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第五十話  夏はお祭りに行くべし

前回までの、七兜山無免ローヤー!

 怪人を倒し、お寿司にありついた無免ローヤー。好き放題飲み食いし、いざ会計と家主を頼るも、手持ちのお金が足りなかった! 神崎には珍しい大ポカかな? 仕方がないので働くしかないよー。無免ローヤーは今日も戦う! 変身! 法に代わって、救済する!

「つまりは、訴権の濫用というわけだなあ、くだらない……終わりだよ、閉廷……! 消えろ……! はあああああっ……だあっ!」


「ぎゃァァァァァッ!」


 非弁ローヤーの法の刀が、怪人を切り裂いた。


 ドガアアアアアアン! 夜の暗闇を、爆発が押しのけ四散する。炎が空に紛れて消えると、怪人だった青年が、硬い舗装路に倒れた。「う、うぅ……」と弱々しく、地面に這いつくばるしかできない。


 それを見下ろす複眼は、ただ静かに、鈍く、光り輝いていた。


 〇


「まったく、すーっからかんになっちまいましたわねー! おほほほほほ! 宵越しの金は持たねぇってやつですわーっ!」


 副島魚織女生徒の店で労働に従事し、なんとか許してもらえた水去・神崎・守亜の三人は、バス代もないので徒歩で帰宅の徒にあった。夜の暗い坂をえっちらおっちら歩いて上っていく。たまに七兜ドライブウェイへとツーリングに向かうバイクが走り抜けるほかは、人の気もなく、まばらな街路灯がぽつぽつ立っているだけの山道である。守亜がどれだけ騒いでも、誰も困らない。


「みんな揃って仲良く文無しというわけだよなー。低みの平等!」


 水去も調子を合わせて答えていた。言っていることはとても情けないが。


「でもお寿司はとーっても気に入りましたわーっ。わたくしあんなの初めて食べましたわよー」


 守亜女生徒がくるくる回りながら愉快に言葉を続ける。


「確かに。俺も回らない寿司屋は初めてかもだ、結構緊張したし。スズキってあんなに柔らかいんだなぁ、って」


「大トロもすっげー柔らかかったですわよ! 水去さまも頼めばよかったですのに!」


「いやー、なんか、気おくれしちゃって……あー、遠慮せず頼めばよかったかもなぁ……」


「もう、なんですの、またわたくしと食べにいけばいいんですのよーっ! おーっほっほっほ!」


 珍しくよいモノを食べてテンションの高い水去と守亜である。ステップを踏み踏み、るらら♪ と楽しく坂を進んでゆく。が、そんな二人とは対照的に、家主の神崎八太郎君の方は、さっきから黙り込んでいた。


「どうした、神崎? 調子でも悪いのか?」


「お寿司、美味しくなかったんですのー?」


 前を歩く二人が振り返って彼に尋ねた。神崎青年は困ったように微笑んで答える。


「……いや、違うんだ、大丈夫。ちょっと、考え事をしてただけなんだ」


「ほお、考え事か。悩みがあるなら、この水去おにーさんに言ってみなさい。なんでも聞いてやるぞ」


 血糖値でも上がっているのか調子に乗った水去が、己の胸を叩いて妙なことをうそぶく。神崎は、おにーさんって……、と苦笑しつつ、ゆっくりと口を開いた。


「水去君、今日の戦い、すごく苦戦しただろ? 怪人商標権行使女に」


「ええっ俺のことか? いやー、まあ、そうかもしれんが……改めて指摘されると恥ずかしいな……」


 困惑する水去の眼を、神崎がじっと見つめた。七兜山の急坂で、水去たちの方が少し先に居るから、彼らを見上げるような構図になる。とぼける水去に対し、神崎は真剣な顔をして、話を続けた。


「包丁が刺さるなんて、びっくりしたよ。かなり、ヤバいんじゃないかって。その……キミはいつも、なんだかんだ言っても、勝つんだって思ってたから」


「ほーん、そうか? でも俺は駒っ……いや、怪人窃盗男戦じゃ、電撃でやられてるし、怪人痴漢男にもボコボコにされたからなー。ちょこちょこ負けてるぞ、俺は。……あー、法律戦士ってのはな、ちゃんと条文使えないと弱いんだよ。今日だって、お前が情報くれなきゃ勝てなかったよ」


