第二十八話 不良の戦い水去の戦い
前回までの、七兜山無免ローヤー!
前原女生徒情報提供を受け、難舵北高校を訪れた無免ローヤー。しかしそこはド不良高校だった! 二年生をまとめる赤井桜に連れられ、カチコミ現場に押し込まれた水去たちだが……無免ローヤーは今日も戦う! 変身! 法に代わって、救済する!
「ふおおおっ⁉」
目の前の不良から振り下ろされる剛腕。体勢は崩れており、回避は難しい。身を守れそうな物……もない。学習机や椅子は、ほとんど教室の隅に積み上げられている。広い空間を活かし、身一つで対処するしか……水去はこれまでの戦闘経験をフル稼働して、身体を引きつつ、両手でパンチの軌道を逸らそうと試みる。が、そんなの無理っ! 無様だが地面に倒れ込むようにして、攻撃を躱すので精一杯だった。リンボーダンスのように、鼻先の絆創膏を拳が掠める。
しかし高校生は容赦しない! 床に背中を打ち付けた水去を、確実に圧し潰さんがため、巨大で長大な足が踏み下ろされる。ああ、こんな所で絶体絶命!
「俺を攻撃してどうするうっ⁉」
水去は埃まみれの床を転がって躱した! そのまま二度、三度と、モグラ叩きのように繰り出される踏みつぶし攻撃を、粘着ローラーのごとくコロコロ転がり身を守る水去。どしーんどしーんと床が揺れるが、目をつぶっているせいで状況が分からない。「あいたっ」ふと、細長いものにぶつかった。反射的に目を開けると、視界に艶やかなロングスカートが踊る。赤井女生徒が真上にいて、こっちを見下ろしていた。ぶつかったのは細長いのは、彼女の足首だったらしい。赤井のすぐ近くに控えていたルカとルナが、カチャリ……と、エアガンの銃口を向ける。
「ナニふざけてんだテメーっ!」ルカ少女が容赦なく発砲した。
「ぎゃああああ!」のたうつ水去。
行先も分からず転がり続けたローリング水去は、いつの間にか赤井の足元まで移動していたのだ。ちょうど仰向けで彼女の身体を見上げる、変態の体勢である。幸いスカートがバカ長いおかげで、女子高生の下着覗き込み事案の発生は避けられたが……ルカのエアガンが弾切れした瞬間、今度はルナ少女が「スケベはっ、死ねーっ!」と休みなく発砲する。「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいっ!」水去は芋虫のようにくねくねしている。「もういい、やめなっ!」と赤井女生徒が言って、やっと制裁が止んだ。
赤井が水去の胸倉を掴んで、立ち上がらせる。
「アンタ助っ人じゃないのか? 何しに来たんだいっ!」赤井の声が鋭く響く。
「え、違うよ! これは俺の担当じゃない! ていうか、エアガンで撃つのもそーだけど、初対面の人間に容赦なく殴りかかるって、アイツどーなってんだっ! 躊躇なさすぎるだろ!」水去も、攻撃してきたデカい不良を指差して怒鳴った。
「アイツは三年、冷徹殺戮機械のサブ!」赤井が負けじと怒鳴り返す。
「冷徹殺戮機械のサブ⁉」水去のおうむ返し。
「そうだよっ! 冷徹に殺戮する機械みたいな男さっ!」
「そうなんかあっ! じゃあ仕方ないなあっ! 冷徹殺戮機械だもんなあっ!」
「やっと分かったかいっ!」
「うん分かった! 覚えたぞ! アイツは冷徹殺戮機械のサブだ!」
なんだかコミカルな感じになってきた。
カチコミ現場にて、空気を読まずに怒鳴り合う水去と赤井の二人を、敵も味方も、二年も三年も、冷徹殺戮機械のサブも含む教室中の不良たちが、呆気にとられたように眺めている。ただ一人を除いて……
「うるせえなあ……」
一連の騒動の中、教室の奥になぜかあるゲーミングチェアに座り、窓の外を眺めていた男が、くるりと椅子を向き直らせた。途端に部屋中を緊張感が走る。空気がビリビリと震えているようだ。男は、澱んでいるが鋭い目つきに、グリーンに染まった弾けるような髪、金の装飾が耳にいくつも輝き、よれよれのシャツを着ている。冷徹殺戮機械のサブほどガタイはよくないが、細身の身体は、研ぎ澄まされた匕首を思わせる不気味さを帯びていた。
