第98話 実戦⑤
3日が過ぎた夕方に、アシャーリーの教育係である“魔女さん”が戻ってきた。
僕の父上が、お礼として、新たに[金貨の入った革袋]を渡してくれたらしい。
これらは、アシャーリーや先生に分配されるそうだ。
あとあと聞いた話しによれば、先生が貰ったぶんの殆どは職人さんがたに報酬として支払ったとの事だった……。
▽
5日が経った朝。
本館の[庭]に、いろんなヒトが集まっている。
久しぶりの実戦に赴くために。
セゾーヌは、[額当て/肩当て/胸当て/肘当て/籠手/膝当て/脛当て/足甲]を纏っていた。
本人の希望らしく、全て“青色”だ。
武器は、籠手の拳部分に“幾つかの突起物”が付いている。
先生が言うには、
「地球では“ナックル”と呼ばれているみたいです。」
とのことだった。
さて…。
今回は、タケハヤ島の南東にあるという[渓谷]が目的地らしい。
数日前、そこのダンジョンマスターを冒険者達が倒したそうで、ルシム大公が〝状況を視察する〟といった表向きの理由で封鎖させたのだとか。
なんでも、この地域の領主に命じて、渓谷から500Mくらい離れた円周を、兵士たちに囲ませているそうだ。
それだけでなく、島中のギルドから〝この日は渓谷に近づかないように〟〝従わなかった場合は大公より厳罰に処される〟と冒険者に知らせたらしい。
……、かなり大袈裟な気がするけど、どこにも僕の情報が洩れないよう配慮してくれた結果だった。
一方で、冒険者達は、かつて[チキュウビストロ関連店]に夢中になりすぎたあまり大公を怒らせたので、〝触手目玉が本当に消滅しているのか御自身で確認なされたいのだろう〟〝一度でも信用を失った我々に異議を申し立てる権利はない〟と納得しているそうだ。
かくして、【テレポート】すべく、魔女さんが詠唱を開始する…。
▽
渓谷の“北西”に移ったらしい。
「では、参りますかの。」
大公が歩きだし、これに誰もが続く。
ちなみに、ヴァイアのところは、“竜人の双子さん”だけでなく、“三兄のガオンさん”も参加している。
〝ここ暫くは城内でばかり過ごしていて外出してないから気分転換に〟との理由で。
こうしたガオンさんには〝今日の顔ぶれで一番強いだろう〟との事で大公が最後尾を頼んでいた。
先生はというと、昨年と同様に“トラヴォグ公爵”のみだ。
セゾーヌは、父親が魔物に襲われて亡くなったのもあって、母親にとても心配されていたけれど、大公が〝全員で必ず護る〟と約束し、落ち着かせていた。
とにもかくにも、僕たちは渓谷へと足を踏み入れてゆく……。
▽
暫く進んだら、左から右へと川が流れていた。
それを渡るために、三本一束の[丸太橋]が架けられている。
こういった簡単な作りに、アシャーリーが不安げになっていた。
セゾーヌは、平気みたいだ。
その上を通った後、雑木林を歩く僕らだった…。
▽
何分か経ち、いくらか開けた場所に出ている。
ここら辺り一帯は、崖だらけになっていた。
また、何本もの道が見受けられる。
「あれらは迷路みたいになっているはずですよ。」
そう教えてくれたのは、“ハーフエルフのリィバ”だ。
「どれを選びます?」
“次男のルムザさん”に尋ねられ、
「うぅ~む。」
大公が悩む。
こうしたところで、獣人達が〝ピクッ〟と反応する。
「何か来ます。」
「それも、結構な量が。」
代表して伝えてくれたのは、“ユーン”だった。
数秒後、右斜め前から飛んでくる“蜂の群れ”が視界に映る。
……、いや、蜂、だよね??
なんか大きいんだけど?
全長50㎝はありそうな…。
しかも、何百といるんですけれど??
「“キラービー”か。」
そのように呟いたのは、“隻眼のベルーグ”だ。
ここで、獣人たちが一斉に振り返る。
「後ろからも迫っています!」
ユーンに告げられて確認しみたら、そっちは1Mありそうな蜂の“集団”だった。
数は“前から迫るグループ”の半分くらいだろう。
「“キラーホーネット”だな。」
こうガオンさんが認識したところで、
「儂が前方を受け持とう。」
“魔術師のレオディン”が述べ、
「でしたら後方は私が請け負います。」
アシャーリーの教育係である“魔女さん”も立候補する。
そこから、レオディンが、
「冥界の深淵より淀みを引き寄せん。」
「我が呼び声に応じて、出でよ混沌。」
「秩序を歪め、敵対せし者らに嘆きを与えるべし。」
空中に[直径4Mの魔法陣]を展開してゆく。
魔女さんは、
「真紅の霧よ、猛威を振るえ。」
「禍々しき力を解き放ち、不自由を与えるがいい。」
「全てを縛るために躍動ずべし。」
宙に[直径2Mの魔法陣]を構築した。
タイミングを計って、
「デッドリーポイズン!!」
レオディンが“紫色”の、
「パラライズ!」
魔女さんは“赤色”の、煙幕みたいなものを、真下に噴射させる。
どちらも、魔法陣に等しい大きさで、[闇属性]だ。
ただし、【猛毒】は[極級]で“4分”は持続し、【麻痺】は[高級]で“2分”の制限時間となっている。
これらによって、前後ともに七割は動きを止めた。
範囲外だったモンスター達は、なおも突撃してくる―。




