第三十話 悪い大人を合理性審査
前回までの、七兜山無免ローヤー!
行政法フォームに変身した無免ローヤー! 行政訴訟の闘技場、そして、法の本棚とかいう大規模能力を披露し、正義の味方の魅力をアピールする! しかしこんな能力、ホントに役に立つのか? 無免ローヤーは今日も戦う! 変身! 法に代わって、救済する!
無免ローヤーが顕現させた法の本棚により、ナイター仕様となった行政訴訟の闘技場。その観客席では、舞台に立つ無免ローヤーと怪人を見下ろして、不良高校生たちが歓声と罵声をあげ盛り上がっていた。渦巻く観客たちの熱気を統率するため、観客席最上部に設けられた放送席にて、一人の少年がマイクを握って喚いている。
「校庭に突然現れた謎の闘技場! そして空を覆いつくす大量の本棚! 真昼間なのに真っ暗で、刮目刮目、光があるのはまさにここだけ! 慮外千万、瞠若驚嘆、驚天動地の吃驚仰天! 意味不明の謎現象が本校を襲う中、今始まろうとしているのは、誰だかよく分かんない二人の男による決闘! 実況は、難舵北高校一年、舌先八寸の小坂が担当いたします!」
引っ込め―っ! と歓声が上がり、放送席に向かって空き缶やらエロ本やらが投げつけられる。うわー治安悪……と、その時、放送席から堂島が顔を出した。鋭い視線が群衆を射竦めた瞬間、声が止み、観客席に秩序が戻る。さすがは不良どものボス、番長である。
「えー、ごほんごほん、解説には、三年生にして難舵北高校番長、堂島さんに来ていただいております! 堂島さん、今回の決闘、どう見られますか?」
「どうでもいい、勝った奴を俺がぶっ殺す……!」
堂島のコメントと共に、観客席から罵声と拍手が沸き起こって、再び活気が戻った。そうして今度は石やらナイフやら手投げ爆弾やらが飛んでくるので、堂島自らメリケンサックで弾き返す。観客たちは大騒ぎ。小坂少年が、頼もしいですね! ありがとうございます! と言葉を続けた。
「さあさあ、まだまだゲストに来ていただいておりますよ! 紹介しましょう! 最強の二年生、血の桜襲、赤井桜さんです!」
赤井が放送席から顔を出す、男性陣の下卑た野次と、女性陣の黄色い歓声が観客席を包んだ。「今回の決闘者の一人、ええと、無免ローヤーは、桜さんが連れてきたそうですが」小坂が堂島の隣に座った赤井女生徒に尋ねる。赤井は長い脚を優雅に組んで、「気安く名前を呼ぶんじゃないよ」と、小坂のアプローチを切って落とした。彼女の声がマイクに乗ると、観客席で一際大きな歓声が上がる。「アタシだって知らないんだ。師匠から連れてけって言われただけだからね」「ということは、何も分からないということでしょうか!」「そうだね……」赤井が悔しそうにうなずく。それに対し、無知無知が―っ! と誰かが野次った。瞬間、観客席で発砲があって、叫んでた奴が倒れる。ガイシャは鎖で縛られ、外に引きずり出されていった。
小坂が観客たちを諫めてから、再びマイクのスイッチを入れる。
「えー、ではでは、やはりこの人をお呼びするしかありません。舞台の上の無免ローヤー……鎧男の方ですね、その無免ローヤーと共にわが校に現れた謎のイケメン、神崎八太郎さんです! どうぞ!」
神崎がにっこり笑って放送席から顔を出すと、まず男性陣の罵声が彼を迎える。その後、じわじわと女性陣の黄色い声が増えていって、いつの間にか汚い男の罵声を塗り潰した。
「神崎さんは七兜大学の二年生なんだそうです。それでですね、あの、一体今、本校に何が起きているのでしょうか?」小坂がもっともな疑問をぶつけた。
「んー、ボクにもよく分かんないね」神崎は無責任に微笑む。
