第3話 交錯
突如として現れた敵組織のリーダー。戦いの決着は...。
中神 恋「!!?」
予想外の展開に、心の中で驚きが爆発した。ろくな奴では無いだろうとは思っていたが、まさかこんな形で出会うとは…。まったくもって、予想外すぎる。
エリック・シンキバ「どうした?怖気付いたか?まあ仕方ないよな。今東京で一番輝いてるのはこのRSなんだから。そのリーダーとなると…」
中神 恋「…」
色々聞きたいことが出来たが、今この場で答えさせられるのも不利だと思った。だから、まずは無視することにした。
エリック・シンキバ「ああ…半年前、歌舞伎町東急タワーで謎の組織に襲撃を受けたという子がいたな…。」
中神 恋「…それって、中神愛と言う名前か?」
エリック・シンキバ「ほう、よく知ってるな。知り合いか?」
偶然妹のことが出てくるとは思いもよらなかった。もしかして、俺の素性も知られているのか。それでも、冷静に切り返さないと、余計な情報を与えることになる。
中神 恋「いや、ここ歌舞伎町でもそれなりに話題になっただろ。だから知ってるだけで、関係ない。」
エリック・シンキバ「ほう、どうでもいいと言うのか。俺からすると、警察の犬がうちのシマに来たとすりゃ、大問題だろう?」
中神 恋「…どういうことだ。」
まるでアクションゲームの主人公みたいな返しをしてしまったが、実際、これ以外言葉が出てこなかった。歌舞伎町タワーのことを「シマ」と呼ぶその言い方が気になったが、それよりももっと重要なことがある。
エリック・シンキバ「この町は実質俺が支配しているから、知っているのも当然だろう。もちろん深い闇の部分についてもな。」
どうやら、思ったよりも侮れない組織のようだ。RSというのは、相当な力を持っている。
エリック・シンキバ「そして今日もまたねずみが入ってきたようだ…青梅連合の中神恋さん?」
中神 恋「…まじか。」
薄々気づいてはいたが、やはりこちらの正体が知られていた。身動きが取れなくなるのも時間の問題だ。
中神 恋「確かに青梅連合なのだが。しかし、なぜ俺個人を?」
エリック・シンキバ「ふっ…質問に質問で返すようで悪いが、今お前が待っている相手について何を知っているんだ?例えば…裏の顔とか。」
斑目さんについてだろうか?青梅連合の大幹部で、人事と指揮を取り仕切っている。でも、裏の顔?そんなものは聞いたこともない…。あの人がそんなことしているとは考えにくいが…。
エリック・シンキバ「なるほど…言ってる事の意味が分からないようだな。あの人も報われないな。それじゃあちょっと教えられないかなぁ。」
あの人?斑目さんのことか?そういえば、さっきこの店にマフィアのドンみたいな服装の男を見たと言っていた…。まさか、裏の顔って…。
中神 恋「RSの関係者か?オーナーとか?」
エリック・シンキバ「それ以上は本人に聞いてみるんだな。流石の俺でも、教えられない。」
中神 恋「…。」
先ほどの質問の意図がよくわからなかった。いや、そもそも意図などないのかもしれない。それに、ここに滞在することで俺の命が危険に晒されるリスクが大きすぎることに気づいてきた。
エリック・シンキバ「それよりも俺が聴きたいのは…お前の悲鳴だ。」
その予感が的中してしまった。エリック・シンキバは、ドスを手に取ると、やる気満々の表情を見せた。
中神 恋「いや、別に大人しく帰りますから!」
シンキバが手を上げた瞬間、店内の客は男と女以外、店員も含めて全員退店した。
エリック・シンキバ「さあ…やり合おうぜ。」
中神 恋「ちょっと待て!」
エリック・シンキバのドスが青く光りだし、その刃から放たれる力は圧倒的だった。ルミノヴェルムの主作用が彼の肉体を強化し、得物にまでその力が宿る。中神はその異常な力に気づき、警戒を強めた。
エリック・シンキバ「行くぞぉぉぉ!!」
シンキバが鋭い一太刀を振り下ろす。速度が速く、間一髪で中神はそれを躱す。
エリック・シンキバ「はは。流石に避けるか。」