コソコソと教室の隅に移動しつつ、こいつ強いな、と水去は思った。
「おーおーお―……二年の有力者共がお揃いで、何の用だあ……?」
「堂島っ!」
赤井女生徒がその名を呼んだ。どうやらこの男こそ、三年生の番長であり、期末試験拒否運動の会を立ち上げ、全校生徒に試験を拒否させた、赤井たち二年生の倒すべき敵らしい。
「アンタを倒しに来た。皆困ってんだよ。試験受けなきゃ、進級も卒業もできないからね。その邪魔をし続けるなら……アタシがアンタを、ブッ飛ばす!」
赤井が木刀の剣先を向けた。
宣戦布告を受けた堂島は、徐に椅子から立ち上がり、反逆者たちを見渡す。「やれやれ……俺に刃向かう人間が、ひいふうみいよお……まだこんなにいたとはな……なあ、血の桜襲、赤井桜」堂島が赤井を指差した。
「銃鎖狂のルカルナ」堂島の指が移動して、赤井の隣にいたルカとルナの名を呼ぶ。
「タナカ・ザ・リッパー、田中祐一」堂島の指が隣に移る。
「鋼歯車の嶋」さらに隣の人間を指し示し、その名を声に出す。
「鏖殺人形使い、槇原山治」指が隣に移る。
「毒手の三五郎」指が(以下略
「夢追いギタリスト、山嵐龍星」
「破戒風紀委員、高橋ひなの」
「サボテン使いのメキシカン、ベロニカ」
「C組の木村」
「残酷卑劣剣士、加藤一刀斎」
「中華の鉄人、チェン」
「ボンジョルノ川崎」
次々と名前が読み上げられて、いよいよ堂島の指先が、そおっと教室から出ようとしていた水去を指し示す。「……? 誰だテメエは……?」平然と紛れている部外者の存在に、さすがの堂島青年も困惑した。
水去が格好つけて振り返る。
「ふん、このまま逃げ出すつもりだったが、バレたのなら仕方なし……無免許の法律戦士、水去律だ。覚えておけ」
「と、その相棒、神崎八太郎ってとこかな」
水去と神崎が、不良に混じって名乗りを上げる。堂島は釈然としないような表情をしていたが、流石はロクデナシどものボス、大きな器量で多少の理解不能は受け入れた。
「……まあいい、テメエらの名前は、覚えたからな。俺に逆らう奴らの名を……」
「堂島! なんで試験拒否なんかするんだいっ! アンタにだって、メリットはどこにもないはずだ!」
赤井女生徒が堂島に問いかける。実にもっともな疑問で、水去も、おおっ、と思った。堂島青年は、机の上に置かれている箱を開けて、中から何がを取り出しつつ、「俺がこの学校を支配するためさ……永遠にな」と答えた。
「永遠に、支配? どういうことだい?」赤井が尋ねる。
堂島は暗い目で、虚空を見上げた。
「部下をまとめ、抗争を征し、やっと総番になっても……この学校には三年間しかいられない。あっという間に卒業だ……それじゃ、伝説は越えられない……だから試験を拒否し、学校中で、同じ学年を繰り返し続けさせる……俺の名が伝説となるまで……永遠に……!」
堂島がカチャカチャと、手に何かを装備している。
水去が、質問、と言って手を上げた。「何度も留年してたら、君たち全員、そのうち退学処分になるんじゃないのか?」と尋ねる。
「何も分かってねえなあ……だから、信教の自由だろうが……クソ教師どもが退学なんて言ってきたら、信教の自由を主張して、取消訴訟をすればいい。退学は消える。そうすれば、俺の支配は永遠だ……」
「ほー、へー、君、なかなか賢しいね」水去が感心したように頷いた。
「ふざけんじゃないよ! アンタの莫迦な支配とやらに、いつまでも付き合ってられないんだよっ!」赤井が反論する。「試験拒否をさせ続けるなら、今ここで、アンタの支配を、ぶっ壊してやるよっ!」
そこで二年生集団の中から、一人の男が前へ出た。
「しゃっーしゃしゃっしゃっ、堂島あ~、話が長いリッパ~、さっきからオイラのナイフは血に飢えてるリッパよ~」
さっきからずーっと、手に持ったナイフをべろべろ舐めていた生徒が、堂島に向かっていく。ボスを守るため、三年の不良たちが前へ出ようとするが、堂島自らそれを遮った。
