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第三十九話 ドキッ三人夏レジャー

前回までの、七兜山無免ローヤー!

 非弁ローヤーと模擬戦をやった無免ローヤー。一部の機能を使うのに、フォームチェンジ必須なのがバレてしまった。ちなみに戦績は、九十三戦して零勝九十一敗二分だったぞ、弱すぎる! 無免ローヤーは今日も戦う! 変身! 法に代わって、救済する!

「あの酔っ払い、とんでもないモン教えやがって……しかも結構使えそうな技なのが困る、げほっ、げほっ、あああ、まだ全身が痛い……」


 七兜山の上の方、終点、七兜ケーブル下のバス停にて二百三十円支払い降りてきた水去は、暗い山道で一人呟いた。


 先代無免ローヤーが教えたとある技、身体で覚えさせられたその技は、法律戦士をさらに「変身」させるものであった。できれば二度と使いたくない、しかし、いずれその技が必要になる時がくる、かもしれない、大変デンジャラスな力だった。心も体も、変わってしまうのである。


 その後、難舵町の洋食屋で網言ともども先代サマのご馳走になった彼は、さすがに疲労が激しく、交通費を惜しまずバスに乗って帰ってきたのだ。酒もたくさん飲まされて頭が痛い。神崎邸に向かう足取りは、著しくおぼつかなかった。


 しかし、先代のウザ絡みに耐え続けた収穫も、十分にあった。情報。店屋でハンバーグをむしりながら藤野女生徒がした話は、そのどれもが貴重かつ重要なものであった。闇に呑まれた怪人の暴走形態と、その末路。逆に、イリーガルローヤーに変身するリスクと、一年交代制の理由。へらへら顔を赤らめながらも、彼女が告げるのは、過ぎた力を扱うことへの厳然たる警告だった。


「こらーっ、ボーイズ! 目を逸らすなーっ! アタシの話を聞きなさいっ! いいかいっ、怪人なんてね、おかしいんだよっ! あんな超常的力が、何の代償もなく人間に使えるはずがないの!(ワインを一気飲みする)げぷっ……だから、短期間で怪人の力を使い過ぎると、魂と共に身体が崩壊して死ぬらしいよ! 強暴で凶悪な怪人ほど、放っておいたら自滅するんだーっ」


「何度も同じ話を繰り返さないでくださいよ……! 大体そんなこと、赤原教授は一言も言ってませんでしたけどねえ……!」網言が問いを投げかける。


「赤セン? あーっ、そうだね、アイツはあれで、アタシたちに責任を負わせたくないんだよ。知りすぎる罠にビビってんの! アタシもアタシの先代から聞いたしさーっ! まっ、死ぬほど闇に沈める怪人なんて、そうはいないみたいだけどさ! 暴走だってアタシは一回しか見たことないし!」


「あの……暴走ってどんな感じなんですか?」水去が尋ねる。


「人の形を保てなくなるっ! 完全に闇に乗っ取られて、意識もなくなってんじゃないの? まーっ怪物だね怪物! で、敵のことはどーでもいいんだっ! 大事なのはキミたちだよキミたち! キミたちだってねぇ、怪人に負けず劣らず無茶なことやってんだよっ?」


「話がとりとめもないなあ……!」網言が毒づく。


「法律戦士だっておかしいからね⁉ アーマー創って、剣とか銃とか出したりとか、魔法かよっ、って話。普通に無茶苦茶でしょっ? それに、怪人を倒した時の遡及的無効とか、あれ世界を自由に改変してるに等しいからね⁉ んな大それた力を、どーしてアタシらみたいな特別な修行もしてない人間が使えんのよって、疑問に思わないのかいーっ!」


「あー、ああー、それはそう……ヤバいっすよねー、ははっ」と水去。


「無免ローヤーが2L時だけの一年交代制になってるのはーっ、かなり心と体、魂を蝕むからって噂っ! 法律係数七十三で足切りしてもなお、一年しか耐えられないって言われてるねっ! 実際、怪人倒した後、結構身体にガクっとくるでしょ? 怪人の犯罪が大規模になればなるほど、それを無効にするのに力を使う。余裕ないからね? あんまり無暗矢鱈に力を振るわないよーに!」