「わ、分かんない、ですか……えーと、舞台の上の、あの二人は何者なんでしょうか……?」
小坂は困惑しつつも、情報を観客に届けようと試みる。堂島と赤井も、横に座る神崎の方を睨んだ。アウェーな空気に神崎はちょっと肩をすくめて、マイクに顔を寄せた。
「鎧を身に纏ってる方、あれが水去律で無免ローヤー。ボクの相棒さ。そして闇を纏っているのは怪人。無免ローヤーは正義の味方として、法を悪用し暴れる怪人と戦ってる。今日ボクらがここに来たのも、難舵北高校に怪人が潜伏している疑いがあったから。結果としてはビンゴ、で、戦いが始まったってわけだね。この闘技場とか本棚も、無免ローヤーの力なんじゃないかな。ボクも初めて見るけど」
神崎の解説に、群衆がどよめく。多分話はマトモに聞いてないのだけど、ノリで盛り上がっているのだ。面白いので神崎がなんとなく手を振ると、一人の女生徒が失神して、救護班に連れていかれた(お前はファブフォーの一人か何かか?)。舞台では、いよいよヒーローと怪人がぶつかろうとしている。
小坂少年はこのカオスになお立ち向かい、マイクを握った。
「な、なるほど。大体分かった……というわけにはいきませんが、仕方ありません。さあ、いよいよ勝負が始まろうとしております! 無免ローヤーVS怪人宗教利用男。難舵北高校の歴史に残るであろう、部外者による謎の一戦、その火蓋が、今まさに切られようとしております!」
小坂の煽りを受けて、高校生たちの歓声が、闘技場を覆いつくした。
「あっ、ちなみに、勝敗予想は東側観客席後方で受け付けております。ナニとは言いませんが、もうすぐ締め切りますので勝負したい方はお早めに!」
〇
「こらーっ! 俺の目の前で堂々と賭博すなーっ!」
放送席の解説に耳を傾けていた無免ローヤーが、賭博罪および賭博場開帳等図利罪の実行を止めさせようと、舞台から東側観客席後方に向かって叫んだ。しかしヒーローの説教は、生徒たちの自分勝手な話し声に塗り潰され、届くことはなかった。
「な、何なんだァ、これはァ!」怪人が周囲を見回して、呆れた声を漏らす。
「うーん、俺たちが思うより、彼ら彼女らはしたたかだった、ってことかもな。転んでもタダでは起きない不良かな、ってとこか。まあ、俺のやることは変わらん」
無免ローヤーはそう言って、そのままサラッと生徒手帳の記載に触れた。
【難舵北高等学校学則三十一条
校長は、次の各号のいずれかに該当する学生には、退学を命ずることができる!
一号 性行不良で改善の見込みがないと認められる者。
二号 学業劣等で成業の見込みがないと認められる者。
三号 正当な事由なくて出席が正常でない者。
四号 学校の秩序を乱し、その他学生としての本分に反した者。】
生徒手帳から溢れた光が、金色の文字となって闘技場上空に浮かぶ。暗闇の中に条文が輝く幻想的な光景に、観客席で、おおお、と声が湧き立った。
「どういうつもりだァ……?」怪人が上空を見上げて言う。
「退学処分の根拠になりそうなのはこれだろ? まあ、まだ法令かどうか分からんけどな。それを明らかにするための、法の本棚だ。スゲー便利だから見てなよ、いくぜ、無免ローヤーが命ずる、難舵北高等学校学則三十一条の委任関係を明らかにせよ! 法の本棚、検索開始!」
無免ローヤーの声が空に響いた瞬間、上空の本棚がヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンと小気味よい音を立て、大移動を始める。高速で整理され、弾き出された二冊の本が無免ローヤーの前に飛んできた。目の前でふわふわ浮かぶ本を開けば、中から三つの条文が飛び出す!