「タナカ・ザ・リッパー……来い、相手してやる……」
「しゃーっ、切り刻んでやるリッパねええええーっ!」
切り裂きタナカがナイフを振るう。堂島は目先すれすれ、紙一重で躱し、即座に敵の腹部へと拳を叩き込んだ。ぽろり、とナイフが床に落ちる。一撃にして、タナカは倒れた。泡を吹いて気絶している。よく見れば、堂島の拳には、無骨なメリケンサックが光っていた。
「やっちまえええええええ!」
教室内で誰かの掛け声が上がり、二年生と三年生、両陣営が一斉に衝突する。「堂島っ! アンタの相手はアタシだっ!」乱戦を突き抜けてきた赤井女生徒が、一気に堂島に迫る。振り下ろされる木刀、それを受け止めるメリケンサック、大将同士が激突し、空気を揺るがす。そのまま二人は常人離れした高速戦闘に突入した。振るわれる木刀を殴るのも凄いが、木刀一本で両拳の連撃を受けきるのも凄い。ほえー、と水去が見惚れていると、冷徹殺戮機械のサブの剛腕が頭上を通過し、足元にルカ少女の鎖が叩きつけられた。気付かぬうちに水去は、戦場のど真ん中に巻き込まれていた。
わあああああ、と心の中で焦りつつ、水去は安全地帯を探して彷徨う。近くでルナ少女が鎖を振り回していた。うむ、実に頼もしい。水去は低い姿勢で彼女に近づき、その後ろに潜もうと試みる。「ナニこっち来てんだテメー」向こうでルカの背後を襲おうとしていた卑怯な敵を、エアガンで射撃して牽制しつつ、ルナ少女ぶっきらぼうに言う。水去はニコニコ笑って「いやー、あわよくば守ってくれないかなーなんて……あっ、駄目だよね。うん、当然だよね。分かってたよ! じゃ、失礼する」なんて、くるりと背を向ける。「サッサと戦ってこいやあっ!」とルナ少女が彼の背中を蹴り飛ばした。背後で鎖がビュンビュン空気を切り裂く音を感じつつ、水去は再び乱戦の中心に押し込まれる。「Buongiorno!」と叫ぶ男とすれ違い(おそらくボンジョルノ川崎であろう)、「Buonasera! In bocca al lupo!」と返答する水去。どうでもいい話だが、学部時代の彼は第二外国語としてイタリア語を履修していた。Boccaは口、lupoは狼という意味である。つまり「狼の口に」、転じて、(命がけで)がんばれよ! という意味だった。そう彼の前にも、巨大で巨顔な男の、ブヨブヨの唇を纏った直径五十センチはありそうな口が開いている。「オデは貪婪口蓋下顎の葦戸! オデがみーんな喰ってやるぞ!」「ビックリ不良め! 俺は無免許の法律戦士水去! 推して参るっ!」戦場を駆け抜けつつ、やっとやる気を出したのが、水去が敵に突進していく。巨大な顔が彼を吞み込もうと迫り、口臭がもわっと襲いかかった。「どわっ、やっぱ口で戦う奴とか無理っ!」水去はスライディングで葦戸の股の下を滑り抜けて躱す。ついでに飛んできたサブの攻撃も避けた。
「あーっ、もうどうなってんだっ! こんなん命がいくつあっても足りんぞっ!」
二年生と三年生がそれぞれの技能を活かし、妖怪大戦争のように戦う教室を見渡しつつ、水去が文句を言う。「訳が分からん! 戦いを止めろ! 暴力反対!」と叫んでみるが、全く止まる気配はない。どうにもならずに頭を抱えていると、「水去君」という声が聞こえた。「こっちこっち」見れば、神崎が教卓の下から顔を出して手招きしている。水去も急いでそこに飛び込んだ。
教卓の下は安全地帯らしく、喧騒が金属の板ごしに聞こえてくるだけだった。やっと一息つく水去。狭い空間で身体を丸めた神崎が、「いやー中々の戦いっぷりだねー」と笑った。「笑ってる場合か。怪人を探すどころじゃないぜ」と水去も背中を丸めて毒づく。「この中にいるの? 全然そんな感じはしないけど。みーんな不良だし」神崎のその言葉に水去も頷く。
「見たことある顔はねーな。変装して高校生のフリをしてるってセンはないと思う」
