先日、病院にて
一部、実体験をもとにしていますが、この物語はフィクションです。
僕は、入院中の伯母をお見舞いするため病院に来ていた。
新型感染症への配慮もまだ残っていて、一度に病室へ入れる人数には制限がかかっている。
先に母と姉が病室に向かい、僕はエレベーター前の待合スペースに置いてある椅子に座って待つ。
テレビとかもなく、仕方ないので窓から外を眺める。ここは八階なので町の景色が良く見える。
ギィ…カチャン。ギィ…カチャン。
(何の音だ?)
気になって、音のする方を、エレベーターの反対側をのぞき込む。
そこには、重い扉を開けようとしている女性がいた。車いすに乗っているから、開けるのがとても難しそうだ。
(困っているんだな。手伝ってあげないと。)
僕は席を立って、彼女の隣に行く。
「お手伝いしましょうか。」
「ありがとう。」
彼女は、か細い声でお礼を言う。
結構重たい扉だ。僕は力を籠める。
ギィ…
「優しいね。ありがとう。」
「いえ、どういたしまして。」
彼女は扉の先に進み、扉がゆっくりと閉まる。
(良いことできたな。)
閉まり切る直前、彼女は早口に言った。
「私、早く帰りたい。お家はすぐそこなのに、誰も迎えに来てくれない。」
…カチャン。
扉が閉まった。
一瞬の静寂、の後。
僕の目の前には「非常階段」と書いてある扉。
慌ててもう一度扉を開く。
もう彼女はそこには居なかった。