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第三十七話 酔ってする真剣な会話

前回までの、七兜山無免ローヤー!

 怪人心神喪失男と戦う無免ローヤー。殴っても効かない相手に苦戦し、熱中症に追い詰められる! しかし先代無免ローヤーの助言を受け、何やら叫ぶ法律戦士たち。生えてきた爪は何なのか⁉ 無免ローヤーは今日も戦う! 変身! 法に代わって、救済する!

「「原因において自由な行為!」」


 法律戦士たちの言葉が七兜山に響いた瞬間、両の手に装着された法の籠手から、鋭利な爪状の刃が展開する。二人が腰を落として構えし攻撃方法は、斬撃刺突性能を備え威力を高めた法武装、すなわち、闇を引き裂く法の爪であった。天高く上る太陽の光を反射して、正義の輝きが怪人を竦める!


「さあ、法に代わって……」


 無免ローヤーがいつもの言葉を口にする。その隣で非弁ローヤーも、鈍く輝く複眼を敵に向けた。まるで処刑用BGMが流れ始めるかのような雰囲気の転向。それに気付いた怪人が、アルコールを揮発させるがごとく闇を噴き上げつつ、「のらァ~? 法に代わってェ、なんなのらッ~!」と問いをぶつける。


 対して、当代法律戦士たちは、力強く拳を握る!


「司法で裁けぬ悪と戦う……法を外れながら法を使う、それが、法律戦士だ……!」


「その通り、だから俺たちは言うんだ、この言葉をな……いくぜ、法に代わって!」


 怪人と戦うその意義は!


「……救済する!」無免ローヤーの救済!


「断罪する……!」非弁ローヤーの断罪!


 あ、ちょっとズレたーっ


 先代サマが、二人の決め台詞のタイミングが合ってないのを指摘した瞬間、ヒーローの背後、七兜山の頂で、火薬が爆発する。どうにもダサくて締まらない! しかしとにもかくにも、法律戦士たちは敵に向かって駆け出すのだ!


「お、おいらはァ、無敵なのらァ~! 心神喪失のおいらはァ、絶対負けないのらッ!」


「そういうわけにもいかんでしょ!」「罪には罰が必要だからなあ……!」


 無法ローヤーと非弁ローヤーが、同時に距離を詰める。迎撃に振るわれた怪人の腕を躱して、身をかがめた二人が限界まで肘を引き、強く一歩を踏み込む。刹那、大袈裟なほど大振りに、腰のしっかり入った二人のパンチが、低く、深く、怪人の腹部に突き刺さった。無法ローヤーの右手、非弁ローヤーの左手、それぞれに煌めく合計六本の法の爪が、膨れた闇を穿孔する。インパクト! 有効な手ごたえを感じて、更に前へ。少し遅れて伝達される衝撃が、怪人の全身を駆け巡り、その肉体を外力に従って撃ち出した。


「のおォオォらァアあアああああああアアアアアッ!」


 地面と平行に弾き飛ばされる怪人の叫び、水切りに投げられた石のように跳ねて、はるか先にて転がる。起き上がろうとした瞬間、腹部に穿ち開けられた裂け目から、アルコールに混じって闇が漏出した。「ああッ、穴なのらッ、ぶっすりイっちゃってるのらァ~!」混乱の中、両手で裂け目を塞ごうとする怪人心神喪失男。そこに歩を進めて近づいてくる法律戦士たち。形勢は一手で逆転した。


「確かに責任主義において、実行行為と責任能力の同時存在の原則が働く……しかしその例外として、結果行為の時点では責任能力がなかったとしても、心神喪失を招いた原因行為、その時点で責任能力が認められるなら、刑法三十九条の適用は排除される……! 原因において自由な行為の理論……!」


「うん! そういうことだ!」


 非弁ローヤーが敵に攻撃の根拠を示し、すかさず無免ローヤーが同調する(お前はホンマに分かっとるんか?)。……あんまりにもあんまりな説明なので、理解しやすいように、少し補足してみよう。


 責任主義によって、責任能力のない心神喪失の者には罪が成立しないのが原則である。とはいえ、それだけでは明らかに不当な場合があるのも明らかである。例えば


「あいつムカつくぜ、ぶっ殺してやりてえな。けど、刑務所行きも嫌だ……せや、酒飲みまくって心神喪失状態になってから、ボコボコにぶちのめして殺したったらええわ! 重度の酩酊で責任能力あれへんから、俺は捕まらへんのやーっ!(酒を飲む)」


