表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
プロローグ
2/16

第1話 光の果て、闇の兆し

2027年12月25日 お台場海浜公園


夜の帳が降りる中、冷たい潮風が砂浜を撫でていた。月明かりの下、5人の男たちが薄暗い影の中に潜むように集っている。


中低音の声の男「準備はできてるか、お頭くん?」


その言葉に応じて、長ドスを軽く肩に乗せた男が鼻で笑った。


サイドテールの男「だから ‘お’ をつけるなって言ってるだろ。まるで俺が盗賊の首領みたいじゃねえか。俺たちはいつでも行ける。それより澪たちはどうだ?あいつらが鍵だろ。」


言葉が宙を切った瞬間、トランシーバーが低い電子音を立てた。


中性的な声の男「問題ないそうだ。合図さえ送れば、いつでも実行できる段階にある。」


屈強な男「じゃあ、心配はなさそうだな。」


全員の視線が、最後に1人の男に集まった。彼の総髪が、風に揺れる波のように夜の空気を切っている。


総髪の男「皆。今日は思い切りやっていい。これは過去の清算、そして国と俺たち自身の未来を掴むための夜だ。」


彼らは無言のうちに意思を固めた。そして、お台場の海上に浮かぶ煌びやかなリゾート施設へ足を踏み入れる。


外国人たちの声「(なんだあいつら!?)」


施設内に響き渡る怒号と悲鳴。豪奢な廊下に乱入者の足音が重なる中、青龍刀を携えた護衛たちが次々と現れた。


脚長の男「ワッツ!?どこにそんな武器を隠してたんだよ!」


サイドテールの男「ふはははは!血がたぎるな!」


屈強な男「喧嘩上等だ!」


総髪の男「無理は百も承知だ。だが、それでもやるぞ。皆、仲良く狂い咲こうか!」


そう言い放つと、総髪の男は日本刀を引き抜いた。その一閃が夜空を裂き、青い閃光となって敵陣を一瞬で蒸発させた。


外国人の声「(くそっ…まさか究極体か…!)」


総髪の男「ここで耐え切れば、勝利は確定だ!行くぞ!」


その叫びを合図に、抗争は泥沼と化した。外国人たちの人海戦術も虚しく、彼らの猛攻を止める術はなかった。だが、突然の爆発音とともに地面が揺れる。


中低音の声の男「ついに来たか…!恋!お前だけ行け!ここは俺たちが抑える!」


敵陣を突き抜けるように走り去る総髪の男。その瞳には、かつてないほどの決意が宿っていた。


************************************


半年前 ― 2027年10月中旬


ここは、夜の歌舞伎町さくら通り。その一角にある中華レストラン「紫竹園」。朱塗りの柱に包まれた店内の隅で、俺を含めて2人の男が席に腰掛けていた。


1人の隣にある小柄な男が、拝島 良。得体の知れない24歳男性。そしてもう1人、俺は中神恋。同じく得体の知れない24歳男性だ。


中神 恋「…まだ連絡は来ないのか?連絡漏れとかないよな。」


拝島 良「大丈夫だろう。まあ、好の方がちょっと心配だけどな。それにしても、この店の料理、うまいな。もっと宣伝すりゃいいのに。」


中神 恋「やだよ。歌舞伎町の連中には顔が割れてるんだ。俺の料理は趣味で研究してるだけなんだから。」


拝島 良「恋、慶からだ。金龍閣だとさ。場所は区役所通り付近だってさ。ちょっと距離あるな。」


中神 恋「やっぱりそっちにいたか…。慶を行かせておいてよかった。それじゃあ行くか。」


そう言って、俺は立ち上がり、紫竹園を後にした。


(金龍閣にて)