 あくまで軽い調子の水去の言葉、それを否定するように、神崎は少し目を逸らした。暗い夜道では目立たないが、手は、拳を固く握りしめていた。


「本当は、ボクが先に説明しておくべき、だったんだろうね」


「む?」


「ボクが、最初に全部説明して、怪人の可能性があることも伝えておけば、キミはあんなに苦戦しなくて済んだんじゃないかい? キミだって、状況がちゃんと分かっていれば、あの、抗弁、とかいう反撃が、すぐにできたはずなんだ。ボクの説明が遅れたから、キミに迷惑をかけてしまった」


 予想外のしおらしい態度に、水去は困った顔をする。


「別に……そんなもん、気にしなくていいんじゃないのか? むしろ全然助かってるけどな。今回だって、お前が寿司屋に連れってってくれたおかげで、ちゃんと怪人を見つけて、倒せたわけだし」


「だけど、キミのサポートができたとは言い難いよ……」


 神崎は俯いた。


 しかし水去は、事も無げに、答えるのだった。


「サポートつってもなー、お前に怪人と戦う義務があるわけじゃなし、気に病む必要ないだろ。よく分からんが、ま、俺が勝手に無免ローヤーやってるだけなんだからさ、たまに怪人の噂とか聞きつけてきてくれりゃ、それで十分、充分……」


 無免許の法律戦士、水去律はへらっと笑い、また前を向いて歩き出した。いつもの彼流の誤魔化しである。


 しかしそのせいで、今までずっと無免ローヤーを追ってきた、この神崎青年の表情が……ほんの一瞬だけとはいえ、懊悩と苦渋で酷く歪んでしまったのには、少しも気づけなかったのだ。


 守亜は騒ぐ。


「あーっ、水去さま! でっけーさそり座を見つけましたわー!」


「ほう! どれ、どこかなっ?」


「あっちの空ですわ! 夏の大三角も見えますわよーっ!」


 アンタレスに、デネブ、ベガ、アルタイル。夜空に輝く星々は、己の質量だけで光を保つ。孤独だけを強さにする心だってあるだろう。けれど、大きな星座を描くとしたら、同じように光る他の星々が、きっと必要になるはず、なのに……


 空を見上げながら先へと進んでゆく水去の後を、神崎はそれでも追いかけるのであった。


 〇


 翌朝。


 水去がキッチンに立ったまま、プレーンヨーグルトにジャムをドカドカかけて食うという、それはそれで健康を害しそうなことをしていると、「おはようございますですわ~」と守亜女生徒が起き出してきた。見れば、寝ぼけ眼に大きな欠伸と乱れ髪。きゅっと絞った短パンのウエスト、そこにシャツの裾を突っ込んだスタイル。しどけないのに身体のラインが浮き出ていて、ちょっとドキドキする。胸元には「令嬢主義」とかいう、意味不明の文言がプリントされていた。


 キッチンに入ってきた彼女は、さっそくガラガラと冷凍室を開けて、チョコレートの棒アイスを引っ張り出す。袋を破りつつ、足で戸を閉じると、ガツガツ食い始めた。あら、まあ、なんてことでしょう! 淑女にあるまじきふしだら!


「あっ、朝っぱらから冷たいモン食って! 体に悪いですよ!」と水去がたしなめる。


「関係ありませんわ~。食べたいものは食べたい時に食べるんですのよ~」反論する守亜。


 キッチンの中で見つめ合う二人。


「あーじゃあ梨でも剥こうか? お中元か何かで神崎に送ってきた、かなり高そうなのがあるけど……」


「ふふーん、アイスの方が甘くって美味しいですわよ~、ほらほら~、水去さまも食べればいーじゃありませんか~。一口差し上げますわよ、(とろ)ける甘さですわよ~」


「う、くうっ……朝から……そんな誘惑には屈しないぃ……」


 チョコレートアイスを差し出し詰め寄ってくる守亜女生徒に圧倒され、シンクの縁に追い詰められた水去。キッチンという逃げ場のない空間にタジタジである。それでも身体を逸らせて抵抗を続けていると、ふと、ドゴンッ! という大きな物音がした。外で、壁に何かがぶつかったような……


「なんじゃろ?」


「なんですの?」


 なんとなく顔を合わせて首をかしげると、二人は靴をつっかけ様子を見に外へ出た。


 大空は快晴、降り注ぐ陽射しに、扉を開けて玄関を出た瞬間、二人の頭上を空気切り裂き、飛行物体が掠めて飛んだ! ドアに当たる直前で急旋回、庭を駆け抜けていく。 


 目で追いかけると庭先に、コントローラーのようなものを手にした神崎青年が立っていた。周囲には、車輪やキャタピラ、プロペラなんかの玩具が散らばっている。ラジコンだろうか。神崎の操作するヘリ型の機体がびゅんびゅん庭を飛び回る。随分高性能で、速度も十分、高級そうだ。


 どこで手に入れたんだろう?


