第86話 各個の主観⑤
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私は、セゾーヌ・ディメン。
ノイスト大陸の[スコーリ王国]で生まれ育ちました。
南側に隣接しているのは、[ダイワ]という王国だそうです。
なお、私の故郷である港町は“スコーリの最西端”に位置しています。
さて……。
私の父は〝もともと冒険者だった〟のだとか。
仲間と一緒に各地を転々としていたある日のこと、[タケハヤ島の中央都市]に立ち寄ったそうです。
そこで泊まった宿屋の近くに、食器や台所用品などを作って販売する[雑貨屋]が在り、ここの娘さんに一目惚れしたとの話しでした。
旅のメンバーの方々の了承を得て、円満にパーティーを脱退した父は、職人として弟子入りしたとの事です。
そうして、五年後の23歳のときに結婚した女性が、のちに私の母となる人でした。
ちなみに、母は次女で、姉にあたる長女さんは婿養子を貰ったのだとか。
まぁ、おいといて…。
実家に戻った父は、個人の小さな店舗を構えます。
この一年後に私が誕生したのです。
そこから七年が経って、父に教わった[能力開示]というものを試したところで、私に備わっているものが判明しました。
けれど、父にも詳細が分からなかったので、これといって何もしてこなかったのです……。
更に三年ほどが過ぎ、10歳となった冬の夜に、私は夢を見ました。
その影響で、前世の記憶が甦り、“吉野薫”という日本人だったことなどが判明したのです。
ただ、この件は、私だけの秘密にしました。
(誰にも信じてもらえないかもしれない)といった不安があったので…。
年が明けた約一ヶ月後に、内乱となりました。
“あくどい”と噂の王様に対し、“誠実”と評判の弟君が兵を挙げたそうです。
それによって、[クラス]の高い冒険者さんたちが、両方に雇われだしました……。
ここからまた一ヶ月ぐらいが経ち、父が、商団の一員として隣町に出発します。
いつもの事ですが〝そこで何日か滞在しつつ商売を行なう〟みたいです。
片道は歩いて五日ほどで、そのときは20人くらいが参加していました。
護衛として10名あたりの冒険者さんに依頼したそうですが、いつもと違ってクラスが低い人達しか残っていなかったのだとか…。
およそ半月後、戻って来たのは、5人だけでした。
冒険者2名と、商人3名で、こちらに帰っている途中の深夜に、“魔獣の群れ”に襲われたそうです。
不意を突かれたのもあって対応が遅れてしまい、殆どのかたが捕食されていったのだと。
命からがら馬車で逃げてきたグループに、父の姿はありませんでした。
母は泣き崩れ、私の涙もこぼれ落ちます。
なかには、生き残った方々を責める人たちもいたようです……。
一週間ぐらいが過ぎ、母が実家に移ることを提案しました。
今のままでは、生活が厳しくなっていくのと、父との思い出に胸が締め付けられて辛いので。
数人の友達とお別れするのは寂しいけど、仕方ありません…。
船で、タケハヤ島の[港町ジィーモ]を目指します。
魔物に遭遇する事なく、十日後の朝に到着しました。
そうして、私たちは、船内で小耳に挟んだ[チキュウビストロ・リジュフィース]に向かったのです……。
入店した私は、驚くばかりでした。
他のお客さん達が飲食している品や、メニューに書かれていたものが、確かに“地球の料理”だったからです。
とりあえず、私の勧めもあって、<カラアゲセット>に<リンゴジュース>を二つ注文しました…。
母は初めての味に感動しっぱなしで、私は懐かしさと嬉しさが込み上げています。
こうした食後に、近くにいた店員さんに〝作った人のこと〟を尋ねてみました。
すると、私を見ながら、
「あ! もしかして??」
何かに気づき、
「こちらへ、どうぞ。」
[別室]へと案内してくれたのです……。
代わるようにして、
「こんにちはぁ。」
「責任者のリラルです。」
穏やかな印象の女性が入ってきました。
テーブルを挟んで対面に座った女性は、[銀製のカード]を渡してきつつ、
「早速ですが、こちらをご覧ください。」
そのように誘導してきます。
これを受け取った私は、
「え?」
「委員長と嶋川さん??」
目を丸くしたのです―。