 ……こんなんアカンに決まっているが、しかし、責任主義を厳格に貫けば、殺人罪の実行行為、すなわち殴り殺す行為の時点で責任能力が備わってなければならず、この男に殺人罪は成立しないことになってしまう。


 そこで、こうした問題に対処するのが、原因において自由な行為の理論である。そもそも責任主義というのは、「テメー人殺すのが悪いことって分かってたよな? 分かってんのに殺すって『決断』したんだよな? じゃあテメーは悪い奴だ! 処罰してやる!」というものであり、すなわち、意思決定に非難可能性があるからこそ処罰されるのである。であるならば、完全責任能力がある状態で、酒を飲みまくってから殴り殺したろ、という意思決定をした。その結果として、酔っぱらって殴り殺す、という行為が実現した。こう言える場合は、心神喪失状態で行った殺害行為についても、完全な責任を問うことができるのである。確かに殴り殺した時点では酩酊により自由ではなかったかもしれないけれど、酒を飲むという原因行為の時点では自由だったでしょ、だから罰しますよ、これが原因において自由な行為の理論である。(なので、最初から殺意がないといけない。例えば、居酒屋で酒を飲みまくって心神喪失状態になった後、知らんオッサンに絡まれてムカついたので殴り殺した、という場合、原因行為〈酒を飲む〉と結果行為〈殴って殺す〉が、殺したろ、という一つの意思決定によって貫かれているとは言えないので、刑法三十九条が適用され殺人罪は成立しない。もっとも、自分は酒を飲むと暴れる癖があるんだよね、と知りながら酒を飲んで人を殴り殺した場合、過失犯が成立する余地はある)


 これを怪人心神喪失男について見てみよう。確かに、今現在この怪人が暴れて暴行罪の実行行為に及んでいる時点では、酔っぱらって心神喪失状態にあるのかもしれない。しかし酔っぱらう原因となった生協での消毒液のがぶ飲み、この時点では怪人にも責任能力はあった。そしてこの怪人は「暴れてやる、暴れてやる」と、暴行の勢いをつけるために酒を飲んでいるのであるから、これはまさしく原因において自由な行為、処罰できるのである。


 以上、補足終わり!


 弾き飛ばされた怪人心神喪失男に対し、歩みを進め、目の前に立つ無免ローヤーと非弁ローヤー。彼らの法の籠手には、原因において自由な行為の理論によって形成された法の爪が、鋭く光っている。もはや、大勢は決した。けれども怪人は、闇を噴き上げ暴れ続ける。


「おいらはァ! おいらはァ! むうウウウゥてええエエエエェきいいイイイイィ!」


 巨大な肉体が大きく跳び上がり、重力を帯びて落下する。異常な衝撃、轟音と共に地面の舗装に大きな亀裂が走るが、法律戦士たちは僅かな移動をもって既に落下地点を離れていた。前後から挟んで軽やかに回転し、着地した怪人の肉体に斬撃を刻む。「のらあァアッ~⁉」怪人が敵を掴もうと腕を伸ばすが、身を翻して躱した非弁ローヤー、すぐさま足は地を踏みしめ、その法の爪が、怪人の体表を手首から上腕まで真っ直ぐ撫でて切り裂きつつ、懐に飛び込む。腹部に開いた傷への重撃。と同時に、背後から距離を詰めた無免ローヤーの攻撃が交錯。怪人を挟んですれ違う二人の法律戦士に、飛び散った闇とエタノールが撥ねる。


「むてッ、むてきィ、おいらはァ、むてきッ、むてきィイイイイ!」


 怪人心神喪失男は、傷口から血のごとく闇と消毒液を溢れさせながら、それでも戦意を失わない。


「酩酊による撤退判断の不能……それがお前の敗因だ……っ! 退き時を誤ったなあ……!」


 怪人の背後で非弁ローヤーが法の籠手を構える。


「心神喪失なればこそ、合理的な判断ができない、世の中そう上手くはいかない。何もかもジレンマだよなー」


 そう言いつつ、正面では無免ローヤーも、法の籠手を敵に向けた。


 七兜山の夏の陽射しが、法の爪を輝かせる。遠くで懸命に鳴いていた蝉たちが、何かを感じて静まりかえった。瞬間、法律戦士たちが駆け出す。責任主義を悪用せんと奸計めぐらす怪人に、加速した法の鎧が、迫る!