【地方自治法一三八条の四
一項 普通地方公共団体にその執行機関として普通地方公共団体の長の外、法律の定めるところにより、委員会又は委員を置く!】
【地方自治法一八〇条の五
執行機関として法律の定めるところにより普通地方公共団体に置かなければならない委員会及び委員は、左の通りである!
一号 教育委員会
二号 選挙管理委員会
三号 人事委員会又は人事委員会を置かない普通地方公共団体にあつては公平委員会
四号 監査委員】
【地方教育行政の組織および運営に関する法律三十三条 学校等の管理!
一項 教育委員会は、法令又は条例に違反しない限りにおいて、その所管に属する学校その他の教育機関の施設、設備、組織編制、教育課程、教材の取扱いその他の管理運営の基本的事項について、必要な教育委員会規則を定めるものとする。この場合において、当該教育委員会規則で定めようとする事項のうち、その実施のためには新たに予算を伴うこととなるものについては、教育委員会は、あらかじめ当該地方公共団体の長に協議しなければならない!】
条文たちは輝きを放ちながら、空に浮かび上がり、難舵北高等学校学則三十一条の周囲を衛星のように取り巻いた。
「ほーん、なるほどなるほど、教育委員会規則ね。法律の委任を受けた立派な法令だったんじゃーん」無免ローヤーが感心したように頷いた。
――――以下、しばらく法律の話になるので読み飛ばしてOK――――
一体全体、彼が何に感心しているのか、少し説明しよう。
誰かを退学に処す、という行為は、学生が学校に在籍する法的地位を剝奪する法効果を有するものである。もう少し噛み砕いた表現をするなら、学校を辞めさせられるというのは生徒にとってトンデモナイ不利益である、ということだ。こういうトンデモナイ不利益を相手に与える行為を行政がするには、法律に根拠がなければならない。これを法律の留保原則という。
例えば、ある高校に、すごく横暴で性格が悪くて器の小さいゴミみたいな教師であるA先生がいたとしよう。ある日、A先生の授業を受けていたB君が、あくびをしてしまった。A先生は器が小さいので当然ブチギレ。顔を真っ赤にしてプルプル拳を震わせ、「B! 私の授業であくびするとは何事かっ! 貴様なんか退学だっ!」と叫び、B君を学校から追い出してしまった。どうなるか。
当然、そんな無茶苦茶な方法による退学は許されない。A先生が、「いや、私のクラスのルールは私が決めるっ! 私がルールだっ! あくびなんかする生徒は退学と、私が決めたんだっ!」と主張しても、そんな法律でもなんでもないマイ・ルールに基づく退学処分は認められないのである。(まあ直感的にも、これ認めたらヤバい、というのは分かる)
えっじゃあ、難舵北高等学校学則も、法律じゃないマイ・ルールなんじゃないの? という疑問があるかもしれない。これについて、法の本棚が弾き出した結果によると、「地方教育行政の組織および運営に関する法律」という法律の三十三条が、教育委員会に規則を定めていいよ、と委任している。その委任を受けて退学処分について定めたのが、教育委員会規則としての難舵北高等学校学則三十一条なのだ。最終的には法律に根拠があるから、根拠法令のある処分として、法律の留保原則は満たされるのである。(ここで、さらに踏み込んで、なら教育委員会が「教師は生徒を自由に退学させることができる」みたいな規則を作ったら、A先生は悪逆非道を尽くせるのか? と考えた人がいるかもしれない。