「含みのある言い方だね。他に怪しいセンがあるの?」
「うーん、あの堂島とか、三年連中を見てると、なーんか引っかかるんだよなあ。洗脳ってほどじゃないけど、催眠というか扇動というか、何らかの影響は受けてる感じがする。それも、かなり近くでな」
「なら、ボクらみたいにどこかに隠れてるとか」
「隠れる場所あるか? お前が呼んでくれなきゃ、俺はまだあのカオスを彷徨ってたよ」
「じゃ、一旦手詰まりだね。どうする? 抗争が終わるまで待つかい?」
神崎の問いかけに、しばらく考え込んでいた水去が、あっ、と言った。そうしてどこからか、一冊のノートを取り出す。「覚えてるか? 前に紹介した、詭弁的三段論法ノートだ」「ああ、法律を勉強してる人が見るとダメージ受けるんだっけ?」「そうそう、異常な問題状況とあり得ない結論を書き込めば、狂った論証をしてくれる。試しに使ってみるか」そう言って水去は、何やら思案し始めた。少しして、よし、とボールペンを動かす。そうして頁の一番上の行に「問:水去律はイケメンか?」と書き、一番下の行に「結論:水去律はイケメンである」と書き込んだ。「これでええやろ」と水去が呟く。神崎が隣で覗いていると、ノートにはひとりでにインクが浮かび上がり、イケメンの規範を定立、それに水去をあてはめて、頁を大量の文字で埋めた。
「なんか……意味分かんないね……」と神崎が言う。
「だろ? だが、これを法科大学院生が見れば、意味分かんないでは済まない。法秩序を破壊しかねないクソみたいな詭弁に相当苦しむはずだ。まあ……俺には効かないけどな」
そう言って水去は、教卓の下から這い出し、よっと跳んで、今度は教卓の上に立った。そうしてノートを掲げ、息を大きく吸い込む。
「これを見ろおおおおおっ! 俺はイケメンだああああああああああっ!」
渾身の自己申告が教室中に響き渡る。あまりに唐突で、コンテクストを無視した発言により、不良たちの戦場に静寂が訪れた。一種の猫だましである。水去はふんすと鼻息荒くして、教卓の上から高校生たちを見下ろす。「ああ……? ふざけてんのか、テメエ……?」「アンタやっぱり莫迦なのかいっ⁉」流石というべきか、堂島と赤井、それぞれの陣営の大将たちが最も早く混乱から回復して、水去に文句を垂れた。「殺す……!」と堂島が教卓に向かっていく。「待ちなっ! まだ戦いは終わってないよ!」赤井が堂島を追いかける。
その時、「ぐおおおオオォオォオッ……」という唸り声が響いた。
冷徹殺戮機械のサブが、苦しんでいる。
「……? どうした、サブ……?」と、堂島青年が、両手両足を床につき吐き気をこらえるように蹲る冷徹殺戮機械のサブに近づく。「やめろっ! ソイツに近づくなっ!」水去がそう叫んだ瞬間、サブ青年の口から闇の塊が飛び出した。
怪人!
闇は形を変え、醜悪な人型へと変化する。「グアアアアアッ、なんだァ、そのクソみたいな論証はァ!」教室のど真ん中に姿を現した怪人が、水去を見上げて言った。そのまま闇が溶けるように崩れて、中から一人の青年が姿を現す。
「お前は、確か……法科大学院の須永!」水去が声を上げた。
「水去ぃ! 何がイケメンだ! 許し難い詭弁だっ!」
須永青年が叫ぶ。水去は詭弁的三段論法ノートを懐に仕舞い、教卓から飛び降りた。
「まさか、サブの身体の中に潜んでいるとな。そういうのもあるのかって感じだ。最初に俺を狙ってきたのも、お前の仕業か?」
「教えてもらってるんだよ、水去ぃ、テメエの存在はなぁ! ぶっ潰すっ!」
教える? どういうことだ? 水去がそう言いかけた瞬間、ドゴオオオンッ、という破壊音が響く。堂島が、近くにあった机に拳を振り下ろし、真っ二つに粉砕していた。「ぶっ潰す……? それはこっちの台詞だゴラ……俺の舎弟に好き勝手しておいて、生きて帰れると思わねえことだな……!」三年の総番として、堂島が、メリケンサックを打ち合わせる。そうして床を蹴り、須永に飛び掛かっていく!
