第9話 熱戦
第10話は来週金曜午後7時10分投稿予定です。
国分寺 好「どうしてそうなったのよ…」
つい先程の出来事を説明すると、好たちは完全に困惑している様子だった。
国立 慶「紫竹園の店員も哀れだな…」
中神 恋「まさか、ただ働きに来ただけで自分の首がかかるなんてな。」
俺が紫竹園を経営しているのは、青梅連合からの命令によるものだ。
熊川 巴「で、勝算はあるの?」
中神 恋「一応ね。ハロウィンフェスだろ?仮装すれば顔も隠せるしな。お前らにはあらかじめ大金渡しておくから、当日、仮装を変えながらうちの食品を買いまくってくれ。」
仁涯 海斗「はは…分かった。」
中神 恋「手段を選んでる場合じゃないだろう。それに相手は、他人を平気で恐喝するような畜生だ。こんな方法で勝ったとしても、悔やんだりしない。」
斑目さんについて何か知っているなら、その情報は興味がある。
国立 慶「それも一理あるな。でも、相手は黒澤だぞ。向こうが裏技みたいなものを使ってくる可能性もある。妨害されるかもしれない。」
中神 恋「それは想定してる。赤塚、黒澤から何か命令はあったか?」
赤塚 神太郎「呼び捨てかよ…まあ、いいけど。特に無かったな。あったとしても、お前に教えるかって話だが。」
熊川 巴「案外、真っ向勝負で来るんじゃない?あいつ、バカ真面目なところもあるから。」
中神 恋「それなら、逆にありがたいな。確実に勝てる。」
その後、ひとまず解散した。しばらくすると、携帯が鳴った。拝島からだ。
拝島 良「恋、5日ほど前に会ったホームレス連中、覚えてるか?」
中神 恋「ああ。あの、すごく弱かった連中か。」
拝島 良「あの中で、ガタイの大きい男は?」
中神 恋「覚えてる。確か、あの中でリーダー格だった男だ。」
拝島 良「そいつの名前は“敷間”だ。俺のホームレスネットワークの一部を担っている。」
中神 恋「なるほど、お前の部下だったのか。でも、あの階に住み込んだ理由、分かるか?その時、聞くのを忘れてた。」
拝島 良「どうやら、依頼によるものらしい。匿名だから誰かは分からないけど。」
中神 恋「依頼?」
拝島 良「特定のメンバーとあの部屋に住んで欲しいって。」
中神 恋「なるほど。お前の指示じゃなかったんだな。待てよ。敷間、あの時、“事件が起きるのを見計らっていた”とか言ってたな。警察がいなくなった後、依頼されたんじゃないか?」
拝島 良「確かに。ますます、匿名の人物が気になるな。あのホテルで事件が起こることを知っていたのかもしれない。」
中神 恋「またその犯人かもしれない。ところで、敷間は今どうしてるんだ?」
拝島 良「事業再開に合わせて追い出されたらしい。それで、俺に泣きついてきたんだ。今までホームレスだったんだから、またホームレスすればいいのに。」
中神 恋「一度手に入れた温かみは、簡単には捨てられないんだろうな。それで、他の4人は?」
拝島 良「他の4人は知らん。」
中神 恋「知らない?」
拝島 良「少なくとも、俺のネットワークには関係ない人物だな。敷間も面識がないらしい。」
中神 恋「何か、臭うな…。良、敷間は信用できると思うか?」
拝島 良「数千人のネットワークの1人に過ぎないから、よく分からん。ただ、少なくともあいつは事件当時、店外の状況に詳しかったんだろ?あいつの線は、無さそうだが。」
中神 恋「それもそうだな。」
拝島 良「とりあえず、あの四人について調べてみる。何か分かったら、すぐに伝えるよ。」
中神 恋「ありがとう。それじゃな。」
あのホームレスが関わってくるとはな。まあ、あいつらが犯人だった場合、あそこにいた理由が監視だったということなら納得がいく。まさか俺、もうすでに目をつけられている…なんてな。
31日晩、いよいよ運命のハロウィンフェスが始まった。改めて「晴天屋」オーナー、黒澤 聖との勝負だ。向こうは自信満々で、オーナー直々に取り仕切るつもりらしい。
黒澤 聖「儂の店と勝負するとはな。おどれらの命運もここまでじゃ。」
その言葉に、こちらも負ける気はしなかった。秘策があるからだ。
国分寺 好「へ?おどれ”ら”??」
国立 慶「恋、大変だ。あらかた計画に乗ってくれそうな人をかき集めたが、皆全く金持ってない。」
中神 恋「なんだって。」
予想外の誤算だった。代々木にはかなりの客が集まるはずだったが、集めた人数は30人程度。しかも全員、金なし。
国立 慶「個数で勝負するのはどうだ?」
中神 恋「それだ!」
まだ明確なレギュレーションは決まっていないが、少量で安く提供すればいい。黒澤にその旨を伝えに行くと、予想外の返答が返ってきた。
黒澤 聖「それじゃあ、お互い同じ量で同じ値段にしようや。」
