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第三十六話 夏なんです暑いんです

前回までの、七兜山無免ローヤー!

 変身ポーズを披露したけど褒められなかった無免ローヤー。だが網言は褒められた。そうして一限目を終え、怪人出現、二限目が始まる。部屋を出て自習棟の中を駆けていく二人の法律戦士。無免ローヤーは今日も戦う! 変身! 法に代わって、救済する!

 懲罰房の地下を出て、夏の日差しの下に飛び出してきた無免ローヤーと非弁ローヤー。まず彼らの複眼に、声を上げながらウロウロする学生たちの姿が映った。さらには、建物の向こうに、狼煙のように空高く立ち上る闇が見える。


「なんだこりゃ、そこそこ大事になってるじゃねえか!」


「愚かだ……自分を守るための危機感もないのか……!」


 怪人は法を悪用する存在、基本的には目立たず行動しようとする者が多いし、変貌するのが七兜大学法科大学院生である以上、自らのホームグラウンドで暴れることは少ない。学校に絶望したからこそ外に出て行く。それに、大学なんぞで犯罪したって、そんなに得られるものもないのだ。


 だから構内で、それも一般学生たちの前で、白昼堂々怪人が姿を現すのは珍しいというか、水去たちも困る。当り前だが、彼らだってイリーガルローヤー、胸を張って戦える存在ではない。


 二人の法律戦士は、興奮している人々の間を抜け、騒動の中心に向かって駆けていく。大きな時計のある本館、経済・経営学部校舎を回り込んで、ちょうど大学の正面、正門から階段を上ってすぐの所にあるメイン広場に出た。試験期間終わりで、構内の学生数は普段より少ないものの、しかし、閑散としているわけではない。立ち上る闇を、遠巻きに取り囲むように人だかりができていた。「あーっ、また変なのが来た! なにしてるんですかー?」フレッシュな女生徒が法律戦士に気付いて、カン高い声で尋ねた。被害は見えない、ひとまず、人々を即座に避難させる緊急性はないようにも思われる。


「あ、えっと、映画サークル無法會というものです! 今、撮影用の着ぐるみの試着をやってまして。結構凝ってるでしょ、ははは……すみませーん、ただの準備なんで面白いものもないですよー、解散してくださーい」


 無免ローヤーがデタラメを言い、群衆に声をかけた。怪人の様子を確認したいが、人だかりで見えない、暴れたりしてないのか? 「邪魔だ退けっ……!」非弁ローヤーが強く言うが、群衆心理というのは異常なまでに強力である。へらへらして少しも恐れない。それどころか、法の鎧のクオリティのせいで、こっちも囲まれてしまった。仮にも本物なので、素人の作り物にしては関節部などができすぎている。


「消えてくれないかなあ……!」非弁ローヤーが腰の六法をめくった。


「お前っ、何やってんだっ!」ぎょっとする無免ローヤー。


「散らす……!」構わずに非弁ローヤーが条文に触れた。


【刑法一〇七条 多衆不解散!

 暴行又は脅迫をするため多衆が集合した場合において、権限のある公務員から解散の命令を三回以上受けたにもかかわらず、なお解散しなかったときは、首謀者は三年以下の拘禁刑に処し、その他の者は十万円以下の罰金に処する!】


 六法が光が溢れ、法の拡声器へと変わった。つまりはラッパ型の管楽器武器、メガホンである。突然の謎現象に周囲がどよめく中、非弁ローヤーは左手に拡声器を持ち、マスクに覆われた口元へと近づけて構える。そこに無免ローヤーが掴みかかった。


「人を巻き込むつもりか!」


「巻き込む? 違うなあ、僕はこの馬鹿共を客体として、力を振るう……!」


 間髪容れずに【解散せよ】と、非弁ローヤーの言葉が響いた。


 その瞬間、拡声器から青い烈風がいくつも飛び出し、人々を吹き上げる。法律戦士の放った攻撃は、そこにいた群衆全てを対象として効果を発揮した。威吹く烈風は、学生たちをふわふわ浮かせて、拘束したのである。そうして、竜巻が移動するように動き始め、大きな石階段を下って正門を越えると、ちょうど前に止まっていたバスに入り込んだ。そこで、非弁ローヤーの攻撃は終了する。ふわり、と各人がバスの座席に優しく着地させられた瞬間、後ろの扉が閉まって発車、群衆を街へと出荷するかのように、難舵町行のバスは走り出した。