 守亜女生徒が、はぇー、とアイス食べつつ眺めていれば、「ドローンっ……!」と低い唸り声が響いた。隣に立つ水去が呟いたらしい。守亜が見上げれば、頬が強張り、暗い(おり)の沸騰したような異常な視線が、(しか)と飛行物を凝視していた。眦がつり上がっている。剣幕。「……あれはただの、ラジコンヘリではございませんの?」彼女がそう尋ねると、一転して表情は穏やかに戻った。


「あっ、そ、そうだよな、ははっ。俺ちょっと変だったかな、ごめんね。あ、おーい神崎! お前それ何してんだー?」


 水去は声をかけつつ足早に神崎の方へ向かっていく。


「前に株主総会やった神崎玩具ってあるでしょー! そこがくれたから試してるんだよー! けっこー操作が難しくてー!」


 神崎も遠くから声を張り上げて答えた。


「なに? じゃあさっき家の壁で音がしたのもそれか! びっくりさせやがって! そんなもんはなあ、撃ち落としてやる!」


「はあーっ?」


 困惑する神崎に、水去は近くに積んであった戦車型のラジコンを引っ掴み、コントローラーを握った。「行けっ、鋼のムーンサルト、ラビットタンク! 撃てーっ!」戦車が向きを変えて敵を追い、砲身を仰角に向けると、射撃を開始する。「どこに兎がいるんですの?」守亜の疑問はもっともだが、これも高級品らしく、かなり本格的な弾が飛ぶのである。かっこいい。しかし、空を飛ぶヘリには命中しない。


「そんなの当たるわけないじゃん」


「おのれえええ! ならば戦力を追加だ! ビルドアップ! ラビットタンクスパークリング! イエイ、イエーイ!」


「意味が分かりませんわっ、なんで炭酸(スパークリング)なんですのーっ?」


 水去はコントローラーを並べ、二台の戦車を必死で動かすが、神崎の飛ばすヘリには及ばず、操作も訳が分からなくなってきた。ぐぬぬ……と、そこでさらに二台追加し、守亜女生徒に押し付ける。「こっちを頼む、ラビットタンクハザードと、タンクタンクだ!」「まーじでネーミングが理解不能ですわね! でも、全部わたくしにお任せくださいまし!」守亜はアイスの棒をガジガジとくわえ、二つどころか水去のコントローラーまで奪い取り、まとめて地面に並べた。


「ほえっ、ど、どうすんの⁉」と驚く水去。


「わたくし、並列操作は得意なんですの! 問題ありませんわー!」


 守亜女生徒が、たった十本の指でコントローラー四つに触れると、戦車たちはまるで生き物のように動き、それは見事な連携を見せて、ヘリを追い詰め始めた。四本の砲撃が着実に逃げ場を塞いでいく。


「うわっ、えっ?」


 神崎が悲鳴を上げた瞬間、ついに砲弾がポコンとヒット! ヘリはバランスを崩して推力を失う。これはまさしく、撃墜だっ! 


「ちょっ、待って、あああーっ!」


 神崎の叫び声と共に制御を失ったラジコンが、錐揉み回転して墜落を始めた。一直線に落下するのは庭の入り口・門の方向、さらにはなんということだ、よりにもよってその場所に、誰かが入って来ている!


「うおおあっ! そこの人、危なあぁぁあいっ!」


 ぶつかる!


 水去が必死で警告した瞬間、来訪者の腕が神速で動いた。と、同時にヘリが消えた。


 否、尋常ではない速度で墜落してきたラジコンヘリを掴み取ったのである!


「なにこれ?」


 超人的動作を見せ、ヘリを摘まみ上げているのは、やはりと言うべきか、今日も綺麗でちゃんとした服装をした、ステキなステキな前原天祢女生徒なのであった。


 〇


 前原女生徒が何故こんな朝から神崎邸を訪れたのか、それを手短に説明しよう。


〈難舵町夏祭りのステージにアイ♡ドル店員・AmaAmaは今年も出場せよ、さもなくば貴様の腕を奪う〉


 ということだ。……うん? どゆこと?