瞬間、須永青年の身体を闇が覆い、怪人へと変貌する。
「餓鬼がァぎゃあぎゃあとォ、五月蠅いんだよッ!」
堂島の拳が怪人に届いた瞬間、横薙ぎに振るわれた闇が彼を襲い、濁流のようになって壁に衝突する。その瞬間、猛烈な破壊音と共に、闇が壁を突き抜けて、堂島の姿は土煙の向こうに消えてしまった。「化け物だあ……」と、三年の不良の一人が声を漏らす。規格外の攻撃力に、教室中が動揺していた。
瞬間、怪人が、近くにいた三年の不良を殴り飛ばした。そのまま次の不良を襲い、無差別に攻撃を繰り出していく。次々と吹き飛ばされ、宙を舞う不良たち。なんかちょっと笑える光景だが、洒落にはならない。
近くにいたルカルナの二人にも、怪人の魔の手が迫る!
「ピーチクパーチクさえずるゥ低能のクズ共がァ! この世から消えろォ!」
「させないよっ!」
赤井女生徒が咄嗟に割り込む。振るわれる闇を纏った一撃を、木刀で受け止めた。だが……無常にも武器の方が耐えきれず、木刀は根元から折れてしまう。その瞬間、怪人の二撃目が、無防備な赤井の身体を襲った。
「「姐さんっ!」」
ルカルナの悲鳴が上がった瞬間、堂島を屠った闇の濁流が赤井を呑み込む。衝撃波を伴い、空間を突き抜ける先に、水去が立っていた。「ちょわーっ!」押し寄せる闇に水去も巻き込まれる。
黒板に叩きつけられながらも、しかし、結果的には、赤井女生徒を受け止めることに成功したのだった!
「うーん、中々の暴れっぷりだ」赤井を抱えた水去が言う。
「離せ腰抜けっ! アタシがあの化け物と戦うんだっ、戦う気のない奴は失せなっ!」
赤井が水去を一発殴って、彼を突き放す。しかし水去は「ねえ、生徒手帳見せてくんない?」と、突拍子もないことを尋ねた。「はあ? こんな時になにを……」「いいから」水去が怪人の方を睨みながら言う。今日初めて見せた彼の真剣な表情に、赤井も何かを察した。ポケットに手を突っ込み、中の物を取り出す。
「ほら、これでどうするつもりだいっ?」
「えっ、マジで持ってんの? 生徒手帳持ち歩く不良がいるんだなあ」
「黙りなっ! ふざけてんなら返してもらうよ!」
赤井の言葉を軽く受け流しつつ、水去は生徒手帳を開く。ふむふむと書かれている内容を確認し、ぱたんと閉じた。「ま、大丈夫だろ。ちょっとこれ借りるね」と言って、赤井女生徒の肩の埃を、ぽんっ、と紳士的に払った。
「さっきからアンタ、一体何を……」
「前原さんからどう聞いてるか知らないけど、名乗った通り、俺は無免許の法律戦士だ」
水去が怪人の前に出る。
「だからさ、君たちの戦いの中じゃ無様をさらしたけれど、ここからはやっと俺の担当、俺の戦いだ」
そうして、手に持った六法を構えた。教室を風が吹き抜けていく。
「いくぜ、変身!」
六法がバックルにセットされ、光が溢れた。輝きは法の鎧を形成し、ヒーローを形作る!
「法に代わって、救済する!」
水去律は無免ローヤーへと変わり、七兜山で火薬が爆発した!
次回予告
悪い子! 飛び降り! 新フォーム! 第二十九話「開幕! 行政法の世界」 お楽しみに!




