第89話 逐日①
ふと、
「実家に戻れば平穏に生活していけるのかな?」
アシャーリーの父である“ルムザさん”に質問され、
「いえ、どうでしょう??」
「あちらには、私の両親と、姉夫婦に二人の子供が、暮らしておりますので。」
「私たちの部屋は余っていないでしょうから〝今後の生涯ずっと〟というのは難しいかと思います。」
「なので、数日ほど泊めてもらい、その間に、新居と、私の働き口を、探そうと考えているところです。」
こう“セゾーヌの母”が答えた。
それによって、
「お祖父様。」
「吉野さ…、セゾーヌさん達を、この館に住まわせる事はできませんか??」
「彼女の“特殊スキル”があれば、いろんな調理がより美味しくなるので。」
アシャーリーが願い出る。
これに、ルシム大公は〝ほぉう〟と好反応を示したものの、
「悪いが、〝平民をタダで〟という訳にはいかない。」
「いくらお前の〝チキュウ時代の友人知人〟であっても、周りの目が厳しくなるだろうからな。」
「そうなると、彼女たちの日々は、やがて辛いだけのものになってしまうに違いない。」
ルムザさんが反対した。
重苦しくなりかけた空気を、
「差し出がましくてすみませんが、例えば、セゾーヌさんを“アシャーリーさんの助手”という形で雇うのは無理ですか?」
「それと、お母様にも〝何かしらの役割と賃金を与える〟というのは??」
またも先生が転換してくれる。
“元担任”として放っておけないのだろう。
「ふ、む。」
理解したかのようにルムザさんが頷いたら、
「給仕でよければ、こちらとしては構わんが?」
「そっちは、どうだ??」
そのように大公が提案した。
おもいがけない展開だったらしく、
「あ……、ありがとうございます。」
“セゾーヌの母”が、目を丸くしつつ、お礼を述べる。
更には、
「僕からも、ありがとうございます。」
先生も頭を下げて感謝した…。
▽
セゾーヌは、母親の実家に向かうそうだ。
数年ぶりに祖父母に顔を見せるのと、これまでの経緯を伝えるために。
ただし、僕などの存在や、前世については、秘密にしておくことになっている。
ややこしくなりかねないので。
そのため、〝セゾーヌのとあるスキルに大公家が価値を見出したので、母子ともに館に住み込みで働かせる〟とした。
こうした内容も含め、大公が、〝決して余計な詮索はせぬよう〟〝あとあと後悔するような人生を過ごしたくなければ〟みたいな事を書いた手紙を、“セゾーヌの母”に渡している。
ちなみに、彼女の母親の実家は、[本館]からだと、一時間以上が掛かるらしい。
よって、大公が[ユニコーン車]を手配してあげた。
また、〝こちらに戻って来るときは自分達で依頼するように〟〝その支払いも負担してやるので遠慮はいらん〟と告げている。
まとまったところで、先生とヴァイアに、それぞれの祖父君が、帰宅した。
ここら辺の顔ぶれは、【テレポーテーション】で……。
▽
セゾーヌ母子が改めて訪れたのは、翌朝だった。
一泊してきたらしい。
特に母親のほうに積もる話しがあったのだろう。
それはさておき。
セゾーヌたちには[二人部屋]が用意されている。
こうした母子は、ひとまず、館の人々に挨拶回りして、明日から本格的に稼働するみたいだ…。
▽
大公はもとより、ルムザさんも許可したので、セゾーヌ達は僕らと一緒に昼食を摂っている。
その最中に、アシャーリーが、失敗が重なった“お酢づくり”や“先生の特殊スキル”に関して、セゾーヌに教えていた。
なお、これからは、セゾーヌも鍛錬と勉学に参加することになっている―。




