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オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
第1章 混沌の序曲
9/16

第8話 宣戦布告

第9話は来週金曜午後7時10分投稿予定です。

拝島 良「この5日間、手がかり無しか……」


新歌舞伎町タワーでの出来事の後、俺に代わって拝島が独自のネットワークを駆使して情報収集に励んでいた。しかし、依然として事件解決の糸口はつかめていない。


国分寺 好「一旦、整理しない? 私、ずっとフェスにいたから話が全然見えないんだけど。」


国立 慶「それもそうだな。一旦、情報を整理してみるか。」


10月25日夜の通報により発覚したこの事件は、新歌舞伎町タワーのホテル「SKYSTAR」41階で起こった。ハロウィンフェスの主催者である飯野いいの はしるが、その部屋で遺棄されているのが見つかったのだ。


事件の流れとして考えられるのは以下の通りだ――


1. 10月25日朝

飯野走が1つのアタッシュケースを持ってホテルにチェックイン。宿泊予定は1泊だったとされる。

2. 同日昼頃

5人の黒スーツの集団がもう1つのアタッシュケースを持って飯野の部屋に入る。その場で約1時間にわたる何らかのやり取りが行われたと推測される。

3. その後、突如として事件が動き出す飯野が突然、火災報知器を押す。この行動が何を意味するのかは不明だが、これが引き金となって1人の黒スーツの男が飯野を銃殺したと見られている。

4. 現場での混乱

銃殺後、犯人たちは2つのアタッシュケースに詰まっていたと見られる大量の1万円札をばら撒き、それを火種として現場に混乱を生じさせた。火災報知器が鳴り響き、人々がパニック状態に陥る中、犯人たちは黒スーツを脱ぎ捨て、群衆に紛れて脱出したと考えられている。


拝島 良「こうして整理してみても、あまりにも穴だらけだな。飯野が何を企んでいたのか、なぜ火災報知器を押したのか、そして黒スーツたちの目的もさっぱり分からない。」


国分寺 好「……でも、アタッシュケースに大量の1万円札って。なんでそんなに目立つ方法を取ったんだろう?普通、逃げるならもっと慎重にやるんじゃない?」


国立 慶「確かに。ただ、その派手さが逆に気になるな。あの行動には何か意図があったのかもしれない。」


中神 恋「現場をもう一度調べる必要があるな。犯人たちが使った変装道具や、ばら撒いた金の一部がどこかに残ってる可能性もある。」


拝島 良「だが、それだけじゃ限界がある。もっと直接的な証拠が欲しいところだ。」


中神 恋「結局のところ、黒スーツの行方が分からない以上、正体も何も無いよなぁ。タワー内を探してみても、黒スーツなんて見つからなかったし。」


あの時のホームレスの証言は、思った以上に役に立たなかった。手がかりは全て霧散してしまったように思える。


拝島 良「ん?沢城さんから着信だ。恋には来てないか?」


中神 恋「本当だ。来てるな。」


スマホに表示された文面には、代々木公園に来いとだけ書かれていた。


代々木公園


代々木公園に到着すると、フェスの準備が進められている真っ最中だった。


中神 恋「そう言えば、今日が本来の最終日だったな……。もしかして、開催するのか?」


佐々木 宗馬「ええ。なんとか委員会の方に掛け合って、どうにか許可を取り付けました。」


それは良かった――。けれど、佐々木の顔にはどこか不安が残る表情が浮かんでいる。


佐々木 宗馬「しかし……実は、今晩のフェスに向けて準備を進めているんですが、協力店のオーナーや支配人の何人かがまだいらしていなくて……。」


このフェスは周辺の店が集まり、出店形式で客をもてなすというスタイルだ。その際、協力店のオーナーたちは特別ゲストとして招かれるが、その姿がまだ見えないというのだ。


佐々木 宗馬「店の準備が進まないのもありますが……正直、飯野さんがいなくなったときのことを思い出してしまって、不安で仕方ないんです。」


確かに、あの事件の記憶がまだ新しい以上、佐々木がフェスの中止を恐れているのは無理もない。


佐々木 宗馬「ところで、中神さんは確か、中華料理店のオーナーを務めていて、料理が得意だと聞いたんですけど……。」


……ま、まさか俺に作らせる気か!?


