第91話 一転二転①
その日の朝食時。
ため息を吐いた“ハーフエルフのリィバ”が、
「これらの料理をダイワ城に持って行く事ができれば。」
どこか切なそうに呟いた。
「辛抱なされよ。」
「それが原因で、儂ら…、と言うよりは、ラルーシファ殿下の居所を敵に知られてしまうやもしれません。」
「そうなれば、ここに暗殺者どもを送り込んでくるのは明白ですぞ。」
このように“魔術師のレオディン”が述べたら、
「リィバ殿の案、結構いいと思ったんだが……。」
「ダメかぁー。」
“片目のベルーグ”が天井を仰いだ。
「諦めましょう。」
「ほんの一日ほど我慢するだけのことですし。」
いささか辛そうに“細長眼鏡のマリー”が諭したところで、ユーンを中心に“お世話係の獣人たち”が〝くッ〟と残念がる。
「どうなされたので??」
ルシム大公に窺われ、事情を説明する僕だった…。
「成程。」
「……、ま、確かに、アシャーリーが齎した品々を舌が覚えてしまいましたからなぁ。」
「それらより劣るものを受け付けなくなるのは当然至極というものでしょう。」
〝うむ うむ〟と頷いた大公が、
「然らば。」
「〝この館で調理させたものを、儂があちらに運び届ける〟というのは、如何ですかな?」
そう提案してくれる。
「よろしいんですか??!」
驚きと喜びが混じったかのように尋ねたのは、リィバだ。
「ええ。」
「ラルーシファ殿下をお預かりしている身としては〝一度くらい陛下に御挨拶せねば〟と考えておりましたので。」
このように大公が喋ったら、
「ですが…。」
「それだと、やはり、こちらの情報が広まってしまいかねないのではりませんか?」
マリーが危惧した。
「ええ。」
「〝これまでは〟ですな。」
「何せ、ライザー陛下に謁見するのに〝ラルーシファ殿下の件で〟という訳にはいかなったので。」
「しかし、セゾーヌ母子によって〝スコーリ王国が内戦に陥った〟との情報を得たので、ダイワ城に赴く理由ができています。」
「もしスコーリの内輪もめが長引けば、あちらとの貿易が滞り、ダイワもタケハヤも少なからず経済的打撃を被るでしょう。」
「また、どちらにも難民が押し寄せるやもしれません。」
「表向き〝そこら辺に関してすり合わせたい〟とすれば、儂が訪ねたとて、誰も疑問を抱きますまい。」
そう語った大公に、うちのメンバーが〝おぉーッ☆〟と瞳を輝かせる。
ここから、具体的な日取りなどが相談されていった……。
▽
二日が経ち、“アシャーリー/その母親/館の料理人達”が、いろいろと作ってくれる。
大公が〝特別手当を支給する〟との事で、休みだった人々も駆り出された。
まさに“フル稼働”だ。
いや、ほんと、申し訳ない…。
なお、大公は、爵位を継承した際と、僕の父が国王に即位したときに、[ダイワ城]に来たことがあるそうだ。
あと、元冒険者だった魔女さん……、現在はアシャーリーの“教育係の1人”や、数名の護衛兵と、共に。
このため、お城の敷地内に魔女さんの【瞬間移動】で渡る事が可能なのだけど、今回は正式に許可を貰っていないので、〝一旦は王都の南門あたりに行く〟らしい。
そして〝都に入ってからはユニコーン車で城を目指す〟とのことだった。
ちなみに、“四方の門”から[ダイワ城]までは徒歩で五日以上かかるみたいだ。
けれども、[ユニコーン車]であれば一日、いや…、途中で休憩や宿泊を挟みニ日ぐらいで到着できるらしい。
大公は、念の為に、2人の男性&1人の女性兵士も、警護として連れ立つそうだ。
こうした計5名の全員が【中規模までのアイテムボックス】を使えるとの事だった。
おさらいとして、【小規模】は、3M級のオークを10体まで保管できるけど、食料などは一ヶ月ほどで腐る。
その出入口は“縦40㎝×最大横幅20㎝”といった[楕円形で白銀色の渦]だ。
【中規模】の場合、4M級のミノタウロスを10頭まで収納できて、食料などは半年あたりまでもつらしい。
オークに続きミノタウロスも見たことのない僕には想像が付かないけれど…。
いずれにせよ。
こちらも[楕円形で白銀色の渦]だけど、規模は“縦60㎝×最大横幅40㎝”となっている。
そうした【アイテムボックス】に、魔女さん&3人の兵が、順に完成していく調理を次々と貯蔵していったようだ……。
▽
翌日、大公たちが【テレポート】した。
その二日半後、戻ってきた大公によれば、僕の両親が再会を楽しみにしてくれているらしい。
ただ、僕の“兄上/姉上/妹”とは顔を合わせることがなかったみたいだ。
▽
更に一日半が過ぎ、朝ご飯を終えて暫くしてから、 [一階エントランス]に集まっている。
レオディンによって[ダイワ王城]に【テレポーテーション】するために。
[館]の主だったヒト達も揃っており、専用の機器が必要となる“パスタ”や“食パン”など以外のレシピをアシャーリーが書いてくれたそうで、僕が代表して受け取った。
何から何までありがたい。
父上に頼んで、皆に絶対お礼しなければ―。




