第93話 帰郷・破
お昼の[食堂]には、二台のテーブルが置かれていた。
これらに並んでいる品々に、僕の家族は興味津々となり、“教育係”と“お世話係”は満悦そうにしている。
片や僕と家族が着席していき、もう一つの方には“教育係&お世話係”が腰掛けていく。
配膳されているのは、“トースト2種/プレーンオムレツ/ポテトチップス/ヨーグルト/野菜スープ/飲料水”だ。
そのような状況で、
「これらは、先日、スコーリ王国の件で相談に訪れた“タケハヤ島のルシム大公”が献上してくれたものだ。」
「なんでも、あの島で〝ここ最近かなりの人気になっている料理の数々〟らしい。」
「ラルーシファが帰ってくる今日に合わせて、亜空間収納を備えている給仕達に保管させておいた。」
「まぁ、誕生日の乾杯は夜に行なうとして…、取り敢えず、いただくとしよう。」
こう父上が述べられた。
少し脱線するけど、その給仕たちの[アイテムボックス]は“小規模”らしい。
この場合、一週間ほどは温度と新鮮さを保てるそうだ。
〝それを過ぎると次第に冷めていき、徐々に腐る〟と、以前、“ハーフエルフのリィバ”が授業で教えてくれたことがある。
つまり、大公が届けてくれた料理は、どれもがまだ〝作りたての状態〟というわけだ。
……、さて。
全員が「いただきます」と挨拶した。
そうして、両親は“プレーンオムレツ”を、ラダン兄上が“ハムエッグチーズトースト”を、リーシア姉上とエルーザは“はちみつバタートースト”を、口に運ぶ。
この流れで、〝ぬあッ?!!〟と驚いた5人が、〝ふはぁ~♪〟と至福の表情になる。
一方、別のテーブル席では、
リィバ
「ナンデス?? コレハ?」
「トテモオイシイデスネー。」
“片目のベルーグ”
「タシカニ。」
「ハジメテタベタケド、クセニナリソウダ。」
“細長眼鏡のマリー”
「エエ。」
「ドウカンデス。」
“魔術師のレオディン”
「シアワセナヒトトキジャノウ。」
“獣人のユーン”
「マサニソノトオリデゴザイマス。」
といった具合に喋っていた。
僕達がタケハヤ島で生活しているとバレないよう、予め〝芝居を打つ〟と決めていたのだけれども……、皆、棒読みで、演技が下手すぎる。
その分かりやすさに僕は〝ハラハラ〟したものの、食事に夢中な家族は気づいていない。
まさに取り越し苦労だった…。
僕が〝ホッ〟とするなか、
「これは、フォークで刺したら割れてしまいますわね。」
母上が呟く。
どうやら、“ポテトチップス”のことらしい。
「おそらく、指で抓むのではないでしょうか??」
「こうやって。」
僕が知らないふりをしつつ食べてみせたところ、続いた家族が瞳を輝かせた。
いや、まぁ、ずぅーっと目を〝キラキラ☆〟させてるけど……。
▽
食べ終えた全員が、嬉しそうに余韻に浸っている。
こうしたなか、
「もしかして、今日のお夕飯からまた元に戻るのかしら?」
姉上が独り言のように疑問を呈した。
それに兄上と妹がショックを受ける。
「いや、その、なんだ…。」
「大公が発案者に頼んでいてくれたらしく、いろいろな製法が書かれた用紙を貰っていた。」
「多忙だったのもあり、つい忘れていたが、今朝がた思い出し、この城の料理長に渡しておいたから、心配するな。」
「それと、明日の朝までは、大公が持って来てくれた物を味わえるぞ。」
こう父上が述べたら、皆の表情が明るくなった。
更には、〝うひょー!〟と興奮して、椅子から飛び降りた妹が、何やら舞いだす。
なんだか〝下手な阿波踊り〟みたいな印象だ。
「……。」
「エルーザ、それは??」
僕が尋ねてみたところ、〝ピタッ〟と動きを止めて、
「そっきょう、よろこびのまい!!」
〝ムハァー♬〟と息を吐く妹だった―。