 静かになった広場にいるのは、無免ローヤーと非弁ローヤー、そして、地面に倒れたまま闇を噴き上げている怪人だけ。ひゅーっと夏の熱い風が吹き抜けた。


「ほ、ほえ……?」状況を理解できない無免ローヤーが間抜けな声を上げる。


「わざと誤った使い方をして、出力を弱めた。僕がこの状況で、多衆不解散罪を本気で使うとでも思っていたのかなあ……? 構成要件に該当しないのは明らかだろう……!」


「い、いや、多衆不解散罪? とかあるんだな、そもそも知らんかった」


「……っ⁉ 馬鹿も大概にしてくれないかなあっ……!」


 法律戦士の法の力は、適切に扱わなければ効果を発揮しない。間違った条文を使えば、攻撃として成立しないのである。それを逆に利用して、非弁ローヤーは人々を安全に排除し、避難させたのだ。素晴らしい機転といえよう。……無免ローヤーたる水去は、そもそも刑法一〇七条を知らなかったようだが……まあ、くそマイナーな条文だからね……


 その時、「うわああああっ!」という悲鳴が響いた。振り返れば、ちょうど通りかかったのか、向こうに知間裕樹が立っていた。「おっ、知間!」無免ローヤーが手を上げ、「あれっ? お前、怪我してるじゃねえか! 大丈夫か⁉」と声をかける。そう、知間青年の腕や頭部には、包帯が巻かれていた。そういえば試験会場に、なんか白い人いるなあって思ってたけど、あれ知間だったのか……試験で頭ぐちゃぐちゃで、気づかなかった……水去は内心反省しつつ、かつて戦った相手に近づいていく。


 無免ローヤーの複眼が、太陽を反射してギラッと光った。その瞬間、また悲鳴が上がる。「うわああああっ! 来るな! もう僕のことは放っておいてくれっ!」「えっ……」拒絶された無免ローヤーは、足を止めてしまった。


 知間は、震えながら後退ると、そのまま背中を向けて、逃げるように走り去った。


「……」


 非弁ローヤーの複眼にも知間青年の姿は映っていた。しかし、無機質な眼差しからは、その裏に隠された、いかなる感情も読み取ることはできなかった。


「どーしたんだろ、あいつ。階段で躓いてヘタクリ落ちでもしたんかな?」


 無免ローヤーもまた、何一つ気づかないまま、不思議そうに呟く。


 七兜大学は山にへばりつくようにして存在しており、敷地内の高低差が激しい。だから少し移動するにも階段の上り下りを求められるのだが、これがどれもこれも古びた神社の石段みたいにボロい。しかも、掃除が為されておらず落ち葉が積もっていたりするため、ボーっと歩いていると転倒して大怪我をするのである。大変なBARRIER×BARRIERの優しくない大学なのだ。水去も以前、大きな蛾の交尾を見かけてそっちに意識が向いた瞬間、足を滑らせ死にそうになった。


 それはさておき、今向き合うべきは怪人である。闇を立ち昇らせ野次馬たちに囲まれて、しかし特段の被害も出ていなかった謎の敵。二人の法律戦士が目を向ければ、醜悪なその身体は、ごろりと大の字になって倒れているのであった。


 怪人が、寝ている……っ⁉


 腹周りが水でも溜めてるかのごとくブヨブヨ膨らんだ、実にだらしないその姿。少しも動く気配なく、法律戦士たちに見下ろされても、ピクリともしない。およそ怪人というものは犯罪衝動に突き動かされているはずだが、アイドリング状態というべきか、闇こそ放出しているもの、全くやる気と悲壮さに欠けていた。