「そうは言っても、力が必要になる時がある、アナタだって、戦ってきたんじゃないんですか……!」と網言。


「んんーっ(酒をあおる)まっ、徹夜が寿命削るったって、皆徹夜してるわけだしっ。怪人もアタシたちも、大事な人生をほいほいドブに捨てがちなのは、否定できないねーっ! あっ、アルコールもそうだっ、んふふふふふっ! ほらっ、キミたちも飲めっ、アタシの酒を飲めーっ!」


「す、凄い文脈で飲ませてくるっ。まあ、奢ってくれるんなら、いただきますけど。(酒を飲む)あっ、これ美味しい」と水去が肝臓の寿命を削る。


「瞬間瞬間を必死で生きるのって、美しいけど、危険だよねーっ! まあ偉そう言ってるアタシの年は、寒くなってからというもの、記録的なまでに出動回数が少なくなったから、ちょっとはマシなんだけど。冬以降なんであんなに怪人少なかったのかなー。優秀な学年だったのかなー?」


「怪人なんか、一人だっていたら駄目なんだ……! 撲滅しなければ……!(酒を飲む)」と網言も肝臓の寿命を削った。


「んふふふふふふっ! やる気があるのはいい事だーっ! でも今は、そのやる気はイラナイ。ほらほら可愛い後輩たち、辛気臭い顔してないで、もっとアタシを楽しませるんだっ! 指導料五千万円を返すと思って、接待しなよお接待―っ! 飲んで飲まれて酒に付き合うんだよおーっ!」


 そんなこんなで、愉快な食事会を終え、水去は難舵町から七兜山の上の方へと帰ってきたのである。蒸し暑い夏の夜、空気がじっとりと絡みつく。身体はふらふらであった。神崎邸に辿り着いた彼は、門をふらふら開けてふらふら閉め、庭をふらふら歩き、玄関の扉をふらふら開け、ふらふら靴を脱ぎ、ふらふらリビングに入る。


「た、ただいま……」


「まあっ、水去さま、ふらふらではありませんか! それに、シャツが汗でびっしょりですわ! これでは風邪を引いてしまいます! お着換えが必要ですわーっ、さあさあ脱いでくださいましっ!」


 守亜帝子の手が水去からシャツを剝ぎ取った。


「あー守亜さん、すまないねー、ありがと……まーじでしんどくて、あー、温泉でもいこうかなー」


「いいですわねっ、あら、ズボンも埃塗れですわーっ! お着換えしましょう! ベルト外しますわよー」


「あー守亜さん、すまないねー、ありがと――」


「ダメだよっ! 何させてんの律くんっ⁉」


「どわあああああっ、前原さんっ、何故ここに!」


「ズボン下ろしますわよー」


「ほああああああああっ!」


「きゃあああああああっ!」


「……コントでもやってんのかな?」


 リビングには、住人たる神崎と守亜、それから前原女生徒が来客していた。あっという間に身ぐるみを剥がされた水去は、三人の前で赤面した。


 〇


 温泉に行こう。


 どうしてそんな決定がされたのか、水去にも未だ理解できていないが、とにかく温泉に行くことになった。男女で温泉、妖しい響きだ。ほ、本当にいいのだろうか? しかしそういうことになったのである。


 一つ一つ確認してみよう。まず水去は「温泉でもいこうかなー」と口走った。で、ズボン下ろし事件を経て、何故か温泉に行こうという話になった。神崎は「いやー、ドッペルゲンガーの噂が学内で流行ってて、そっち調べたいからパス」と断った。結果、水去、前原、守亜の三人で温泉に行くことになった。


 は?


 まあ細かい事はいいのである。前原のバイトの関係で、行くのは二日後とされた。ビビった水去はメッセージアプリで駒沢を誘ったが、二日たっても既読すらつかなかった。なんだあいつは、いつもなら前原さんの名前を出せばすぐ食いついてくるのに。タイミングの悪いやつだ。


 ところで、前原女生徒はズボン下ろし事件の前日、すなわちローヤーブートキャンプ一日目の夜にも神崎邸を訪れていたらしい。試験終わったし、どこか遊びに行かない? と誘うつもりだったそうな。優しい。しかし水去は爆睡で彼女を迎えてしまった。


