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オーバードーズ  作者: 昭島吾郎
第2章 半グレ組織 Rogue Squad
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第15話 光の富士華町

12月3日立川市富士華町。


国分寺 好「ねぇ。この街を少し散策してみない?」

好の鶴の一声で、俺、慶、良の4人で富士華町の景色を楽しむことになった。


中神 恋「いいんじゃないか。少し歩くくらいは。」


国立 慶「ま、ちょうどいい気分転換になるな。」


拝島 良「行こう、行こう!」


4人で歩き始めたのは、立川の街並みの中でもひときわ魅力的な富士華町だ。色とりどりの花が咲き誇り、石畳の道が続くその街は、まるでコルマールそのもののような雰囲気を持っていた。昼下がりの光が穏やかに街を照らし、街の喧騒もどこか和やかで、俺たちの心を自然と解きほぐしていく。


国分寺 好「ここ、カフェいいね。寄ってみようよ。」


言われるがままに向かった先は、街の一角にある小さなカフェ。扉を開けると、甘いコーヒーの香りと温かい空気が出迎えてくれた。店内は落ち着いた雰囲気で、やわらかな光が照らすテーブルに、客たちが静かにくつろいでいる。慶は一瞬その空間に驚いたような表情を浮かべ、良はその静けさにどこか安心した様子で頷いた。


国立 慶「なんだか、こういうカフェって久しぶりだな。喫茶Gehennaとはちょっと違うな。」


中神 恋「確かに。あそこはどこか危険な匂いがしてるけど、ここは全然違うな。」


喫茶Gehennaの雰囲気を思い浮かべると、どこか不安定で暗い感じがする。どこにでもあるような喫茶店ではない、密かな緊張感が漂っていた。しかし、ここは違った。店内の空気は柔らかく、どこか温かみを感じる。木製の家具が心地よく配置され、客たちはゆっくりと時間を楽しんでいるようだ。


拝島 良「この雰囲気、悪くないな。落ち着く。」


中神 恋「うん、確かに。」


カフェの奥には、暖炉の火が静かに燃えている。その温かさが、店全体にほのかな安心感を与えている。俺たちはそれぞれ注文を済ませ、窓際のテーブルに座った。外の景色が、午後の日差しを受けて輝いて見えた。


国分寺 好「ここで、少し休んでから次の場所を探してみようか。」


その言葉に同意し、ゆっくりとカフェの時間を楽しみながら、街を歩く先を考えた。


カフェでの時間を楽しんだ後、俺たちは再び街を歩き出し、ついに目の前に立つ高級百貨店に足を踏み入れた。煌びやかな内装が広がり、豪華な商品が整然と並べられている。その圧倒的な空間に、慶は少し戸惑いながらも興味津々な顔をしていた。


中神 恋「うーん、ここの時計、すげぇな…」


店内を歩きながら、俺は目の前にある高級時計コーナーに足を止めた。ガラスケースの中には、金属の輝きと共に時間を告げる時計が並んでいる。それらはただの時間を示す道具ではなく、まるで一つ一つが芸術品のように感じられる。化粧品コーナーに行くと、


国分寺 好「わぁ、すごい…これ、見て。化粧品のコーナー、すごく洗練されてる。」


好は化粧品コーナーに足を運んで、しっかりと目を輝かせながら高級なスキンケア製品やメイクアップセットを眺めていた。その目は、まるで本当に自分が試すような真剣なまなざしで、製品の成分やブランドにまで気を使っているようだった。


国分寺 好「ねぇ、恋、これ、ちょっと試してみてもいい?あのスキンケア、気になるんだよね。」


好は化粧品のコーナーで、透明な瓶に入ったクリームや美容液を手に取りながら、恋に頼んだ。真剣な顔で商品を見つめ、その使い心地を確かめたいようだ。


中神 恋「ん?試したいって…いいけど…。」


恋は少し考えてから、ここは慶がやるべきだと感じ、慶の方を見やった。だが、慶はすでに百貨店の豪華な雰囲気に完全に飲み込まれていた。


国立 慶「うおっ、ここ、なんだよ…!こんな高級な場所、初めて見たぞ!全部、すげぇ!」


慶は目を見開いてあちこちを見回し、その目線は一つ一つの高級品に釘付けだ。普段のダウナーな性格とは裏腹に、すっかり目が輝いている。


中神 恋「…。」


恋は苦笑いを浮かべながら、慶の反応を見守る。慶はそのまま商品を触ろうとするが、スタッフに軽く注意され、さらに焦った様子でその場で足を止めている。


国分寺 好「まぁ、仕方ないか…慶にはまだちょっと場が堅すぎたかな。」


好は、慶の反応を見て少し笑ってしまう。好も慶の無邪気さを見て、場の雰囲気が少し和んだ。


中神 恋「はぁ、わかったよ。」


恋は少し肩をすくめ、半ばあきらめたような表情で、結局自分が手伝う形になる。慶が場に圧倒されている間に、好の頼みを聞くことになった。ちなみに良は入ることもできなかった。



4人で百貨店を後にして、再び富士華町の街を歩き始める。天気も良く、午後の日差しが街を温かく照らしていた。街の雰囲気は落ち着いており、どこか異国情緒が漂うその景色に、誰もが心地よさを感じていた。