「コイツ、何持ってんだ?」


 無免ローヤーが怪人の手に握られていた物に気付き、取り上げようとする。法の鎧に包まれた指が当該物件に触れた瞬間、怪人が動いた。


「ブぶブブぶブーッッッッウうウウウうウウ!」


「どわあああああああああああっ!」


 怪人の口から突如として、謎の液体が放たれた! 全身に攻撃を受けた無免ローヤーは、悲鳴を上げて跳び退く。透明な液体が法の鎧を流れた。「なんじゃこりゃああああ! エイリアンかっ! 強酸性のあれかっ! 溶けるっ! 溶けるーっ!」「煩いなあ……っ!」非弁ローヤーが敵に近づき、素早く所持品を奪い取る。よく見ればそれは、アルコール消毒液であった。店などで設置されている巨大なやつである。


「消毒用エタノール……君は法の鎧を殺菌されたみたいだな」非弁ローヤーが振り返って言う。「なんで消毒液で毒霧攻撃するんだよ。どういう怪人やねん……」無免ローヤーが呆れた声を漏らした。


 その時、おーい若きボーイズローヤーたちーっ! と、数分前散々浴びせられた声が響く。生協ショップのある方角から、先代無免ローヤーが軽やかに走って来た。手には新たに購入したのか、水滴の浮いた缶チューハイが握られている。


「生協の店員さんに聞いてきたよーっ! そこの倒れてるヤツ、店にやって来て突然変貌したかと思うと、客用の消毒液飲み始めたんだってーっ!」


「えっ、それはつまり」と無免ローヤー。


「この怪人はアルコールの作用で酩酊している……?」と非弁ローヤー。


「まったく、消毒液飲むなんて気が知れないねーっ! 怪人だから分解できるのかな?」


 先代サマがチューハイを喉に流し込みながら言った。真夏の昼間、太陽光が焼けるように熱く、空気は煮え立ち、冷えたお酒は実に美味そうである。さっきから変身しっぱなしの水去は、脱水と熱中症で頭がくらくらし始めていた。法の鎧に冷却機能などはないため、中は殺人的に暑い。非弁ローヤーも平気そうにしているが、おそらく鎧の中は地獄に違いない。早く騒動に決着をつけたいところである。


 先代無免ローヤーが靴の先で怪人をつついた。


「暑っつい日に出動させてくれちゃって、ホント酔っ払いってのはタチが悪いねーっ!」


「「……」」


 その時、怪人が身を起こした。


「あれれェ~おいらはァなにをやってるのらァ~?」呂律(ろれつ)が回っていない。


 無免ローヤーが、座り込んでいる怪人を見下ろす。


「お前は何の怪人だ? 何がしたいんだ? 早く答えなさい」


「おいらはァ~……あれェ? むめんろーやーってのがァ、二人に見えるのらぁ~?」


「二人いるからなあ……! 僕は非弁ローヤーだ……!」


 怪人は子どものように首を捻って周囲を見回す。そうして頭を抱えた。


「そんなァ~、二対一なんて、卑怯なのらぁ~! 酷いのらぁ~!」


 わんわん泣く怪人。あまりにも情けないというか、拍子抜けである。無免ローヤーはその前にしゃがみ込んで視線を合わせると、道端で酔っ払いに声をかける警察官のように言う。


「あのね、試合してるんじゃないんだよ。別にこっちは正々堂々一騎打ちする必要ないからね。まあ、多数当事者訴訟ってのもあるじゃん。そういうこったね」


「当事者? 君に務まるのは補助参加人くらいじゃないのかなあ……?」


 非弁ローヤーが口を挟む。挑発を受けた無免ローヤーは振り向いて相手を見上げる。


「あーん? 何だとー? このクソ暑い時に煽ってくるんじゃねーよ」


「せいぜい僕の行為に抵触しない程度に頑張ってくれ」


 無免ローヤーが立ち上がった。しかし非弁ローヤーは複眼を怪人に向けたまま、目を合わせようとしない。二人とも暑さで苛ついているのか、空気は最悪だった。「ちょっと、お二人さんーっ! こんな時に喧嘩は——」先代サマが仲裁に入りかけた瞬間、怪人の腹が爆ぜた。