中神は冷静に反応するが、シンキバが本気で殺しにかかってきていることは明白だ。手をこまねいている暇は無い。
中神 恋「ふんっ!」
中神は左手を起点にルミノヴェルムの副作用を解放する。彼の拳は閃光のように鋭く、シンキバの防御をかいくぐり続けた。二人の戦闘は目に見えない速さで展開され、打撃の音が何度も空気を裂く。シンキバのドスが光を帯び、鋭い軌跡を描きながら中神を狙うが、中神の身のこなしはそれを紙一重で避けていく。
中神 恋「くらえ!」
中神は隙をついてシンキバの腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。シンキバはわずかに後退し、苦痛に顔を歪める。吐息が荒くなり、一瞬、その場が静まり返る。
中神 恋「この程度か…」
中神は一瞬の勝利を確信し、次の一手を打とうとした。だが、シンキバの目には狂気の光が宿り、不敵な笑みが浮かんだ。
エリック・シンキバ「面白い。まだ終わっていない…これで勝負を決めようじゃないか。」
シンキバはゆっくりと立ち上がり、ドスを片手で掲げた。その瞬間、刃が青白い光を放ち、周囲の空気が震えた。シンキバが刃を振るうと、突如として刃から波動が放たれ、中神の視界が一瞬にして揺れた。鋭い波動が不可避な軌道で彼を襲いかかる。中神は身を捻って避けようとしたが、その波動はまるで意思を持っているかのように追尾し、彼の胸を貫いた。
中神 恋「ぐっ…!」
中神は地面に倒れ込み、息を荒げる。胸から流れ出る血がゆっくりと床を染める中、シンキバが冷ややかに近づいてきた。
エリック・シンキバ「よく戦ったが、俺には及ばない。」
幸いにも、これは致命傷ではなく、ルミノヴェルムの副作用によって自己回復が可能だ。だが、久しぶりに勝てない強敵に出会った気がした。
中神 恋「しかし今の攻撃…まさかオーバーアビリティか?」
オーバーアビリティ、ルミノヴェルムの副作用の到達点であり、肉体や得物の強化に加え、異能力を持つ者たちに与えられる力。これにより、ルミノヴェルムの主作用に対して完全な耐性を得ることができる。中神も珍しく複数のオーバーアビリティを持っているが、先ほどの波動を避けられなければ、無闇に力を曝け出すわけにはいかない。
エリック・シンキバ「ふん。面白いやつだな。」
シンキバはその言葉に興味を持っているようで、楽しげに笑った。
女1「リーダー。貴方が本当に義に厚い人間であるなら、反乱の芽は摘んでおくべきではないかと。そうでないと、報われない方たちが多すぎます。」
エリック・シンキバ「安心しろ、こいつの立場上、そんな大それたことはできないだろう。」
その言葉を受けて、中神は少し考える。しかし、すぐにシンキバの話を続けた。
中神 恋「なあ、今日少し蛇竜をしごいてやったんだが、その際に下っ端のやつが、2ヶ月後歌舞伎町を始め東京は終わると言ってたんだが、心当たりないか?」
シンキバは少し考えてから答えた。
エリック・シンキバ「2ヶ月後?うーん…クリスマスとか大晦日とか、お正月とか?いや知らないな。本当にそんなこと言ってたのか?」
中神 恋「ああ、まあ興味なかったら忘れてくれて構わない。俺もさっきまで忘れてたし。」
エリック・シンキバ「おお。頭の片隅には入れておこうか…」
その後、会話が少し流れ、次に中神が質問を投げかけた。
中神 恋「そういえば、RSって何の頭文字なんだ?」
エリック・シンキバ「さあ?なんの頭文字だろうな?」
その答えが曖昧で、中神は不思議に思いながらも、他には特に聞くことはなかった。日が暮れ、彼の心はどこか疲れていた。
中神 恋「やれやれ、今日は本当に疲れる1日だった。結局斑目さんに会えず仕舞いだったし。それに寿司も食べなかったしな。もう1つの候補地だった「すしソルジャー」にでも行こうかな。」
中神は軽く肩をすくめ、今日は何もかもが上手くいかない日だったと感じながら、その場を後にした。