第92話 帰郷・序
僕らが[ダイワ王城の一階エントランス]に【テレポート】したところ、その場にいた兵士たちが、槍を構えたり、腰に帯びている剣の“柄”に手を掛けた。
〝敵襲か??〟と誤解したのだろう。
けれども、隊長格の男性が、
「これは、第二王子殿下。」
「御無礼いたしました!」
すぐに跪き、他の兵も急ぎ倣った。
それらに対し、
「あー、うん。」
「別にいいから、全員ラクにして。」
このように述べる僕だった……。
▽
隊長格によれば、父上は[大執務室]におられるそうだ。
廊下を歩きつつ、
「かなりの数の兵士が配置されていますね。」
「なんだか雰囲気が物々しい限りです。」
“ハーフエルフのリィバ”が口を開く。
「ま、ラルーシファ殿下がお戻りになられたとあらば、暗殺者どもが再び狙ってくるかもしれませんからな。」
「陛下が警戒なされたのでしょう。」
そう“片目のベルーグ”が推測したら、
「にしても、多すぎじゃな。」
“魔術師のレオディン”が呟いた。
「ええ、そうですね。」
「これでは却って〝お城にラルーシファ王子が居る〟と宣伝しているようなものでしょう。」
「首謀者が情報を掴めば、危険性が高まります。」
こう指摘した“細長眼鏡のマリー”に、
「それも陛下の計略かもしれません。」
「〝不審な輩が現れようものなら確実に取り押さえる〟といったお考えなのでは?」
「とは言え、黒幕が余程のバカでなければ、暗殺者達を送り込んだりはしないでしょう。」
「ソイツラが捕まったうえに白状すれば、自分のところに辿り着かれかねないので。」
「そういうのも含めての厳戒態勢かと。」
そのようにベルーグが答える…。
これは余談になるけど、以前お城で暮らすようになったレオディンや、[ユニコーン車]を使っていたリィバは、【瞬間移動】を扱えるのだから、(その魔法で都の自宅から通えたのでは??)と思わなくもない。
ただ、王である父が許可していなかったので、無理だったそうだ。
まぁ、父上だけでなく歴代の国王や女王は“火急の用”でなければ認めなかったらしい。
今回の僕たちは特例なので問題ないけれど。
なんにせよ。
父のもとに進む僕らだった……。
▽
入室したところで、父上が〝スッ〟と起立する。
その側には、母が佇んでいた。
兵の誰かしらが走って知らせるとかして、母上は先回りしたのだろう、きっと。
いずれにしろ。
足を止めた“教育係&お世話係”が、床に片膝を着く。
これらを待って一拍おいた僕は、
「父上、母上、お久しぶりです。」
「ラルーシファ、ただいま帰りました。」
お辞儀する。
そうして、
「うむ。」
「皆、息災だったようだな。」
「さ、ラクにせよ。」
穏やかに告げる父だった…。
▽
まずは僕が“アシャーリーのレシピ”を、次にレオディンが“タケハヤ島での日々をまとめた記録”を、父上に差し出す。
ここから、父と僕は、ちょっとした雑談を交わしていく。
その間、母は嬉しそうに微笑んでいた……。
▽
お昼まではまだ時間があるので、自由行動にしている。
“レオディン/リィバ/ベルーグ”は、予め準備されていた[個室]に赴く。
この三人以外は僕に付いて来た。
“ラダン兄上”が、ご自身の部屋におられるとの事なので、訪れてみる…。
何かしらの本を読んでいらした兄上は、
「お?」
「ラル!!」
僕に気づくなり、〝ニコッ〟となされた。
昨年に魔物討伐を体験されたらしい兄上は、〝明後日にでもダンジョンに潜る〟とのことで、戦術などに関する書を見直しておられたそうだ。
兄上と暫く会話した僕は、お庭へと向かった……。
▽
姉上が鍛錬なさっている。
そうしたところで、“メガネの女性”が、
「リーシア王女。」
「ラルーシファ王子が、お越しです。」
このように伝えた。
僕達のほうを振り返った姉上も、
「ラル君!」
笑顔を見せてくれる。
なお、姉上に僕の事を教えたのは、マリーの母にあたる“メイラ・ラキリアス”だ。
姉上と数分ほど談笑した僕は、別の場所に移る。
マリーだけは残るみたいだけど…。
▽
心地いい春風が吹くなか、
「とぅおッ、りゃ―ッ!!」
勢いよくボールを蹴ったのは“妹のエルーザ”だ。
その気迫とは裏腹に〝ポ―ン〟と山なりに飛んだ球体は、本人の“お世話係たち”のなかでも正面にいた女性に、両手で簡単に〝パシッ〟とキャッチされてしまった。
こうした彼女は、僕が視界に入ったらしく、深々と頭を下げる。
それに、他の“お世話係4名”が続く。
僕を少し観察したエルーザが〝ハッ!〟となり、
「ラルにぃさま♪」
〝ニカァ☆〟と喜んだ。
妹は、どこか少年みたいになっていた。
いや、決して悪い意味ではない。
寧ろ、朗らかで、好印象だ。
それはさておき。
ユーンを筆頭にした獣人達と共に、エルーザの“遊びの輪”に加わってあげる僕だった―。