「R―OHスプラッシュなのらッッッッ!」


 膨らんだ腹部からアルコールがウォーターカッターのごとく飛び出す! 非弁ローヤーは素早く跳んで躱し、逃げ遅れた無免ローヤーは先代サマの盾となって攻撃を受けた。


「あばれてやるのらァ~、あばれてやるのらァ~、こんな大学、おいらがメチャクチャにしてやるのらァ~!」


 怪人が立ち上がって、暗い声質で喚き散らした。先ほどまでとは打って変わって、危険を感じさせる闇が周囲を覆う。やはり怪人は怪人。醜悪な姿に堕ちて、法を悪用し、我欲を満たさんと力を振るう存在。法律戦士の倒すべき敵!


「痛って……あーっ! いくぞっ、網言!」「僕に命令するなっ……!」


 二人の法律戦士が同時に六法をめくり、条文に触れる!


【刑法二〇八条 暴行!

 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する!】


 それぞれの六法から光が溢れ、拳に定着すると、輝きは法の籠手を構成する。


 真っ先に非弁ローヤーが敵へ向かう!「はああっ!」拳を振るい、怪人を殴り飛ばした。怪人は宙を舞い、地面に落ちてバウンドし、転がる。しかしすぐに起き上がった。「そんなのォおいらにはァ効かないのらァ~」ブヨブヨと膨れた肉体が緩衝材となり、与えた打撃の威力が減衰されたのか? いや、それにしたってあまりにもダメージがなさすぎる。法の籠手での攻撃なのに……


 警戒するように非弁ローヤーがファイティングポーズをとった。無免ローヤーも構える。


「弾き潰してェやるのら~ッ!」


 怪人が腕を広げて駆け出した。思いのほか俊敏な動きでラリアットを仕掛けるが、二人は振るわれた両腕の下を素早く潜り抜けて躱す。瞬時に振り返って、敵の背中を同時に蹴り打つ。衝撃に押された怪人が無様に転ぶ。


 無免ローヤーが距離を詰め、起き上がった怪人の右腕を左手で掴み、空いた右拳で敵の腹部を殴打、殴打。手を放し、大きく踏み込んで怪人の顎に法の籠手を喰らわす。再び弾き飛ばされる怪人。地面を蹴って駆けてきた非弁ローヤーが、まだ慣性が残る敵の懐に潜り込み、至近距離で腹部を拳打、それも瞬間六発、怪人の身体が小刻みに揺れた後、強烈なアッパーカットが襲って、闇の身体がぶっ飛んだ。放物線を描いて、コンクリートの地面に墜ちる。


 それでも、何事も無かったように立ち上がる怪人。


「おい、どういうことだ! ここまで攻撃して全然効かないって!」


「消毒液を撒き散らして暴れる……暴行罪の構成要件を満たすと思うんだけどなあ……!」


 一方的に戦いを進めつつも、まるでダメージを与えられないことに困惑する二人の法律戦士。飛び掛かってきた怪人の攻撃を躱した瞬間、腹部からアルコールが噴き出して二人を襲う。水圧でバランスを崩したところを、怪人が突進で狙い撃ち、攻撃を受けた二つの鎧がガシャガシャ音を立てて転がる。すぐに体勢を戻して怪人を牽制するが、二人とも息が上がっていた。真夏の高温、灼熱の陽射しの中で体力的に削られるのはもちろん、どれだけ攻撃しても不気味なほどに効果がないことが、精神的な圧迫となっていた。


 怪人が両腕を上げて誇るように言う。


「おいらはァ無敵なのらァ~。どんな攻撃もォ効かないのらァ~!」


「なんでっ? ねえなんでっ? どーしてキミはそんな打たれ強いのっ?」


 無免ローヤーが素直に尋ねた。非弁ローヤーは呆れたように隣にいる共闘者を見るが、正面の怪人は腹の闇から消毒液を取り出して飲みつつ、「教えてやろォなのらァ~」と答えた。