国分寺 好「うん、ちょっと気分転換になるし。」


慶は依然として百貨店の圧倒的な雰囲気から抜け出せていない様子だったが、それでも徐々に落ち着きを取り戻し、また歩き始める。良は先に少し歩いていて、静かに街並みを楽しんでいる。


歩きながら、恋たちはふと一角に差し掛かり、目の前に高い壁が見えてきた。見上げると、その壁はまるで街を囲むかのように続いており、簡単に越えられるようなものではない。


中神 恋

「ん?この壁、なんだろう。」

恋は立ち止まり、壁をじっと見つめた。その先には、見慣れない区域が広がっていたが、壁が邪魔をして近づくことができない。


国分寺 好(好)

「これ、見たことないな…。なんか、入れないエリアみたいだね。」


国立 慶「うわ、すげぇ壁だな。まるで牢獄みたい…。」


慶が呆れたように壁を見上げるが、さすがにその先のことまではわからなかった。


国分寺 好「そう言えば、富士華大聖堂ってあるよね?この街のシンボルみたいなもので、ゴシック様式の大聖堂だってニコから聞いたよ。」


好がふと思い出したように話し出した。彼女の表情が少し興奮気味で、街の歴史や美しい建造物に興味が湧いている様子だった。


中神 恋「富士華大聖堂か…見てみたいな。」


恋はその名前を聞いて少し心を動かされる。しかし、まだ壁の向こうに気を取られ、すぐには足を進められなかった。


国分寺 好「それに、ニコが言ってたんだけど、もう一つ謎の城があるんだって。黒華城っていう名前なんだけど、あれは...確かシャンボール城がモデルで、ルネサンス様式のかなり大きい塔と尖塔が特徴らしい。」


その言葉に、恋も慶も興味を引かれた。黒華城。普段あまり耳にしない名前だが、その雰囲気を想像してみると、何か異様な魅力を感じさせる。


国立 慶「謎の城か…、なんか気になるな。でも、あの壁が邪魔だよな。」


慶が壁を指さして言った。その高い壁が、まるでその先の場所への入り口を塞いでいるかのようだ。


中神 恋「黒華城...シャンボール城か。フランスオタクとしてはこっちもいつか行ってみたいな。」


恋は壁を再度見上げ、もう少し先に進んでみようかと考えていたが、好がその先を指差して言った。


国分寺 好「でも、あの壁ってどうしてこんなに高いんだろうね。なんか、閉じられた世界が広がってるみたいな感じがする。」


中神 恋「うん…。何か、隠されたものがあるのかもな。」


その言葉が、どこか不穏な響きで響いた。まだその真意はわからないが、恋はひとまず歩みを進めることにした。


その後、恋たちは壁の前で立ち止まり、しばらくその先に広がる謎の世界に思いを馳せたが、結局その壁を越えることはなかった。気になりつつも、今日はそれ以上踏み込まずに帰路を取ることにした。


国分寺 好「やっぱり、今日はもう帰るしかないよね。あの壁、気になるけど、今はちょっと近づけないし。」


中神 恋「そうだな。今度また、何かの機会に見に行ければいいな。」


街を歩きながら、三人は自然に別の話題に切り替えていった。帰り道の静けさが、どこか心地よく感じられた。


国分寺 好「今日みたいにゆっくり散歩するの、久しぶりだったけど楽しかったね。」


拝島 良「うん、いいリフレッシュになった。たまにはこういうのもいいかもな。」


国立 慶「またいつか行きてえな。」


歩きながら、恋は遠くに見える街並みを眺めた。日差しが優しく、風も心地よく感じられる。友人たちと過ごした時間、笑い声が響くカフェでのひとときが、まるで昨日のことのように思い出される。


恋は、過去に何度も手に入れたものを手放してきた。そのたびに新たな目的を掲げ、仲間を得て、恋人を作った。それらの多くは、地位や力を手に入れるための手段だった。しかし、今、こうして一緒にいる友人たちとの関係は、どこか異なる。目的や計算ではなく、ただ深い信頼と愛情に基づいて結ばれている。何かを求めていたはずの自分が、気づけば無意識に手にしていたその絆は、計り知れない価値を持っていることにようやく気づいた。


「本当に大切なものは、目には見えない...サン=テグジュペリの言葉か。」


恋は静かに口を開く。その言葉は、誰かに向けて話しているわけではなかったが、どこか自分自身に向けた言葉のようにも感じられた。過去の失われたものを振り返ると、それらがどんなに大きく見えたとしても、今の自分にとってはもう意味を成さない。だが、目に見えないこの愛情が、何よりも強く、深く、心を支えていることを彼は感じていた。


「あの時とは違う。今は本当に、大事なものが見えてきた気がする。」


彼の瞳は、どこか懐かしさと柔らかな温もりを含んで、遠くを見つめていた。そのまなざしには、過去に培われた強さと、何気ない瞬間の美しさを大切にするような優しさが滲み出ている。その瞳が語らなくても、全てを伝えてくるようだった。


恋は小さな笑みを浮かべながら、歩みを進めた。

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