動してキャッチする。


投げる高さが程よい所なので景の手に確実に戻る為、モバイルを地面に落とすなんていうミスをやらかす事なく全てクリア出来るのだ。


この日の動画撮影も上手くクリア出来、配信したそれへの評価が続々届いている。


「今回の撮影もまたまずまずかな……?

ぶれずにちゃんと撮れてる撮れてる♪」


景が撮影した動画は、森の木にある鳥の巣箱。


巣箱の穴から雛鳥が一瞬だけ顔を出すシーンがあるのだが、その映像がかなりのプロ並の腕なのだ。


「親鳥がいない間に雛の顔出し映像なんて……結構タイミング的にムズかったけど、成功成功っと♪」


アマチュアにしておくには勿体無いくらいの腕を持つ映像に対して、今日もコメントが見事に並ぶ。


〈毎回凄い動画を撮ってますね!

雛鳥メチャ、ヤバかわいいです♪〉


〈端末とか投げて動画を撮るなんて、スゴすぎ!

タイミングもあり得ないくらいピッタリで良すぎっす!〉


〈映像の狙い方、時間の選び方、どこをとっても非の打ち所がない……もはや動画の達人〉


評価は上々。


「んふっ……我が動画ながら、良い出来……でも……」


自室で煎餅を噛りながら動画の評価を楽しむ景だが、どうしても撮りたいモノがあるのだ。


―バリ……ッ―


煎餅の噛る音が効果音のように室内に響き、それとハモるように景の声も空間に墜ちる。


「駅外階段を下る野良トラ……あの子を撮りたい!」


―バリン!―


煎餅が再び効果音を強く響かせた。


『野良トラ』とは、野良の虎猫の事。


景の自宅の最寄り駅の外側にある階段を下って移動する虎猫がいるのだが、光の速さでの高速移動を行うのでその姿を景は動画に収めたいと過去に一度だけトライしていた。


モバイル投げなら速度を調節出来るが、逆は物理的に不可能な為、成功できていない。


モバイル落としとなると落ちる速度が速すぎて、階段を下る景の足では追い付かない。


しかも駅の利用客との接触リスクがある為、トライした日は思い通りに移動が出来ずにいたのだ。


景の中で強い後悔が渦を巻いている。


撮影をミスった事ではなく、利用客に不快な想いをさせた事をだ。


「ああ……いくら動画を撮るためとは云え、他者を危険な目に逢わせるわけにはいかない。

一度したけど……」


―シャリ……―             

咥えたままの煎餅から、湿気った効果音が床に落ちる。


〔体の不自由な人とか、視力の弱い人がいるんだから、駅とかで撮影は有り得ないっしょ!〕


クラスメイトの女子に云われた時、気が付いた。


動画を撮影する時は楽しむ気持ちばかりで、周りをいたわる気持ちが皆無だったのだ。


「むー……確かにあの行為は人として、つんでるよな……あ~あ」


マナー違反をおかしてまで動画を撮影するのは迷惑ユーチューバーと同じなので、景はそんな人間にはなりたくない。


けれどやはり、『野良トラ』を撮影したい気持ちは治まらない。


『駅外階段の野良トラ撮りたい……マジで!』


景は堪らず、ネットで野望を書き込んだ。


(何書いてんの、ワタシ。

ネットで書いても何も変わんないじゃん……ん⁉)


書き込んだ野望に、返事が書かれた。


『駅外階段の野良トラ知ってるよ!

あの野良トラちゃん、お客が途切れたほんの数秒を狙って出現するんだよね。

そんでワタシ、思い付いたんだけど―』


件の野良トラを知ってる人からの案を読み、景はなるほど……という顔を見せた。


『いちかばちかでトライしたら良いと思うよ!』


『良い案をあざっす!

明日早速、撮影挑んでみるね!』


翌日、景は人が途切れるタイミングを予め知っており、その時間帯に決めた配置でスタンバっていた。


景が居るのは、駅外階段の下のエリアだ。


(野良トラの気配……今だ!)


モバイルを階段の最上部分へ目掛けて投げ、ターゲットの野良トラを狙う。


野良トラが現れたタイミングとモバイルが最上部分に跳んだタイミングがピッタリ合った。


モバイルをチラ見したが、野良トラは気にせず光の速さで階段を駆け下りていく。


(モバイル投げなら得意中の得意っしょ!)


『景さんのモバイル投げなら、撮影出来ると思うよ。

落とす場合は落下速度が速すぎて追い付かないから、人に当たるしモバイルも壊れる可能性あるからね』


(書き込んでくれた人、ありがと!

野良トラバッチリ撮れてる♪)


駆け下りる野良トラと落下するモバイルのタイミングが上手く合っていて、綺麗に撮影出来ている。


投げたモバイルが景の手に戻り、野良トラも階段を下ると何処かへ走っていった。


映像を確認する。


「うっしゃああああ!」


作戦成功。


不可能かと思われた野良トラの動画が見事に撮れている。


「動画up!」


はしゃぐ景を影からコッソリ見ているのはネットで助言した人物……それは以前景を注意したクラスメイトの女子だった。


実は彼女も景のファンなのだが学園での堅物イメージを保つ為、内密にしているのだ。


(うっし!

ミッションクリア♪

後で動画観ようっと♪)


近くにファンがいるとも知らず、景は誰もいないと思いガッチリとガッツポーズを決めてくれた。


「モバイル投げ大成功!」



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