結論としては、そんな規則を作ることはできない。法令である学校教育法施行規則二十六条二項が「懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長が行う。」と定めているからである。これに反して、一教師に退学処分の権限を与える教育委員会規則を作ることはできない。じゃあA先生が校長だったらいいのか? 学校教育法施行規則二十六条一項が「校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない」と定めているので、自由に退学させることができる、なんて規則は基本ダメだと思われる。そして、これから無免ローヤーが論じる予定の、裁量判断の合理性審査の段階においてもA校長の判断はアウトになるだろう)
このように、難舵北高等学校学則十三条が、退学処分の根拠となる法令であることを明らかにするため、無免ローヤーは法の本棚を顕現させ、委任関係を検索したのだった。……いや、この委任関係を調べるの、バカな法科大学院生にはメチャメチャ面倒な作業なのである。「地方教育行政の組織および運営に関する法律」なんて、そんなん知らねえよ! となるのが普通なので……それを、法の本棚というチートを使って、一瞬で明らかにできたのだから、その便利さに感心するのも無理はないのだ。
(こんなつまらん説明を最後まで読んだキミは偉いっ! でも、説明の正しさは保証できません。もし間違ったこと言ってたら……ごめんね、許してちゃぶだい)
――――以上、法律の話終わり――――
さて、退学処分の取消訴訟で争うにあたって、その根拠法令が明らかになった。闘技場には複数の条文が輝いている。
「いやー、ずっと俺のターンですまんかったな。もうちょっと俺のターンだけどな。で、今回、試験を拒否したってんで、学則三十一条二号が問題になると思うけど、かなり抽象的な文言だし、生徒の事情に則して決定すべき事柄だから、実情に通暁した校長に判断させる趣旨だと思うんだわ。というわけで、校長には裁量権が認められると考える」
「ま、まァ、反論はないィ……!」怪人がしびれを切らしたように唸る。
「じゃ、やっと舞台は整った。裁量権があるとして、その逸脱濫用がなかったか、裁量判断の合理性審査の点で勝負しようか」
無免ローヤーがそう言って、頭上を見上げ手を伸ばす。すると、空に浮かんだ難舵北高等学校学則三十一条が輝きを増し、二振りの石剣を吐き出した。空気を切り裂き回転しながら舞う武器は、それぞれ、剣闘士たる無免ローヤーと怪人宗教利用男の前に落ちて、地面に突き刺さる。砂ぼこりが舞い、闘技場の床に二つのひび割れが走った。
無免ローヤーが剣の柄を握って、よいしょっ、と重そうに引き抜く。
「お前も抜けよ。合理の剣だ。主張をぶつけ合って、剣が砕けたら負け。誰でも視覚的に理解できる。せっかく闘技場なんだからな、分かりやすく、サクサクいこうぜ」
「い、いいだろゥ……」
怪人は、宗教のファルチェを虚空に消し、合理の剣を引き抜いた。ゆっくりと、両刃の凶器を、敵に向ける。しかし、どこかキレがないようにも感じる動きだ。
「いくぞっ! いざ、勝負っ!」
「ぐううゥ……!」
ごちゃごちゃした法律議論の準備を経て、ついに、舞台上の剣闘士たちが、剣を手にして動き出した!