暴論、いや、正論だった。ちょうど晴天屋も丼で対抗するつもりらしいので、こちらとしては都合が良かったが、納得いかない部分もあった。
仁涯 海斗「どのメニューで行くんですか?」
中神 恋「チャーシュー丼にする。」
玉川 好「美味しそ〜。イベリコ?」
中神 恋「いや、黒豚だ。故郷支援という名目でやってるからな。」
上野 円「まあ私たちの故郷は…。」
中神 恋「オイヤメロ。」
熊川 巴「ところで、恋が直接調理するの?」
中神 恋「まあね。実質店長みたいな所あるし。何より今は賭けに出ているし、それに巻き込まれた部下に任せるのは気の毒だろう。」
熊川 巴「ふーん…」
国分寺 好「楽しみねぇ。できる限り食べてみせるから!」
中神 恋「期待してるぞ…知名度がないから、俺の腕よりそっちの方が重要かもしれないな。」
午後7時、フェスは特に始まりの合図もなく、紫竹園と晴天屋が早めに開店する形で勝負がスタートした。
中神 恋「うへぇ。まだ繁忙期じゃないはずなのに忙しい。8時で一旦休みたい…」
紫竹園店員1「その時こそオーナー店長にいてもらわなきゃ困ります…。」
大した宣伝はしていなかったものの、紫竹園はそれなりの料理店だったので、ある程度の客を得ることができた。しかし、まだ心許ない。
晴天屋に負けると、青梅連合から解雇され、斑目さんとの繋がりも消え、愛が入院している病院との繋がりも断たれてしまう。そんな危機感を感じながら、何とかアドバンテージを得ようと必死だった。すると、
拝島 良「よう。あ、忙しそうだな。今無理。」
珍しく拝島が外出していた。
中神 恋「いや、話してもいいぞ。どうかしたのか良?」
拝島 良「焦っている様子だな恋。」
中神 恋「そりゃそうだろう。青梅連合から解雇されれば斑目さんとの繋がりが消え、それが愛が入院している病院との繋がりも断ってしまう。ちなみにお前も危なそう。」
拝島 良「げ、まじか。いやまあそんな予感はしていたが。まあでも安心していいと思うぞ。そんな構成員30人に託すなんて馬鹿なことを考えなくても、天命はきっとお前の方に来るさ。」
中神 恋「急にファンタジックな考えに…。まあそう考えていないとやっていられないが。実際今は負けた時の対処を考えているが。」
拝島 良「ていうのは冗談だ。しかし…そろそろ来るかな?」
その言葉を聞いた瞬間、ふと不安が過る。何のことだろうと思った瞬間、突如として謎の集団が現れた。まさか、ホームレスの仮装か?見た目はそれほどお金を持っていないように見えるが、何よりその人数が多い。そして、
紫竹園店員2「ふわぁ!?オーナー!いつの間にか人がこんなに!?」
その謎の集団が一斉に紫竹園の屋台に並び始めた。
玉川 好「ちょっとなに!?この人だかり!」
黒澤 聖「なんじゃと!?小癪な!!」
拝島 良「やったな!これで一気に差が広がるだろう!やっぱりお前は持ってるんだ!」
午後12時、疲れすぎて代々木公園で一息ついていたところだった。
中神 恋「良、別に俺は正規の手段に拘っていない。だから教えて欲しいんだが、あの集団は歌舞伎町から来たホームレス達だろう?」
拝島 良「なんの事かさっぱりだ。」
中神 恋「…」
とりあえず、これで破門の線は無くなったし、ひとまず斑目さんの現況についてでも聞いてみるか。
中神 恋「黒澤。何やら斑目さんについて知っているような口ぶりだったが、何か知っているのか?」
黒澤 聖「知ってるも何も、斑目の奴は儂にしか連絡してん。」
中神 恋「黒澤にしか?まあでもお前らは青梅連合の中の大幹部だし、その中でしかやり取りできないこともあるのか。」
黒澤 聖「話が早くて助かる。」
中神 恋「でもこっちは雇用を賭けて挑んだんだ。せめて何してるかだけ聞けないか?」
黒澤 聖「何してるか…まあ、大したことはしてあらへん。今んところ蛇竜の統帥に日本からの撤退を勧告しに行っとるわ。」
中神 恋「それだけか?それなら青梅連合の誰かにでも連絡してもいい気がするが。」
黒澤 聖「儂にもよくわからん。ただ、少なくとも今生きていることは間違いない。」
中神 恋「そうか…。ところで、この間NSの頭目と会ったんだが、その時直接は名指ししなかったが、斑目と面識あるような口ぶりだった。何か知っているか?」
黒澤 聖「RS…?そいや最近聞かなくなったな…いや何も知らんわ。あったとして、何するか想像もつかん。」
中神 恋「そうか。」
期待していなかったが、ひとまず斑目さんが生きていることだけでも確認できたので、少し安心した。
中神 恋「今日は疲れすぎた。一日中寝よう…そう言えばもう11月になったのか…。」
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