中神 恋「あ、ああ、確かに料理はできなくはないが……前も言ったが、肉に関しては全然自信がないぞ。特に牛は。」


佐々木 宗馬「大丈夫です。他の肉でも構いません。牛じゃなくてもいいんです。フェスが開かれているという事実が重要なんですから。」


中神 恋

「ん?事実?」


佐々木 宗馬「おや、どうやら訝しんでいる様子ですね……。近年、都心でのハロウィンに対して、概ね批判が殺到しており、市議会でもそれが議題に挙がったほどなんです。もちろん、ハロウィンだからって何でも許されるわけではありませんし、不法投棄などもっての外です。しかし、私が恐れているのは、ハロウィン文化そのものが廃れてしまうことなんです。そのために、私は飯野さんの地域応援プロジェクトに賛同したんです。」


なるほど。この人は私情よりも、文化の衰退を恐れていたのか。まあ、なんだかんだハロウィンの騒ぎがなくなったら、それはそれで寂しいかもしれない――わからないが。


佐々木 宗馬「それで、何としてもイベントを続行したいのですが……どうか、この店舗の代わりに出店していただけませんか?」


その真剣な眼差しに、俺は思わずため息をついた。この人は信頼できそうだ。ここで断ったら、俺自身が後悔するかもしれない。


中神 恋「わかった。うちの店舗の者に掛け合ってみよう……出店させてもらうよ。」


佐々木 宗馬「ありがとうございます!」


本来出るはずだった店については、拝島に調べてもらうことにした。これ以上大事にならなければいいが――。


すぐに本店からスタッフを呼び寄せ、屋台の準備を始めることにした。


店員1「肉と言いますと、やはり……」


中神 恋「焼豚だな……。」


豚の取り扱いなら慣れている。ここは手堅く焼豚丼にするか――そう決めた、その時だった。


???「よう。まさかワレがいるとはな。」


中神 恋「……え?」


振り向くと、そこには青梅連合幹部、黒澤 聖の姿があった。


青梅連合にはいくつかの派閥があり、最高幹部の斑目派と幹部の黒澤派に大きく分かれている。俺はどちらにも属さない立場のつもりでいるが、黒澤から見れば、俺は斑目側の人間に映るらしい。


黒澤 聖「よくもうちの部下を懲らしめてくれたな。これもあの斑目の策か?」


やはり、そう思われているのか――。ここに現れたのは、おそらく何らかの報復のためだろう。


赤塚 神太郎「あの、黒澤さん。いいんです。本当に。俺が弱かったのが悪いんですよ。」


……いや、違うだろう。その言い方はおかしい――というか、そもそもここに来た理由がそれなら、俺に対して仕掛ける必要なんてないはずだ。


中神 恋「ここに来たということは、つまり“返し”というわけですか?」


黒澤 聖「いやぁ、違わい。そもそもの話、こやつが不義理を働いた結果じゃろう?ワレはようやった。」


意外にも、妙に話が通じた――かと思ったが、次の一言でその期待は裏切られた。


黒澤 聖「……なるほど。ここにワレの店を開くということじゃな……決めたわ。儂もここに出店する。」


中神 恋「え?」


赤塚 神太郎「く、黒澤さん!?」


黒澤 聖「別にええじゃろ。ちょうど数店舗出せないんじゃろ?そこに儂の店を出して、ワレのメンツをぶち壊したる。」


やはり話が通じていなかったらしい――というか、料理が趣味なだけで、俺にそこまでのプライドがあるわけじゃないし。


黒澤 聖「どうやら乗り気じゃ無さそうやな。ほんじゃ、賭けをしようじゃないか。これならやる気出すやろ?お前のクビはどうじゃ。」


クビ...つまり破門だろう。いや、大幹部と言えど、そんな勝手な人事をできるのか?


黒澤 聖「儂ができないと思うたか?今、斑目は不在じゃろ。というか、もう現れることはないと思うがな?」


……? 現れることはない? まさかこの人、斑目さんの現状を知っているのか。


黒澤 聖「あいつが居なければ、残りのカスじゃ儂を止められるやつおらん。その代わり……そうだな、ワレに質問する権利を与えてやる。どうせ聞きたいことがあるんやろ?」


確かに、斑目さんの消息については気になるところだ。彼には色々と世話になったし、このまま知らずに済ますのも後味が悪い――。


中神 恋「……わかったよ。受けて立つ。単純に売れた総額でいいか?」


黒澤 聖「どっちでもええで。ただ、儂の“晴天屋”を舐めん方がええで……。」


黒澤は不吉な笑みを浮かべる。――汚い手口とか使わないよな?


中神 恋「よくも面倒な奴らを呼び出してきてくれたな。」


赤塚 神太郎「仕方ないだろ。」


こうして、今晩のフェスでの“料理勝負”という奇妙な戦いが始まることとなった。これが良い方向に進むのか――俺の未来は果たしてどちらに転ぶのだろうか。

良かったら、感想をくださいm(_ _)m

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