「おいらは酔っぱらって心神喪失なのらァ~! 責任能力ないィのらァ~! 刑法三十九条一項でェ~、何をやってもォ、どんな罪もォ成立しないのらァ~」


 怪人が口元を拭いながら、己の状態を申告した。


「心神喪失だとっ⁉ 自分で言うなーっ!」無免ローヤーが怒りの声を上げる。


「酩酊による心神喪失、実行行為と責任能力の同時存在の原則……どうりで攻撃が効かないわけだ……!」非弁ローヤーが唸った。


 なぜ暴行罪による攻撃が通じないのか。


 犯罪が成立するには、行為が条文に定められた構成要件に該当しかつそれが違法であること、そして、そのような行為を行ったことについて責任がなければならない。責任とは、構成要件に該当する違法な行為を選択しないこともできたのに、あえてそれをした、そのことを非難できるということを意味する。逆に言えば、精神病なんかで訳が分からなくなっている人は、その行為が違法であると認識できないのだから、犯罪に及んでも非難できず、責任がない。よって罪も成立しない。自分の行為が人殺しであって、人殺しは悪いことであると認識できない人は、「人を殺すのはいけない」と思いとどまることもできないのであるから、そんな人を、お前は悪い奴だ! と断罪する意味はないし、できないのだ。責任なければ犯罪なし、これを責任主義という。


 そして目の前の怪人は、心神喪失であって責任能力がなく、責任はないと主張する。心神喪失とは、精神の障害によって弁識能力または制御能力がない状態をいう。要するに、この怪人は酒に酔って訳が分からなくなっているということだ。


「怪人心神喪失男……! それがお前の名前か……!」非弁ローヤーが声を低くして言う。


「うーん、怪人ってみんな心神耗弱くらいはしてると思うけどな。まさか責任無能力を自ら主張する奴がいるとは」無免ローヤーは呆れ返って首を振った。


 名前が分かったところで、現状を打破できるわけではない。怪人心神喪失男は、中身を飲み干したアルコール消毒液の容器を捨てると、突進攻撃を再開した。法律戦士たちは襲い来る闇の肉体を躱し、カウンターに拳を叩き込むが、ブヨブヨの体にはまるで効果がなかった。有効打がない以上、このままではジリ貧である。おそらく熱中症でくたばることになるだろう。実際、頭痛と吐き気でマトモに思考が働かない。


 そうやって苦戦する後輩たちを、先代無免ローヤーは独り酒盛りしながら眺めていたが、さすがに可哀そうになってきたのか、くいーっと一気に飲み干すと、空き缶を置いて声をかけた。


「お二人さーんっ! おねーさんがイイコト教えてあげよっかーっ?」


「い、いいこと⁉ 何ですかっ!」敵を張り倒しながら無免ローヤーが言う。


「その怪人、最初生協ショップにでた時にーっ、『こうなったらヤケだ、暴れてやる、暴れてやる』って言ってから消毒液飲み始めたらしいよーっ!」


 非弁ローヤーが大きく前に踏み込んでジャンプし、敵の頭部に法の籠手を叩き込んだ。怪人心神喪失男が弾き飛ばされて転がる。残身をゆっくりと解き、腕を戻した非弁ローヤーが、「そういうことか……!」と呟く。「えっ、どういうこと?」近くで無免ローヤーは間抜けな声を上げるが、すぐに何かに気付いて「あっ、そういうこと!」と勝手に独りごちた。


「おまえたちのォ攻撃なんかァ、ぜーんぜんッ、これっぽっちもォ意味ないのらァ~!」


 立ち上がった怪人心神喪失男が腕をグルグル回して言う。しかし対峙する二人の法律戦士は、さっきまでの焦りも消えて、泰然と並び立っていた。二人が静かに拳を構える。夏の七兜山で、燃える熱気が空間を揺らした。


「「原因において自由な行為!」」


 彼らが理論名を叫んだ瞬間、それぞれの法の籠手から、鋭く尖った三本の爪が飛び出して、キラリと正義の光を反射した。

次回予告

ジレンマ! 罵倒! 冷えた酒! 第三十七話「酔ってする真剣な会話」 お楽しみに!

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