前原「律くん、何しても全然起きなかったから……」


守亜「めっちゃ寝てましたわーっ! ぐーすかぴーですわー!」


神崎「珍しくよく眠ってたよねー」


水去「し、失礼しました。普段あんまり眠れないから、一度深く眠ると寝すぎてしまうんだよな……せっかく来てくれたのに申し訳ない。誘ってくれて嬉しいよ」


 そんな風にして遊びに行くのが、本当に温泉でいいのかは分からない。


 水去はその昔、まだ高校生の頃、クラス遠足の行先を決めるホームルームの時間に、お調子者男子生徒がスパワールド行きたい! と提案して却下されたのを知っている。放課後、女子生徒たちは「生理とかあるの知らんのか!」と怒っていた。偶然それを耳にした高三水去は、なるほどそれもそうだな、と一つ賢くなったのである。


 しかし前原女生徒や守亜女生徒に、「生理とか大丈夫?」と聞けるほど彼は賢人ではなかった。聞いていいのか、聞くべきなのか、聞く必要があるのか、わ、分からんのだ。まあ、彼女らは水去ごときに気を使われるほど物を知らないわけでもないし、大丈夫なのだろう。加えて、日帰りだし男女が同じ風呂に入るわけじゃなし、温泉といっても健全健全、夏季休暇にちょっとした思い出をつくろうよ、という催しに違いない。


「お出かけですわっ♪ お出かけですわっ♪」


 当日の朝、早起きした水去は守亜と二人でおにぎりをつくり、ちょっとしたおかずをタッパーに詰めた。目的地は在熊温泉、七兜山を越えた先にある名湯の地である。難舵町から数駅移動した街から電車が走っているが、せっかくなのでピクニックがてら山を歩いて行こ! ということになり、それでお弁当を用意したのだ。


「水去さま、出発しますわよーっ!」


 守亜女生徒は白が基調のワンピースに、少しやぼったい籐を編んだバッグ、そうして鍔の大きな麦わら帽子を被っていた。別荘を訪れた昭和の令嬢のような格好である。とってもステキで綺麗なのだが、明らかに山を歩く服装ではない。水去はそれとなく指摘してみたのだが、「ご安心を! わたくし、山は得意ですのよ!」という返答が笑顔と共に戻ってきただけだった。とりあえず、それっぽい姿が、大きくて丸い眸によく似合ってはいる。


 じゃあ逆に水去はどうなんだというと、彼の服装は、いつものよれたシャツに、古びたジーンズ、汚れたスニーカー、背中には飲み物やら弁当やらタオルやらを入れたリュックサックと、大変冴えない格好であった。やはり駄目な男である。


 準備を終えた二人は、扉を開けて玄関を出る。午前の明るい日差しが彼らに降り注いだ。門の向こうに、すらりと立つ前原女生徒の姿が見えた。……遠目に見える彼女の姿は、きゅっと絞ったトップスに、細身の、ええと、しゅっとして爽やかなズボン、じゃなくて、ストレートパンツ、いや、裾の方は気持ち広がっている、のか? 分からない。それと、えー、歩きやすそうな靴、髪は後ろでキュッとくくられて涼やかで、あー、戦闘の邪魔になりにくそうなボディバッグみたいなのを身に着けており……残念ながら、水去のファッション観察力とファッション語彙力では、これ以上の描写はできないのである。とりあえず、こちらはこちらで、その明眸によく似合っていた。


 門前に立つ前原女生徒は、スマートフォンを片手に、何やら電話をしていた。庭を歩いてくる水去と守亜に気付いた彼女は、小さく手を振った。通信の秘密を厳格に守るべきか否か気になったが、別に彼女が嫌がる様子もなかったので、水去はさりげなく聞き耳を立てた。


 電話の中の声が前原女生徒に語り掛ける。


「結論から申し上げると、ご希望の日時への変更は可能です。ただ、黝舞の予定が既に埋まっておりまして、別の方を派遣することになるので、そちら護衛をお願いすることになるかと」


「えっと、どんな方ですか?」と前原が問う。


「なんと申し上げたらいいか、難しいんですが……その、燃えるユーカリを剣にして戦う二足歩行のコアラっぽい人間です。広義の魔法剣士ですね。戦闘力に関しては黝舞と遜色ないので、いつもの通り、依頼内容は護衛ですが、実際は共闘という形になるかと思います」


