第87話 各個の主観⑥
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「これらの文字を理解できるのですね??」
[チキュウビストロ・リジュフィース]の店長さんに確認されて、無言で頷いたら、
「では、裏面も目を通してください。」
そのように勧められたのです。
これに従った私は、
「地図、ですね。」
「……、この“星の所”に、二人が居るんですか?」
そう尋ねました。
「ええ、そのように伺っています。」
「ですが、私には、それ以上の事を知らされていないので、詳しくは分かりません…。」
「“大公様の館”に向かっていただくには、魔物に襲われる危険に備え、冒険者のかたを雇って、南下してもらうことに、あ、そういえば。」
「予定では、メリン領主様が、この町に本日より公務でお越しになられるんでした。」
「多分もう御到着なさっているでしょうから、そちらを訪ねてみてください。」
「そのほうが、いろいろと早いみたいですので。」
「ちなみに、“領主様の別宅”の場所は知っていますか??」
教えてくれたリラルさんに、逆に質問されて、
「いいえ。」
首を横に振ったところ、
「それでは……。」
業務用エプロンのポケットから“折りたたんである用紙”を取り出してきたのです。
こうして、
「簡単な地図を書いてありますので、あとで見てくださいね。」
優しく微笑んだのでした…。
歩く道すがら、
「大公様に領主様って、どういう事なの?」
母に訊かれ、
「あぁー、ん~。」
返答に困った私は、
「落ち着いてから、ゆっくり説明させて。」
穏やかに伝えたのです……。
およそ15分後。
到着した[メリン領主様の別宅]で、応対してくれた給仕さんに、リジュフィースの紹介で来たことを述べました。
何かを察したらしい女性によって、[客間]に案内されたのです…。
私にとってはまたも懐かしい“ミルクティー”を飲んでいたところ、“凛とした貴婦人”が入室してきました。
後ろには、お供の方が1人いるみたいです。
立ち上がった私達に、
「“メリン・ハースト”です。」
そう自己紹介なされた領主様に、親子揃って深々と頭を下げました……。
ソファに座り直して、リラルさんに貰った[カード]をテーブルに出します。
余談かもしれませんが、私は“左利き”です。
ともあれ。
「この札を持っているという事は、そこに刻まれている“ニホン語”とやらを読めたのですね。」
呟くようにして納得なされた領主様が、
「すぐに“大公家の本館”に赴きますよ。」
このように告げられました…。
[お庭]で、先ほど領主様と一緒に客間にいた女性が、“杖”を逆さにしつつ、
「時空よ、我らに狭間の境界を越えさせ、彼方へと導け。」
そう唱えたところで、私たちの足元に【魔法陣】が現れます。
私と母が驚くなか、
「瞬間移動。」
風景が変わりました……。
正午になろうかとしている[客間]では、“コーヒー/ミルク/砂糖”のセットが配膳されています。
これまた約10年ぶりの品に、胸を打たれる私です。
そこへ、二十人ぐらいの方々が訪れました。
人間はもとより、エルフ/ドワーフ/獣人は、故郷の町でも見たことがありますが…、ツノと翼に尻尾が生えている種族はなんでしょう??
……、まぁ、一旦おいといて。
ヒトの多さで大事になったような気がして緊張気味になった私が、領主様に促されて名乗ったら、
「おぉー、これはこれは…。」
「再会できたことを嬉しく思いますよ。」
「あ、失礼。」
「僕は、“竹村良鉄”です。」
「いえ、でした。」
“丸メガネの少年”が〝ニッコリ〟しました。
これによって、
「先生。」
どこか安堵する私です。
そこからは、“日之永学級委員長/嶋川さん/城宮君”とも挨拶を済ませていきました。
こうしたところで、
「ひとまず着席しましょうか?」
“威厳のある男性”が、委員長を窺います。
あとで聞いた話しによれば、そのかたこそが“ルシム大公殿下”でした―。




