第95話 訳柄④
翌朝となり、[食堂]へと足を運ぶ。
ちなみに、危惧していた襲撃は起きなかったので、ぐっすり眠れた。
さて。
ご飯はというと“ソフトフランスパン×2/お好みでバター/スクランブルエッグ/厚切りハムステーキ×2/野菜スープ”だ。
やはり、誰もが嬉しそうにしている。
“妹のエルーザ”は特に興奮気味だった……。
▽
朝食を済ませた約30分後、[王城の一階エントランス]に主だった人々が集まっている。
昨日の父上よれば〝まだ暗殺者たちや黒幕が見つかっていない〟との事だったので、僕は引き続き[大公家の本館]に身を隠すことになった。
家族と順番に別れの挨拶を交わしていったところ、最後の妹が〝モジモジ〟しだす。
「どうした?? エルーザ。」
僕が尋ねてみたら、
「ラルにぃさま…、ナデナデ、させてあげても、いいよ?」
そのように言ってきた。
いささか呆気にとられた僕だけれども、すぐに頭を優しく撫でてあげる。
これに満面の笑みを浮かべた妹が、
「また来てね、にぃさま♪」
無邪気に伝えてきた。
改めて、
「達者でな。」
父上に声をかけられ、
「はい。」
僕が頷く。
そこから、
「……。」
「では、参ります…。」
「時空よ、我らに狭間の境界を越えさせ、彼方へと導け。」
「瞬間移動。」
“魔術師のレオディン”によって【瞬間移動】するメンバーだった……。
▽
館に戻った僕らは、[執務室]へと赴く。
椅子に座って書類に目を通していたらしい“ルシム大公”が、立ち上がり、
「お帰りなさいませ。」
僕に会釈する。
「ごめん、また暫くお世話になるよ。」
「迷惑かけちゃうけど。」
苦笑いした僕に、
「いえいえ、なんのなんの。」
「賑やかで楽しい限りですわい!」
「どうか、気兼ねなく、お過ごしくだされ。」
嬉しそうに返す大公だった。
「ありがとう。」
お礼を述べた僕は、
「父上から大公に渡すよう預かっているものがあって…。」
「開け、アイテムボックス。」
[小規模の亜空間収納]から手紙を取る。
同じく[アイテムボックス]を展開させた“隻眼のベルーグ”は、大きめの革袋を引っ張り出す。
「革袋には金貨が入っているそうなんだけど、料理を行なってくれた人たちに5枚ずつ、レシピも作ってくれたアシャーリーには10枚。」
「で。」
「以前、大公が支払ってくれた僕らの装備品の代金と、いろいろ面倒みてくれているぶん、らしい。」
このように教えた僕を、
「よろしいので??」
大公が少なからず目を丸くしつつ窺う。
それに対し、
「遠慮なくどうぞ。」
穏やかに勧める僕だった……。
▽
この日の昼食時、
「だいぶ暖かくなったので、そろそろ魔物討伐を実施しようと思う。」
「今年は合計で四回を予定しておりますので、ラルーシファ殿下もそのつもりでおられてください。」
そうした大公の発表を、
「うん、分かった。」
僕は前向きに捉える。
一方で、アシャーリーが〝ええ~?〟と嫌そうにした。
“吉野薫さん”こと“セゾーヌ・ディメン”は、いくらか不安がっているみたいだ。
「一回目の場所は決まっているので??」
アシャーリーの父親にあたる“ルムザさん”が質問したところ、
「いいや、候補地の資料を調べてはおるが、今のところは。」
大公が首を横に振る。
これらの流れで、
「ヴァイアと先生にも知らせないとね。」
「今度、来たときに。」
「あ。」
「セゾーヌの武器や防具を依頼してあげないと。」
そう口を開いた僕に、
「ふむ。」
「仰せの通りでございますな。」
「では、必ずや注文すると致しましょう。」
このように約束してくれる大公だった―。