 法・爪・斬!


「のおォらああああアアアアアアァアアアアアッ!」


 無免ローヤーと非弁ローヤーの位置が入れ替わり、二人の動きが止まった瞬間、彼らの背後で、全身を断ち斬られた怪人が、断末魔を上げて倒れた。ドガアアアアアアアアアアン! 怪人の闇の肉体が、爆発した!


 それを確認して、すぐさま変身を解除した水去と網言も、耐えがたい暑熱に崩れ落ちた!


 〇


「酔っぱらって寝とる。まあ無事で何よりだけど、呑気じゃなー」


 日陰に移動して、先代サマが差し入れた冷たい缶ビールに口をつけつつ、水去が呟いた。


 彼がいるのは、本館入り口の庇の下。日光は遮られ、漏れ出てくるエアコンの冷気もあり、オアシスのように快適。目の前では怪人心神喪失男、いや、法科大学院の上村青年が、地面に転がったまま気持ちよさそうに眠っている。


 いわゆる時計台的な存在、まさに大学の顔とも言うべき場所で、座り込んで酒盛りしている水去、網言、先代サマ。その隣で大の字に寝ている上村青年。傍から見ればだいぶ無頼な光景であるが、周囲の学生たちの大半は法の拡声器で街へと出荷されていたので、別に困ることもなかった。


「馬鹿馬鹿しい……! 本当にくだらないなあ……!」網言が酒を喉に流し込んで言う。


「んふ! キミたちの雄姿、私はけっこう笑えたけどねーっ! はい乾杯、乾杯―っ!」


 先代無免ローヤーがアルコール飲料を高く掲げた。二人の当代法律戦士は呆れた眼差しで彼女を見ていたが、その数秒後、赤く火照っていた彼らの顔が、突如として青褪めた。奇妙な変化に、先代サマはニコニコ笑ったまま「?」と首を傾げる。


 そうやって黒髪の揺れる頭を、真上から骨ばった手がグワシと掴んだ。


「藤野ぉ……っ!」


「みょわひゃあああああああ!」


 先代サマ、いや、本名藤野! その藤野女生徒を掴んだ存在。それは……


 それはっ、赤原教授、であった!


「貴様、は、何を、やって、いる、のだ!」


 教授の手が女子大学院生の頭頂部を掴んで押さえつける、事も無げに繰り出されるハラスメント! まさに赤原!「やめてくださいいいやああああっ!」と先代無免ローヤーが悲鳴を上げ、「あわわわ、あ、あ、」と水去も呻き、「アカ、ハラ……!」と網言が言葉を繋いだ。


 赤原が上から抑圧していた手を離すと、先代無免ローヤー藤野女生徒は髪を振り乱して距離を取った。息が荒い。凄まじい形相である。水去青年はその総毛立つ光景に呑まれたのか、無意識のうちに拳を構えていた。網言青年は呆然と立ち尽くしている。


「貴様らは何を考えているのだ? 私には想像も及ばないほどの莫迦で無能なのか? 多数人に怪人の目撃を許し、さらには法律戦士の姿を晒し、力まで振るった挙句、怪人には苦戦し、倒したかと思えばその場で酒を飲み始める! ふざけるのもいい加減にしろ! そこに転がしてるのは、さっさと保健管理部門連れて行かんかーっ!」


「「「はいっ! はい! はいいい!」」」


 三人が全力で返事をして、素早く移動し上村青年を担ぎ上げようとする。そこに「待てっ! 藤野! お前はここに残れっ!」と赤原の声が響いた。先代サマが嫌そうに振り返る。水去と網言はそそくさと上村青年の肩に腕を回し、担ぎ上げた。自分らはさっさと離脱するが吉。そうやって、医務室へと向かう二人の耳には、「お前はまだ無免ローヤー関係の時は酒を飲んでいるのかっ! 法律戦士としては強い方だったのだから、いい加減にその酔わんと戦えん惰弱な精神をどうにか叩き直して――」と叱る赤原の声が、遠ざかりゆく振動となって聞こえていた。