 しかしそう書いてあるんだから仕方ない。


 何に? 


 怪文書に。


「その……バイト先にこれが送られてきたの。ちょっと気になったから、律くんに見てもらおうと思って」


 小さなガーデンテーブルの向かいに座った前原が、出所不明の紙ぺら一枚を差し出す。新聞の字を一文字ずつ切り抜いて作られた、よくあるデザインの怪文書だった。……それにしても、新聞の中からよく「♡」なんて文字を見つけ出したものだ。わざわざ探したのだろうか? 律儀である。


 ところで一応おさらいしておくと、アイ♡ドル店員、AmaAmaとは、かつて無免ローヤーと怪人窃盗男が戦ったパチンコ屋、でバイトしている時の前原女生徒のこと。水去は等身大立て看板を見たことがあるだけだが、きゅるきゅるの制服に化粧濃い目であり、普段とのギャップがそれはそれで魅力的だったのを覚えている。


「ほほー、こりゃつまり脅迫状というわけですな。目的は恐喝、か、強要?」


「内容的に強要かな。普段ならそのままゴミ箱行きなんだけど、もし怪人だったら律くんに知らせなきゃって」


「あ、じゃあ俺が見てみましょう」


 そう言うと、水去は変身六法を取り出し、座ったままベルトにセットする。ヘンシン、光が溢れて無免ローヤーに変身した。複眼が怪文書を覗き込む。「ふーむ……わずかだけど、闇が燻ってるなぁ……」すぐに変身を解除すると、「ありがとう。これ作ったのは多分怪人です。教えてくれてすごく助かった! でもどうしようかな、俺はよく知らないんだけど、難舵町夏祭りってどんなの?」と続けた。


 前原女生徒は、はにかんで答える。


「普通の、公園でやってるお祭りかな。でも、日にちがお盆なんだよね。私は家が難舵町だから大丈夫なんだけど……律くんは帰省したりはしないの?」


「いや帰んない。俺、親から勘当されてるから……」


「勘当⁉ 律くんが⁉ どうして?」


「まあいろいろありまして……」


 そこで水去が誤魔化すように振り返って、庭の向こうでコントローラーを手に戦っている二人へ声をかけた。「そこのー! そういや君らは帰省とかせんのかー?」「えー? いや帰ったってつまんないだけだから今年はいいかなー!」「わたくし実家が存在しませんわよー!」「ええ……」ギューンギューン! と音がして、戦車がプロペラを撃墜した。また神崎の悲鳴が上がる。水去は再び前原に向き合った。


 腰を落ち着けて、もう少し詳しく事情を聞く。


 曰く、前原女生徒は昨年、一昨年と、パチンコ屋の地域貢献として、難舵町夏祭りの特設ステージにアイ♡ドル店員AmaAmaとして出ていたそうな。が、今年は店長に直訴し、プログラムから外してもらったところ、パチ屋に脅迫状が来たという状況である。今回も出場しろ! ということらしい。


「ふーむ、どうしようかなー。脅迫を無視したら、怪人がどう動くか読めないしな……」


「ステージ、すごく大変だから、あんまりやりたくはないんだけど、でも、律くんのためなら、やっぱり私が出てもいいよ? もともと屋台のバイトはするつもりだったから、お祭りには行くし」


「えっ、そりゃまあ、脅迫通りに前原さんが出演するとなれば、少なくとも怪人は見に来るのか……そこを叩けば……でも、いいんすか? 今年は出るつもりなかったって――」


「その代わり、私当日はたこ焼き屋の屋台をやってるから、律くんが食べに来てくれたら、嬉しいっ……!」


「おお! 行きます行きます! いやー、ありがとう! 助かるよ!」


「うん!」


 まとめると、怪人が前原女生徒に、AmaAmaとして祭りに出ろ! と脅迫状を寄こしてきた。捨て置くわけにもいかないし、さりとて犯人が誰かも分からない。仕方がないので前原女生徒は、ステージに出場してくれるらしい。こうやって怪人をおびき出し、無免ローヤーが撃破する、という計画だ。本当にこんなんで上手くいくのか甚だ疑問ではあるが、水去にも何やら「秘策」があるようだ。


 そんなこんなで水去は、数日後に開催される難舵町夏祭りへと赴くことになったのであった。

次回予告

忙しい! 引っ込め! 無神経! 第五十一話「心を込めて、歌います」 お楽しみに!

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