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オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
第1章 混沌の序曲
8/16

第7話 潜入

第8話は来週金曜午後7時10分投稿予定です。

10月26日 午後10時 歌舞伎町 紫竹園


中神 恋は紫竹園の一室で捜査資料を読み込んでいた。


中神 恋「使われた銃弾は……7.62×25ミリ弾か」


拝島 良「ミリオタの中ではメジャーらしいぞ。初速が速くて、防弾チョッキも貫通するってな。俺は詳しくないけどな。ロシアで昔使われてたみたいだ」


中神 恋「俺の黒星トカレフと同じ弾か……だが、日本で製造された形跡はなさそうだ。線条痕から追跡するのは難しいだろうな」


資料を閉じ、恋は思考を巡らせる。銃弾の線条痕――銃身の溝が弾丸に刻む独特の痕跡――から製造元を特定するのは理論上可能だが、日本国内で流通するはずのない銃器なら、それも徒労に終わる可能性が高い。


中神 恋「事件が起きたのは10月下旬のお昼時か。火災が発生する前には、防音設備が整った現場で1発も銃声が聞こえなかった……。しかも、1万円札が散乱していた総額は約5億円……」


恋は眉をひそめる。被害者の飯野がその5億を用意したのか、それとも犯人側が持ち込んだのか――どちらの可能性も考えられるが、いずれにしてもその意図が掴めない。


中神 恋「監視カメラには、アタッシュケースを持って現場に入る飯野の姿。それから続けて5人組の男たち。彼らもそれぞれ別々のアタッシュケースを持って入ってきた……だが、出る時には両方ともケースを持っていなかった」


拝島 良「つまり、現場には少なくとも二つのケースが残されたはずだよな」


中神 恋「ああ。それも含めて、事件の核心に何が隠されているのかを探る必要がある」


拝島 良「今、ホテル付近にドローン飛ばしてみたけど、周囲にパトカーも警官もいないな」


中神 恋「ああ、そうか。事件直後でまだ現場は封鎖されているかと思ったが、どうやらタワー全体の業務が停止してるだけで警備も手薄のようだな」


ホテルSKYSTARに侵入する計画を頭の中で再確認する。慶は閉店間際のスタバで待機中だ。恋は手元の資料をもう一度見直した。


拝島 良「そういえば、フェスの仕事を俺たちに要請したのって、斑目だったよな?」


中神 恋「ああ、確かにな。そんなタイミングでこの事件……偶然か?」


拝島 良「いや、斑目のことだ。何か考えがあってのことかもしれない。もしかして、この事件にも意図的に俺たちを関わらせたんじゃないか?」


中神 恋「それは本人に聞いてみないと分からん。ただ、斑目が俺の過去を知ってるのは確かだ……。もし今回の事件の裏にいる連中と、斑目が俺たちを絡ませようとしていたとすれば……飯野を犠牲にした可能性も考えられる」


考えが巡る中、恋は立ち止まった。斑目の意図がどこまで計算されたものなのかは不明だが、これ以上推測だけで動くのは得策ではない。ホテルSKYSTARで何か手がかりを掴む――まずはそれが優先だ。


拝島 良「そろそろ時間だな。準備はいいか?」


中神 恋「ああ」


そう言って、俺は紫竹園を後にした。


中神恋「夜の一番街を歩くのも、そう珍しいことじゃない。だが、一番街に足を踏み入れるなんて、数えるほどしかなかったな……」


彼は何気なく空を見上げ、静かにため息をつく。


中神 恋「遅れて済まない。警察に動きはあったか?」


国立 慶「いや、特に無かった。さすがに中に長居してるわけないだろうし、警官がいる可能性は低いと見ていい。」


中神 恋「そうか。」


暗闇に包まれたタワー内。中神恋と国立慶の影が、懐中電灯の光とともに映し出される。彼らは階段を上りながら、低い声で話している。


国立 慶「エレベーターは作動してないし、階段で45階まで登るのか。」


階段をひたすら上り続ける足音だけが、静寂な空間に響いている。39階まであと少しというところで、慶が口を開いた。


国立 慶「そう言えば、病院での好はどうだった?」


中神 恋「?別になんてことはなかったよ。」


国立 慶「そうなんか?例えば他愛もない話をしたり。」


中神 恋「いや?愛の話以外は特に...してない気がする。」


国立 慶「まじか...。」


もしかしてまた俗な話題か?


国立 慶「お前って鈍感なんだな。」


中神 恋「お互い様って言うべきかな。」


国立 慶「?」


好は俺のことを後輩以上のことは思ってないんだよな。


数十分後、二人は39階にたどり着き、SKYSTARの受付が映る。恋が無造作に鍵を手に取り、その後再び階段を上る。41階にさしかかったところで、彼らは足を止める。画面には、薄暗い廊下が広がる。遠くからかすかに音が聞こえる。