〇
「さあ、何かよく分からない剣を握り、両者が動き出しました!」
放送席で小坂少年が叫んだ。その視線の先、行政訴訟の闘技場舞台では、無免ローヤーが地面を蹴り、剣を振りかぶった。
「進級規定としても、試験を受けなきゃ単位が出ず、退学になるのは当然!」
大袈裟な正面打ちが真っ直ぐ弧を描く。対して怪人は、攻撃を受け止めつつ、そのまま身体を低く落として威力を流し、「信教の自由にィ対するゥ相応の考慮を払う必要はあるッ!」と反論しつつ、反撃の剣を振るう。無免ローヤーは後ろに引いて距離を取りつつ攻撃を払った。双方の剣先が、重い衝撃音を打ち鳴らす。
「おおっと、一瞬の攻防! 重そうな剣を振り回しながら、何やら議論が始まっております!」と小坂の解説。
「戦いながら喋って、よく舌噛まないね」と赤井。
「あいつら、喧嘩をなめてんのか……! こんな奴らが、俺を……!」と堂島。
無免ローヤーが、また愚直に合理の剣を振り上げ、敵に向かっていく。「そんなテキトーな宗教が認められるかあ!」と乱暴に剣を振り下ろした。それに対し、「よく調べもォせずにィ何故そんなァ判断できるんだろうなァ?」と反論して、怪人の剣が衝突。双方の刃が欠けて破片が舞う。「宗教について踏み込んで調べれば、学校の宗教的中立性を害するおそれがあるからだ!」無免ローヤーが再反論、相手を振り払うように横薙ぎの一閃。しかしそれより早く怪人が踏み込んで、「公教育のォ宗教的中立性にィ反しない程度の調査は可能だァ!」と、剣ごと体躯をぶつけていく。衝撃で後方に重心が移り、姿勢が崩れた無免ローヤー。その肩口を刃が襲うが、無免ローヤーは武器を正中線に戻す動きの中、柄で攻撃を防いだ。怪人の剣が地面にあたって火花が舞い散る。
「特定の宗教の援助、助長、促進に該当するおそれもある!」
「試験のォ許否はァ宗教的行事ではないッ!」
下から掬い上げるように伸びる剣を、無免ローヤーが抑え込むように防ぐ。しかし怪人の勢いは削がれない。
「他の宗教やァ無宗教者にィ、圧迫干渉を加える効果もないィ!」
「おおおお⁉」
無免ローヤーの足が地面からふわりと浮き上がる。その瞬間、怪人の石剣が天に向かって振るわれ、剣ごと無免ローヤーを吹き飛ばした。ヒーローは弧を描いて宙を舞い、そのまま重力に従って地に落ちる。法の鎧がベシャッと音を立てた。
「ああっと! 動きません! 背中から落ちた無免ローヤー! 完全に沈・黙っ!」
「受け身もとれねえのか、あいつ……!」
「ホント、強いんだか弱いんだか分かんないヤツだね」
観客席で激しいブーイングが起きる。無免ローヤーと怪人による合理の剣のぶつけ合いは、はっきり言って地味だった。広い闘技場でごちゃごちゃ言いながら、カンカンやってるだけだからである。実際、裁量判断の合理性審査というのは、まさしく行政庁の判断が、どういう事情を考慮し、どういう事情を考慮しなかったのか、論理的整合性のある理由付けがされているかなどを争うものなので、そんな華々しい法律論が展開されるわけではない。地道に相手の論理のおかしな部分を指摘していく作業なのである。
さっきから、無免ローヤーは眠ったように動かないまま、複眼は虚空を見つめている。まさか、ちょっと背中を打っただけでやられてしまったのか……?
怪人が地面を蹴って跳び上がり、倒れたままの無免ローヤーを襲う! 空中にて、尖った剣先が法の鎧に向き、真っ直ぐに刺し落ちてくる!