「背中を任せられるなら私は問題ありません」


「ご安心を。ああ、それと、この日程でしたら、銀食雄蟹ボル・ワイルダーではなく、群虫機甲種コログゼールの出現が予想されるのですが、戦闘経験などはございますでしょうか?」


「そうですね……似たようなのは遭遇したことあると思うんですけど、多分初めてです」


「承知しました。詳しいデータをメールでお送りしますので、一応ご確認をお願いします」


「分かりました」


「では当日は、弊社の鳴隈、あー、先程説明した燃やすコアラ野郎の社員ですね、鳴隈と私で午前九時にお迎えに上がりますね」


「はいっ、ありがとうございます」


「黝舞社をどうぞよろしくお願いします。では、失礼いたします」


 そこで電話は切れた。顔を上げた前原が、「えへへ、ちょっとバイトのことで」と、小さくはにかむ。水去の脳内では、ぐ、ぐんちゅうきこうしゅころぐぜーる⁉ と一般的なアルバイトではまず用いられない意味不明ワードが鳴り響いていたが、ぐっと抑えたのだった。た、多分ゲームかなんかのバイトなんだろう。そうに違いない! うむ!


 三人そろったので、水去たちは在熊温泉に向かって出発した。


 〇


 さて、神崎邸があり七兜大学がある、いわゆる「七兜山の上の方」と呼ばれる地域は、雄大なる七兜山の南側、その斜面にへばりつくようにして存在している。非常識な急坂とその得体の知れなさから、基本的にあんまり住みよい地域ではないのだが、難舵町まで下りれば電車があるし、そこから数駅行けば、かなりの規模の都市がある。したがって、完全に隔絶された未開の地というわけではない。七兜大生はこの地域について散々悪口を言うが、まだ人の住める場所なのである。


 一方、七兜山の山頂を越えて、その北側はいったいどうなっているのか。


 ひたすら山があり谷があり、山脈が続いている。


 そう、水去たちが住んでいる南側は、魔の七兜山においては序の口も序の口、北側こそが真の七兜山なのである。人々はこの場所について、畏敬を込めて「裏七兜」と呼んだ。よく語られる幽霊や妖怪や不審者の出没情報、あるいは霊験あらたかな伝説などは、全て表の話。裏においては、何も残されていない。誰もその地に足を踏み入れず、踏み入れた者は二度と帰ってこない。真の危険地帯は、その恐ろしさが語られることすらないのだ。魑魅魍魎の住む魔境か、あるいは、全ての生が絶えし死の世界か、いずれにせよ、裏七兜への道は、固く閉ざされている……


 というのは、ちょっと大袈裟な昔の話。というか半分嘘である。


 裏七兜がクソ田舎の未開地域なのに変わりはないが、山間部には古くから集落もある。そして何より、この地域には、歴史的な名湯、在熊温泉があるのだ。フツーの人気観光地である。難舵町から数駅行ったところの街からは、線路が山をぶち抜き、在熊温泉駅まで電車が走っている。それに、いわゆる「七兜山の上の方」地域においても、ケーブルカーが七兜ケーブル下駅から七兜山上駅まで走っており、そこから数キロ歩いて山頂を抜ければ、裏七兜に入ることもできるのだ。


 水去たちは、「七兜山の上の方」から山頂を通り、今度は山を下って、谷間にある在熊温泉へ向かうルートを計画している。山歩きでピクニック、かいた汗は温泉でさっぱり、という予定だ。帰りはゆっくり電車に乗るつもりである。ぶっちゃけ、そこまでちゃんとは考えていない。テキトーである。テキトーに裏七兜への侵入を決めたのだ。


 数刻後には、木々が幾本も薙ぎ倒されるような、それはそれは恐ろしいことが起きるとも知らずに……


 ホラー映画で真っ先に犠牲になるのは、大抵アホな大学生だ。水去たちは、大学生、というには少し齢を取っているかもしれないが、不用意ではあった。見映えのする女優たちが、無惨にも怪異の犠牲になる……そんなシーンには、前原・守亜の両女生徒はぴったりであろう。裏七兜に足を踏み入れた三人を待つのは何か!


 まーそこまで期待するほどのことは起きないだろうが、いずれにせよ、前原さんと守亜さんとのお出かけに、実は心拍数が上昇している水去青年であった。

次回予告

滑落! 猛獣! その姿! 第四十話「裏七兜温泉道中人熊伝」 お楽しみに!

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