国立 慶「はあ…はあ…いい加減にしろ。」

息を切らしながらも、国立くにたち けいは鋭い目つきで相手を睨みつける。その声には余裕と怒りがない交ぜになっていた。


厨房の男1「分かってんだよ、こっちは!貴様が米原会の残党だってことをな!」

国立 慶「勘違い甚だしいわ…」

慶は肩をすくめ、ため息交じりに言葉を返す。


厨房の男2「誰でもいいんだが、こんな大勢相手に怯まない奴が普通の奴なはずがないんだよ!」

荒い呼吸の中で相手が叫ぶ。しかし、その瞬間、倒れた男たちの無様な姿が目に映る。床に散らばるのは約5、6人の屍。どうやらこの乱闘、慶1人で片付けたらしい。


そんな時、遅れて俺がその場に現れた。


国立 慶「おい恋!遅かったな!もう少しで骨を折ろうか考えてたところだったぞ!」

慶の不満げな声が響く。


中神 恋「おっと、すまん。」

軽く手を挙げながら、俺――中神なかがみ れんは場に加わった。こいつは長い付き合いの友人だ。性格に少々難があるが、その実力は本物。


そして、俺は辺りを見渡しながら静かに告げた。


中神 恋「さて。本職の連中を出してもらおうか。奥にいるんだろう?」

その言葉に反応するように、厨房の奥から新たな男たちが現れる。


厨房の男3「誰が来たかと思ったら…もっと弱そうなのが。」

黒スーツの男1「ククク…ようやくお出ましか。米原会の連中どもよ!」

またその勘違いか――まあ、俺たちの“仕事”には都合がいいがな。


黒スーツの男2「2人だけで来たことを永遠に後悔するが良い!」

威勢だけはいいセリフだ。だが、俺は静かに手袋を外し、左手をさらけ出した。そこから放たれるのは、ルミノヴェルムの副作用――いや、俺の“力”だ。


黒スーツの男1「なっ…!?」

その反応を見ると、自然と笑みが漏れる。そうだ、これができる者は限られている。そして、俺はその中の“完全体”だ。


中神 恋「そうか…ならば仕方ないな。」

男たちが襲いかかる瞬間、俺は軽く一歩下がり、反撃の構えを取った。


黒スーツの男2「脅しやがって!」

大振りの拳が襲いかかる。だが、そいつの動きはスローモーションのように見える。軽くかわし、逆に顔面に拳を叩き込む。


黒スーツの男1「てめえ!」

黒スーツの男3「ふざけやがって!」

次々に襲いかかる2人目、3人目にも、一瞬の隙を突いてカウンターを入れる。


黒スーツの男3「ぐはっ…!」


そして――


黒スーツの男1「ぐっ…何をするつもりだ…!」

1人目の男の首を掴み、俺は力を解放する。


中神 恋「うおおおおおっ!!」

黒スーツの男1「うわあああああ!!」

その叫びと共に、男の体はみるみる消えていった。


残った者たちはその光景に凍りつく。


黒スーツの男2「な、なんだ今の…」

黒スーツの男3「化け物か…」


俺は肩をすくめながら、嘆息する。


中神 恋「最近はこの程度のが多いな。」

国立 慶「幹部諸共、見なくなったよな。」


そんな会話を交わしつつ、俺たちは黒スーツの男たちに向かって冷ややかに言葉を放った。


中神 恋「さて――せっかく出てきたんだ。持っているルミノヴェルムを出してもらおうか。」


黒スーツの男4「ぐっ…!」


ルミノヴェルム――それは、健康を蝕み死に至らしめる毒でありながら、接種者に強大な力を与える薬物。

この薬物には人を分類する段階が存在する。摂取を始めたばかりの「実験体」、死亡リスクを乗り越えた「強化体」、そして究極的に副作用すら克服した「完全体」。

目の前の連中はどう見ても強化体にすら到達していない、ただの使い捨ての兵士たちだろう。


黒スーツの男1「本部に連絡を入れてやる…!」

黒スーツの男4「一昨日来やがれ!」


……まるで定番の捨て台詞だな。


黒スーツの男3「くくく…。」


国立 慶「……何だ?」


黒スーツの男3「くくくくく…!」


中神 恋「どうした、そんなに笑うほど楽しいか?」


黒スーツの男3「お前ら、自分が何をしでかしたか分かってないようだな…!」


中神 恋「どういう意味だ?」


黒スーツの男3「決まっているだろう。お前らはこの街を守れているとでも思っているんだろうが…その幻想も、もうじき終わりだ。」


国立 慶「……なぜだ?」


黒スーツの男3「2ヶ月後……2ヶ月後だ! 今も計画は着々と進んでいる。そして...終わりは、突然訪れるものだ。」


ケタケタと笑いながら、男はその場を後にした。


厨房の男2「……果て、何のことですかねえ?」

国立 慶「さあな。ハッタリか、それとも本気か…。」


中神 恋「……ああ。」


気にはなるが、今の俺にはもっと気にかけるべきことがある。覚えていたらでいい。もうすぐクリスマスだしな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