第6話 失われた声
第7話は今週金曜午後7時10分投稿予定です。
(プロローグのあらすじ)
青梅連合での任務をこなしていた中神たち。しかし、不在の斑目からの伝言で、なぜかハロウィンフェスのボランティアという奇妙な命令を受けることに。イベントの準備を進める中、彼らはホテルSKYSTAR で起こった銃殺事件に遭遇する。この町では何が起きているのか――あるいは、何が起ころうとしているのか……。
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10月25日
この日は朝から重苦しい雰囲気に包まれていた。飯野さんの葬儀の日程はまだ調整中で、ハロウィンイベントどころではない。彼は著名人だったため、すでにニュースでも訃報が報じられ、佐々木さんを始めとする関係者たちはマスコミ対応に追われていた。
俺たちは代々木公園に待機していたが、今の状況では手伝えることは何もない。
国立 慶
「こんな時に言うのもアレだが、今なら妹のお見舞いに行けるんじゃないか?」
その一言でようやく気づいた。妹のことをすっかり忘れていた。ここで俺にできることがないなら、今のうちに行くのがいいだろう。
中神 恋
「悪い。すぐ戻る。……どうせだし、好も一緒に来ないか?」
国分寺 好
「えっ!?私が行ってもいいの?」
好はどこか沈んだ表情だった。直接の知り合いではないとはいえ、関係のある人物が亡くなったと考えれば、この反応も無理はない。
中神 恋
「ああ。前はRS絡みで遠慮してたけど、今はそこまで忙しくないだろ。」
国分寺 好
「じゃあ、お言葉に甘えて……。」
国立 慶
「こっちは俺たちが何とかする。ゆっくり行ってこいよ。」
中神 恋
「ああ……。『俺たち』?」
その時、不意に聞き慣れない声が割り込んできた。
???
「どうも、仁涯 海斗です。よろしくお願いします!」
中神 恋
「ああ……えっと。」
昨日、トトカルチョで大損していたやつだ。なんでこいつがここにいる?
仁涯 海斗
「恋さん、昨日は本当にかっこよかったです!あの武器を使った演舞、また見せてもらえませんか!」
正直、もう二度とあんな目に遭いたくないが、妙に人懐っこい奴だ。だが、東経連合所属なら、もしかして俺より年上か?まあ、どうでもいいことだな。
中神 恋
「よろしくな……。じゃあ、出発するぞ。」
国分寺 好
「うん。」
妹、中神 愛は都内の警察病院にいる。まだ意識も戻らないが、医者から健康状態は良好だと聞いている。消毒液の匂いが漂う無機質な病室で、愛は静かな寝息を立てていた。
国分寺 好「愛ちゃん、随分痩せちゃったね……」
好は愛の手をそっと握り、小さくため息をついた。その横顔には、気丈であろうとする姿が伺えるが、どこか悲しげな表情も浮かんでいる。白い病衣に包まれた愛は、まるで眠れる森の美女のようだったが、その穏やかな寝顔からは想像もできない苦難を昨年経験している。
中神 恋「最後に会ったのはいつだ?」
国分寺 好「えっと……青梅連合に入る少し前かな。その時は、まだ元気そうだったのにね……」
好の声が少し震えている。俺は無言で小机の上に花束を置き、愛の好きな花を一輪ずつ確認していった。ガーベラ、スイートピー、カスミソウ、そして最後に――。
国分寺 好「あ、ブルーローズだ。愛ちゃんの大好きな花だったよね」
中神 恋「ああ、よく覚えてるな」
国分寺 好「もちろん。愛ちゃん、いつも『不可能を可能にする花なんだよ』って得意げに言ってたから」
俺は小さく笑った。確かに、それがあいつの口癖だった。
国分寺 好「でもさ、お見舞いに青い花ってよくないっていうの、愛ちゃんが言ってたような……」
中神 恋「あいつなりの反骨精神だよ。ダメだって言われたら余計に気に入るやつだったからな」
国分寺 好「ふふ、確かにそういう子だったよね。頑固だけど、そこがまた愛ちゃんらしいっていうか」
俺たちはしばらく愛の思い出話に花を咲かせた。好は愛と直接的な交流は少なかったはずだが、それでも後輩としてしっかり見てくれていたのが伝わる。そんな好の態度が、俺にはありがたかった。
病院から代々木公園に戻ると、佐々木さんが待っていた。
佐々木 宗真
「あ、中神さん。この度は本当に申し訳ございません……。」
中神 恋
「いえ、こちらこそ。……むしろ大変なのは佐々木さんでしょう。ご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます。」
不慣れな謙譲語で応じた後、イベントの開催について尋ねた。
佐々木 宗真
「一応、代理を立てれば開催自体は可能ですが……こんな事件があったものですから。」
中神 恋
「そうですか……。」
無理もない。代理を立てたところで、殺害されたプロデューサーの仕事を継ぐなど、誰もが敬遠するだろう。
その時、良が話しかけてきた。
拝島 良
「少し時間をくれるか?」
中神 恋
「ああ、なんだ?」
拝島 良
「昨日の新歌舞伎町タワーの件だが……飯野さんの死因は銃殺だったらしい。」
中神 恋
「銃殺だと?」
拝島 良
「ああ。証言によれば、火災が起きたと予想される時刻より前に、誰かが手動で火災報知器を鳴らしていたそうだ。叩いた痕跡が残っていたらしい。」
中神 恋
「何らかのトラブルがあったと見るべきか。」
拝島 良
「それだけじゃない。警察もまだ犯人の足取りを掴めてないらしい。黒スーツの男たちが部屋に入る姿を目撃されているが、跡形もなく消えた。」
中神 恋
「警察も……ってことは、そっちの筋でもまだ?」
拝島 良
「悪い。こっちもまだ手がかりなしだ。」
中神 恋
「なんだよ。勿体ぶりやがって。」
拝島 良
「仕方ないだろ!こっちはホームレスに情報聞いてるんだぞ。あんなキラキラした場所になんて行くわけない。」
それもそうかと、俺はため息をつくしかなかった。
中神 恋
「……まあ、そっちはそっちで頑張ってくれ。」
拝島 良
「任せとけ。」
事件の裏には何か大きなものが潜んでいる気がする。
中神 恋「慶こそ鈍感なんだよなぁ。それは好にも当てはまるが。」