「ま、ヒーローってのは、一回ピンチに陥るのがお約束らしいからね。そうなんだろ? 水去君……」
放送席で神崎がそう呟いた。その声が拡声器にのって闘技場に響いた瞬間、無免ローヤーの複眼に光が戻る。上から迫って来る怪人を、「真摯な拒否っ!」と叫んで薙ぎ払った。拒絶され弾き飛ばされた怪人がごろごろ転がる。無免ローヤーは、剣を振った勢いのまま拳で地面を叩き、その衝撃でふわりと浮き上がりつつプロペラのように一回転して着地、姿勢を整え素早く剣を構えた。まるでワイヤーアクションのようなあり得ない挙動に、観客席でいろんな声が上がる。
「おい、どーなってんだあいつ……!」堂島が机に拳を振り下ろして言う。
「ふふっ……あれが無免ローヤーだよ」神崎は吹き出しながら質問に答えた。
闇を撒き散らして立ち上がった怪人と、無免ローヤーが向かい合い、剣を向けたままゆっくりと間合いを詰めてゆく。はやくやれーっ、と観客席から石が投げ入れられ、近くでコツンと音が鳴った瞬間、双方が動いた。
「相応のォ、考慮を払えェ!」
「お前の主張する拒否は、真摯とは言えない!」
合理の剣が打ち合わされて、鍔迫り合う。振るわれる力の衝突に、両者の間で火花が散った。力のぶつかり合いの中で、闘技場の空間が揺らめく。
「お前の主張は、代替措置の提示もなく、ただ試験拒否だけを求めるもの!」
「何故そんなことがァ断言できるゥ!」怪人が叫んだ。
「授業態度に鑑みて、補講やレポート提出、課題などの代替措置をとったところで、それが生徒によって実行される様子はない! 代替措置を仮に実施したところで、専門の学芸の教授や、職業に必要な能力の育成が達成できる見込みはなく、依然として学業劣等で成業の見込みがないと言えるままだ!」
無免ローヤーの石剣が、敵の剣を押し込んでいく。
「お前の主張は、試験の拒否に固執している! 代替措置を示すこともなく、ただ試験を拒み続けるだけならば、たとえそれが宗教上の理由によるものであっても、真摯、まじめでひたむきな精神がない! それは宗教上の真摯な拒否とは言えず、これを理由に退学処分を下しても、社会観念上著しく妥当を欠くとは言えない!」
無免ローヤーが敵の剣を弾いて、高々と刃を振り上げる。
「よって、裁量判断の合理性は、認められる!」
真っ直ぐ一直線に、闇を断ち切る真摯な一撃が、ガードのため掲げられた怪人の石剣を、真っ二つに割り砕いた! 剣が砕けたら負け、無免ローヤーの言葉の通り、今、怪人宗教利用男の剣が粉砕され、裁量判断の合理性が認められたのである!
「そんなッ、バカなッ!」武器を失い、狼狽する怪人。
無免ローヤーは、ぽいっと石剣を投げ捨て、腰を落とし、膝に左腕を置いた。「請求、棄却だ」と呟くと、行政訴訟の闘技場を構成していた石造りが光の粒子へと変わる。観客席が突如として可視の電磁波になり、支えを失った高校生たちがボトボト落ちて折り重なる中、光は無免ローヤーの左脚に流れ込んでいき、法の強化装甲を構成した。
「クリムゾンスマッシュ……いやライトニングブラスト……うーむ、まあいいや、とおっ!」
無免ローヤーが垂直に跳び上がった。空中で一回転し、そこからどういうわけか俯角四十五度の推進力を得て、加速する。
「ロオオヤアアアアア、キイイイイッッック!」
肉体がミサイルのように飛び、法の強化装甲を纏った左脚による、無免ローヤーの蹴りが、怪人宗教利用男の闇の身体に突き刺さった!
「ちょっと待てェ……俺はァ、まだァ、本気を出しちゃいないィッ!」
無免ローヤーの蹴りを受け止め、なおも形を保っている怪人宗教利用男が呻く。その言葉に、無免ローヤーが頷いた。
「そうかもな、だが、取消訴訟において請求は棄却された。お前の、負けだ! はああああああああっ!」
変身六法が輝き、左脚の強化装甲に流れ込んでいく。その威力に圧されて、怪人の闇の身体が崩れていき、そして……
無免ローヤーの必殺技が、怪人の身体を貫いた!
ドガアアアアアアアアアアン! 難舵北高校を覆っていた大きな闇が、今、爆発し、高校生たちの歓喜の声が上がる! 怪人宗教利用男、だった須永青年が、校庭に倒れた。「ふいー」と無免ローヤーが変身を解く。それにあわせて、上空を覆っていた法の本棚が消えた。
やっと姿を見せた空は、いつの間にか雲も消えて、青く澄み渡った大気と、白く光る健康的な夏の陽射しが、きらきらと輝いていた。
決着!
次回予告
包囲! お電話! 卒業生! 第三十一話「伝説の不良! 立つ!」 お楽しみに!




