第88話 訳柄③
僕などは、“セゾーヌ・ディメン”こと“吉野薫さん”に再会した。
ルシム大公に促され、各自が椅子に向かおうとしたタイミングで、
「それでは……。」
起立した“メリン・ハースト領主”が、
「私どもは失礼します。」
僕らへと会釈する。
これに、お付きの“魔女さん”が倣う。
「なんだ?」
「もう帰るのか??」
大公に訊かれた領主が、
「ええ。」
「例の件で“ジィーモの別宅”に赴いてすぐに、彼女たち母子が訪ねてきましたので。」
穏やかに答えた。
「あぁー、あれか…。」
「くれぐれも、よろしくな。」
そう告げる大公に、
「はい。」
「お任せを。」
領主が頷く……。
▽
メリン領主達が【テレポート】したのちに、僕らは着席して語り合ってゆく。
どうやら、吉野さんは、転生の事を誰にも言っていなかったらしく、こちらの母親が疑いの顔つきになった。
けれども、僕たちの説明もあって、次第に信じていったようだ…。
「そのような理由で、お父様が亡くなられたのですね。」
「さぞお辛かったことでしょう。」
「心より、お悔やみ申し上げます。」
先生が厳粛に喋ったところで、場が沈黙に包まれていく。
数秒後、
「父方の祖父や祖母は?」
「一緒に暮らしていなかったのか??」
なんとなく質問した“竜人のヴァイア”に、
「六年ぐらい前の伝染病で。」
吉野さんが首を横に振った。
「僕の祖父母もだよ。」
こう述べたら、
「うちは、お祖母様が。」
アシャーリーと、
「僕は、両親です。」
先生に、
「俺のとこは、親戚が二人。」
ヴァイアが、それぞれ続く。
……、以前、この世界に流行病が起こった。
あっという間に終息したけど、命を落としたヒトもいる。
「ところで。」
「吉野さ、あー、いえ、“セゾーヌさん”とお呼びするべきですね。」
「貴女の能力は、どのようなものですか?」
機転を利かしてくれたのか、暗くなりかけた雰囲気を先生が変えてくれた。
それによって、
「ちょっと待ってください…。」
セゾーヌが集中しだす。
おそらく、【能力開示】で確認しているのだろう。
ここから、
「神法の光属性、小規模の亜空間収納、武術の壱。」
「あとは“研究”で、〝調味料の作成〟となっています。」
そう教えてくれる。
これに、
「え??」
「調味料を作れるの?!」
いち早く反応したのは、勿論、アシャーリーだ。
「そうみたい、だけど……。」
「試した事ないから、よくは分からなくって。」
このようにセゾーヌが返したところ、
「じゃ、これから、いろいろやってみましょう☆」
アシャーリーが瞳を輝かせた。
それに対して、
「待ちなさい。」
「まずは、彼女達の生活を落ち着かせてあげるのが先決だよ。」
父親である“ルムザさん”が意見する。
「あ。」
「うん。」
こうアシャーリーが納得したのもあり、
「して??」
「〝母方の実家に帰ろうとしていた途中〟との話しだったが…、何処で暮らしておるのだ?」
大公が尋ねた。
それを、
「この都市の北西区に在る〝食器などの雑貨用品を生産販売している企業〟でございます。」
「“ニッスナイスアズ”という名称の。」
“セゾーヌの母”が恐縮そうに伝える。
「おぉ!!」
「なんだ! あそこか!!」
「アシャーリーに頼まれて、“チーズフォンデュの器とスピック”や、“食パンの型箱”など、何かと発注したことのある!」
いささか興奮した大公が、
「これも縁というものだな。」
「……、いや、もしや、パナーア様の計らいか??」
このように推測した―。
現時点での[セゾーヌ・ディメン]
【神法】
・浄化もしくは負傷/治癒/異常回復などの使用が可能
※どれもが低級の光属性
【スキル】
・亜空間収納
※小規模
【特殊スキル】
・研究
※調味料の作成
【戦闘スキル】
・武術
※段階は[壱]
前世での名前は[吉野薫]