中神 恋「妙だな……事件の後、全員避難させたはずだが。」


国立 慶「どうする? 」


中神 恋「無視だ。まずは現場を調べる。」


二人は慎重に階段を上り、目的地である45階へ到達する。


不審な物音を無視し、静かに階段を上がる。45階までの間、特に変わった気配はなかった。そして、目的の部屋にたどり着く。


中神 恋「燃えカスはきれいに回収されたか……まあ、そうだろうな。確か、あの札はこの机を囲むように散乱していたんだった。」


机の両側に椅子が一脚ずつ並んでいる。窓際の椅子に飯野さんが座り、火災報知器まで移動してスイッチを押し、その後に銃殺されたとされる。


国立 慶「犯人の素性も、動機もまだ何もわかってない。何か取引でもしてたんだろうか?」


中神 恋「多分な。それにしても、札を散乱させた理由が謎だ。」


辺りを見渡すが、手がかりになりそうなものは一切見当たらない。この部屋は取引のために一時的に貸し切られていたようで、飯野さんの私物すら残っていない。


中神 恋「さすがに空っぽか。……さて、そろそろ“連中”にご挨拶といくか。」


国立 慶「“連中”って……さっき物音のしてた奴らのことか?」


中神 恋「ああ。まずは良に確認してもらおう。」


数分後


拝島 良「いや、駄目だ。全然見えない。連中が出入りしてる様子もない。」


中神 恋「そうか。助かった。ありがとう。」


国立 慶「それにしても、41階の奴らって何者なんだろうな。もしホームレスなら、もっと近い39階あたりに留まるんじゃないか?でも39階には誰もいなかったし。」


中神 恋「それは本人たちに直接聞いてみるのが早いな。」


41階へ向かうと、再び微かに人の気配が感じられる。


国立 慶「ラジオの音か?生活してる感じだな。」


中神 恋「ただ少し話を聞くだけだ。」


扉は開いているものの、無断で入るのはためらわれる。ノックを試みると、足音がこちらに近づいてきた。


謎の男「あ?何だお前ら。」


中神 恋「失礼します。この階にお住まいの方でしょうか?」


謎の男「ああ、無断でな。で、お前らは?」


中神 恋「二人組だ。お住まいが他にあるわけではない?」


謎の男「ないね。」


中神 恋「この建物で事件があったことはご存じですか?」


謎の男「知ってるよ。それで誰もいないんだろ?でも、詳しいことは知らねえな。」


中神 恋「他に誰か、この階にいますか?」


謎の男「さあな、知らん。」


どうやらこれ以上得られる情報はなさそうだ。


中神 恋「それでは、失礼します。」


そう言って背を向けようとした瞬間、男の声が後ろから響いた。


謎の男「ちょっと待てよ。せっかくだし、俺をもてなしてくれよ。」


中神 恋「え?……じゃ、じゃあお邪魔させてもらうよ。」


冷静に考えると、このときどうして疑わなかったのか。ただ、彼らがどんな内装で生活しているのか、妙に興味を持っただけだった。


ホームレス1「ふふふ……せっかく見つけた貴重な住処だ。俺たちの存在を知った以上、生きて返すわけにはいかないな。」


国立 慶「そうか。それなら残念なニュースだが、今日からここは事故物件になりそうだな。」


中神 恋「5人程度なら問題ない。」


ホームレス2「悪いが、俺らはそこらのホームレスとは違うんだ。ここが墓場になったら引っ越すだけさ!」


突如として戦闘が始まった。俺たち2人を取り囲むように、5人のホームレスが円陣を組む。おそらく、他の部屋に潜んでいた彼らが何らかの合図で現れたのだろう。まずはこの包囲を解かなければならない。2人のホームレスが同時に襲いかかってくる。


中神 恋「慶、いけるか?」


国立 慶「ああ、軽いもんだ。」


慶と息を合わせ、2人で相手の攻撃を流しながら反撃。俺は指で、慶は拳骨で、それぞれ後頭部を正確に狙う。2人のホームレスはその場で意識を失った。


ホームレス2「やるな。おい、お前らも行け!」


再び、2人のホームレスが突進してくる。先ほどのカウンターはもう通じないだろう。


中神 恋「慶、あいつがリーダーらしいぞ。行くぞ。」


国立 慶「ああ、望むところだ!」


2人でタイミングを合わせ、包囲を突破するために高く跳んだ。相手の頭上を越え、リーダーと思われる男へ一直線に迫る。


ホームレス2「隙あり!」


着地直前、リーダーが慶に攻撃を仕掛ける。しかし――


国立 慶「お互い様だ!」


慶は片足を地面に軽くつけると、その場を軸に回転。リーダーの攻撃をいなし、体勢を崩させる。


中神 恋「これで終わりだ!」


怯んだリーダーの懐に飛び込み、腹部に数発の拳を叩き込む。リーダーは力を失い、その場に倒れ込んだ。気づけば、残ったホームレスたちはいつの間にか姿を消していた。


中神 恋「……結局、ルミノヴェルムの力なんかなくても大丈夫だったな。」


リーダーの動かぬ体を見下ろしながら、一息つく。そして、彼が情報を持っているかどうか確認するべく、声をかけた。


中神 恋「さて、相応の情報がなければ、そのまま通報するが?」


ホームレス2「ま、待て!分かった!話す!俺は知ってる!」


中神 恋「懸命な判断だ。」


ホームレス2「事件が起きたとき、俺はこの建物の中にいた。ただ、あらかた住人が避難するのを見計らってたんだ。」


中神 恋「なるほど。犯人については?」


ホームレス2「黒スーツの5人組だった。それは確かだ。ただ……その後、騒ぎに紛れて群衆の中に混じったらしい。退店するところは見なかったからな。」


中神 恋「それだけか?」


ホームレス2「ま、まだある!避難していたとき、周囲は大混乱だった。時間を稼いでた奴らがいたなら、その間に変装するくらいはできただろう。」


中神 恋「なるほど。つまり、店内を回ればその手がかりが残ってる可能性があるってことか?」


ホームレス2「可能性はある……が、確証はない。ただ、調べてみる価値はあると思う。」


国立 慶「はあ、やれやれ。面倒な話になったな。……ていうか、このタワーに服飾店なんてあったか?」


中神 恋「いや、なかったな。だが、他に方法がない以上、探るしかない。」


目ぼしい情報はつかめなかったが、断片的な手がかりだけでも十分だった。黒スーツの5人組……彼らがどこへ消えたのか。そして、スーツはどこから持ち込まれたのか――新たな疑問が浮かぶ中、俺たちは再び動き出した。

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