 十分後。


 逃げ出すかどうか迷ったものの、さすがに責任を感じるので(ここでいう責任は法律上の責任ではなく道義的責任だ)、上村青年を医務室に預け、来た道を引き返す水去と網言。冷や汗なのか何なのかよく分からない雫が、額から頬にかけて流れて落ちる。二人が無言で歩を進めて、元居た場所に戻れば、赤原たちはやっぱりそこにいるのだった。後輩たち帰還に気付いた先代サマが、「もっと早く戻ってきてヨオ」と言わんばかりに、三白眼で半目で、非常に不満そうな視線を向ける。水去たちは目を逸らす……


「戻ってきたか、愚図ども。じゃあ話を続けよう。一つ言わせてもらうが、私はな、今、忙しいのだよ。分かるか? 忙しいんだっ! にもかかわらずお前らは手を掛けさせる! どうして粛々と戦いをこなせないのだっ! どうしてそんなに馬鹿なのだっ! 水去、相変わらずお前はカスだなあっ! 問題点を指摘する気にもならん! そして網言! お前も結局期待外れだったようだな! 怪人は一撃で倒すのが本来の在り方なのだっ! それができずに、何度も何度も攻撃を喰らわすというのは邪で弱い精神がある証拠だっ! 何を考えている……? カッコつけてるんじゃない! このゴミ虫! 低能! 法曹を志す者としてクズだお前はっ!」


 うだるような猛暑の中、三人に対してローテーションで、辛辣な説教と罵倒が続く。そうして、しばらくは落ち込んでいた水去が、次第に沸々と怒りを感じ、ついには握りしめた拳に傷害罪の故意が滲み出るようになった頃、やっと赤原の話は終わった。歩き去る後姿を見送り、ついにその背中が建物に消えた時、三人は静かに俯いた。


「……」無言の先代サマ。


「……っ!」嚇怒により頬が引きつっている網言。


 誰も何も言わない。仕方がないので水去が「あー……藤野先輩?」と、口を開いた。


「なに?」と先代。


「いえ、その」と水去。


「最初の方の赤センの話、聞こえてたんでしょ」と先代。


「ああ、いや、別に……」と水去。


「聞こえてたんだ。で、私が酒飲まなきゃ戦えない弱い人間だって言いたいわけ?」と先代。


「いやそんなことは」と水去。


「そんなことあるわよっ……! 笑えばいいじゃん、笑えよ、笑いなよっ!」と先代。


「こっちも笑えるような気分じゃないんですがねえ……! 別に僕は貴方の事情に興味はないんだ……!」と網言。


「そ、それはそれで極端というか、そこまで言わんでも」と水去。


「さっきからオロオロと、君は何がしたいんだ? そこにいる酒飲みの先代無免ローヤーを庇っているのかなあ……?」と網言。


「いや庇うとかね、そういうんじゃなくてね。悲しみを堪える人がいたら、そっと配慮するのが人間ってもんですよ」と水去。


「ば、ばかーっ!」と先代。


「ぐえええーっ! い、いきなり額にチョップしないでくださいっ!」と水去。


「うっ、う、うわーん! 後輩から、憐れみを受けるなんて、情けないぃーっ! うぅ……そうよ、私は無免ローヤーなのに、一年間、酒を飲まなきゃ怖くて戦えなかった女よ! だっておかしいじゃん! なんでロースクール入っただけなのに、怪人と命がけで戦わなきゃいけないのっ? なんで斬ったり撃ったり殴ったりしなきゃいけないの? そんなの絶対おかしいよおおおーっ! うえぇーん」と先代。


「あっ、あっ、えとっ、すみません。それはそうっ、そうですよね」と水去。


「人間には、戦わなければならない時が、あると思うんだけどなあ……!」と網言。


「そういう話じゃないと思うよ、網言くん!」と水去。


「うぅう……キミたちだって、どっか狂ってるよ! さっき見てたけど、正気のまま、なんであそこまで怪人を殴れるの……? なんで斬ったり刺したりできるの……? なんでっ……?」と先代。


「悪しき罪を犯した怪人は、断罪すべき、敵だからですよ……! 放っておくわけにはいかない。たとえ遡及的無効になるとしても、被害者が苦しんだ時間は、確かにあった。怪人の犯罪に苦しむ人が存在したという事実、それが、僕には許容できない……!」と網言。


