第97話 過ぎゆく季節のなかで⑥
僕たちが[大公の館]に戻った10日後。
改めて父上が“ルシム大公”に手紙を送ってこられたらしい。
[ペガサス便]からの[ケンタウロス便]を経由して。
なにはともあれ。
“リーシア姉上”と“妹のエルーザ”が、トースト類を食べたがっているのだそうだ。
そのため、セゾーヌの“母方の祖父”に、大公が[食パンの型箱]を何個か発注したらしい…。
▽
翌朝。
先生が、伯母にあたる“フィネルンさん”と、[本館]に訪れた。
例の[娯楽施設]について、大公に話しがあるらしい。
先生が【お取り寄せ】した“何冊かの本”と、数名の職人さんによる“幾つかのミニチュア模型”に、フィネルさんが引いた“建物の設計図”を用いて、[会議室]でプレゼンするとのことだ。
あと、ヴァイアと“竜人の双子さん”も【テレポート】してきている。
こちらは、いつもの鍛錬のために。
余談になるかもしれないけど、ヴァイアは、普段、自主トレしているらしい。
ただし、“三兄のガオンさん”が暇なときは稽古を付けてくれるそうだ。
また、読書で分からない事があれば、知識が豊富な“次兄のドゥーラさん”が教えてくれるのだとか。
“長兄のラゴーンさん”は、祖父君や父君の政務を補佐する時が多くて忙しいため、ヴァイアも遠慮がちになっているらしい。
それらはおいといて……。
今日は、セゾーヌも、僕らと共に修行している。
アシャーリーは休みなので、自室に居るのだろう。
“お酢づくり”に関しては〝2ヵ月~3ヶ月は待たないと発酵しない〟そうだ。
セゾーヌがアシャーリーから預かった書籍によれば、更に240日~300日の熟成期間を要するのだとか。
なので、年内の完成を目指しているらしい。
ちなみに、[別館]で試しているため、何日かに一度はアシャーリーとセゾーヌがあちらに通って状況を確認していたりする。
まぁ、渡るのは、“教育係の魔女さん”による【テレポーテーション】で、だけれども…。
なお、セゾーヌの[戦闘スキル]は“武術:壱”のみだ。
とはいえ、割と素早い。
以前、アシャーリーが「前世の吉野さんは運動神経が良いほうだった」と言っていたことがある。
もしかしたら、転生した僕達には、日本人だった頃の諸々が影響しているのだろうか?
パナーア様あたりにお伺いしてみたいところだけど、まだ謹慎中なのか、あれ以来ご拝顔していない……。
▽
昼食後。
暫くしてから、先生が再び来訪なされた。
セゾーヌの装備品を作るのに、採寸するため、ドワーフとエルフの女性を1人ずつ連れている。
僕とアシャーリーは、[客間]で先生と語らう。
各自、“珈琲”や“紅茶”を飲みつつ。
主に、大公と“次男のルムザさん”に、先生がどのようなものを提案したのか、聞いていく…。
▽
5日が過ぎて、数個の[型箱]が届けられた。
いつもは、お弟子さんの誰かしらが持ってくるのだけれど、敷地内で停まった[馬車]から降りてきたのは、代表を務める“セゾーヌの祖父君”だったらしい。
〝娘と孫がお世話になっているから〟との事で、大公に挨拶しておきたかったそうだ……。
▽
一週間が経っている。
先生が、[パスタの製麵機]に[業務用ジューサー]や[バター製造機]を二つずつ、運んできてくれた。
【アイテムボックス】に収納して。
なんでも、この間、大公が依頼していたらしい。
〝食パンの型箱と一緒にダイワ王城にお送りしよう〟とのことで。
このため、アシャーリーがレシピなどを新たに準備してくれた。
それらを入れた[木箱]を、魔女さんが届けてくれるそうだ。
城内への【テレポーテーション】は許可が下りていないので、王都の外に赴くらしい―。