「まあ、怪人的にも、踏み込みすぎる前に倒してあげた方がいいじゃないですか。あんまり罪を重ねると、もう後戻りできなくなります。本人の力じゃ、苦しみの中でも、決して止まれないでしょうし。とても傲慢で、無責任な意見だとは自覚してますけどね」と水去。


「おかしいよ……普通は、そこまで割り切れない! だって、戦う意義が無いでしょ! 被害者のため怪人のためって、そんなことが、自分の命や、攻撃する時の、あの嫌な感触を忘れることより、ずっと大事だって言うの……?」と先代。


「あー……いや、必ずしも俺は、善き戦いをしてるわけじゃないし……」と水去。


「僕は戦わなければならない……! 戦う理由がある……!」と網言。


「まあ、人にはいろんな事情がありますよね。少し、先輩とは置かれた立場が違うんだと思います。だから感覚がズレてくる」と水去。


「……そう……そうなんだ……分かった……つまらないことを聞いてごめんね。ありがとう……」と先代。


「にしても、君は、随分、怪人の肩を持つんだなあ……!」と網言。


「それが救済ということだろ。怪人だって人だ」と水去。


「怪人は、第一に敵だ! 倒すべき敵だ……! それを、忘れるな……!」と網言。


「忘れるどころか、そーゆー意識が大きくなりがちだからこそ、だろ」と水去。


「何が、言いたいのかなあ……!」と網言。


「怪人に対する怒りの気持ちも、死ぬほど理解できる。けど、そればっかりじゃ、もはや怪人と変わんなくなっちゃうぜ。せめて優しい正義のヒーローらしくありたいんだ、俺は。今だけでも、うわべだけでもさ」と水去。


「ふざけるなっ……!」と網言。


「ふざけてはいない。俺なりに考えた結果だ」と水去。


「甘いんだよ……! 認識と見通しがなあ……! 君だって、本当に何かを奪われた時、そんなことは言ってられなくなるはずだ……っ!」と網言。


「知ってる。全くもってその通りだ! 俺は嘘つきだなー」水去が哀し気に笑った。


 そこで、話は途切れた。どこからかテニスサークルらしき一段が集合して騒ぎ始め、移動を余儀なくされたからだ。法律戦士の変身者たちは、懲罰房に戻った。


 〇


「はああー……」


 法科大学院自習棟の地下、元々居た部屋に戻ると、先代無免ローヤーが深いため息をついた。「悪酔いしすぎた……なんで私あんなこと言っちゃったんだろ……」さっきまでの問答を深く後悔しているようであった。


「僕は、ぜひとも、酔っぱらったまま戦うための極意を教えてもらいたいですけどねえ、藤野サン……! 酔拳みたいで素晴らしいと思うなあ……!」


 網言がここぞとばかりに、散々振り回されたことに対する復讐戦をしかけ、煽っていく。水去は少し離れた場所で、不安そうにきょろきょろと視線を動かして、網言と先代サマを見つめていた。


 ふと、青褪めた表情で、先代サマが網言に近づく。足取りがおぼつかない。妖しげな雰囲気。網言が身構える。先代無免ローヤーが、網言の服を掴んだ。


 おええええええええええええ!


「なああああああああああああ!」


 先代サマ、嘔吐! 網言の服に盛大に嘔吐! 悲鳴を上げる網言正刀!


 とんでもない反撃であった。


 結局その日のローヤーブートキャンプは、部屋の掃除をして終了した。変身して戦った二人の疲労は濃く、三限目を開始すべきでないと先代サマが判断したこと、網言がブチギレを通り越してなんか泣きそうになってたこと、水去がした咳に血が混ざっていたこと、もういろいろとグチャグチャで全員嫌になっていたことなどを総合的に考慮した結果、明日に持ち越しという結論に至ったからである。


 そうして、まだ誰も帰ってない神崎邸に一人戻った水去は、太陽の落ちきらぬ夕刻ではあったが、静かにベッドに倒れ込んで、そのまま丸太のように眠ったのであった。

次回予告

ボコボコ! ギジ六法! できません! 第三十八話「キミちょっと変だね?」 お楽しみに!

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