第85話 巡り会い④
【お取り寄せ】した[書物]のページを捲っていき、
「…………。」
「あ。」
「……、ふむ。」
「かつて、“コーヒーミル”と“ガラス瓶”を組み合わせたものがあったみたいですね。」
「ま、今も“アンティーク”として存在しているようですが…。」
「これであれば、ビールとは別の職人さん達に頼めますので、きっと早めに納品できますよ。」
先生が穏やかに微笑む。
ちなみに、本の代金は“銀貨一枚”だそうで、アシャーリーが支払っている。
「私からも、ひとつよろしいですか? フリント様。」
ふと“細長眼鏡のマリー”に声をかけられ、
「はい??」
「なんでしょう?」
先生が瞼を〝パチクリ〟させた。
「先ほど仰られていた“デンキ”や“サーバータンク”とかいうのは、どのようなものなのか、教えていただけませんか??」
マリーの質問に、
「あぁ~、ボクも聞きたいですぅ。」
そのように便乗したのは、“ハーフエルフのリィバ”だ……。
▽
あれから十日が経っている。
ビールを飲んだ“ラドン竜王”のテンションが上がりまくった。
これによって、“ルシム大公”に“トラヴォグ公爵”と、貿易について協議がなされてゆく…。
▽
年が明けた。
既に、何個かの[バター用機器]と、追加の[食パン型箱]が、アシャーリーから関係者に配られている。
あと、“ハムエッグチーズ”や“はちみつバター”のトーストも伝授したそうで、かなり人気らしい。
これによって、三店舗では、セットメニューが追加されたのだとか。
他に、付け合わせは〝フライドポテトor厚切りポテトチップス〟にしたとも……。
▽
更に月日が流れ、もうじき春になろうとしていた。
しかしながら、まだまだ肌寒い。
アシャーリーは、またもや“お酢づくり”がダメだったようだ。
一方で、“ヨーグルト”は上手くいっている。
いや、この世界にも、もともとあったけれど、割と苦かった。
それを、マイルドにしたのだ。
こうしたヨーグルトを使って、“パンケーキ”を完成させている。
本当は“ベーキングパウダー”とかいうものが欲しかったらしいけど、作るのに失敗したのだとか。
とは言え。
パンケーキも大好評だ。
なお、僕/アシャーリー/ヴァイア/先生は、日々、鍛錬や勉学に励んでいた。
けれど、雨や雪が大降りの場合は、屋外を利用できないので、修行は休みになる。
とにもかくにも。
暫くすれば僕の誕生日なので、久しぶりに家族に会えるのが楽しみだ。
そうしたある午前に、北の“メリン・ハースト領主”が、“お抱えの魔女さん”によって、一階エントランスに【テレポート】してきたらしい…。
▽
この日は、主だった顔ぶれが集まっていたので、執事さんが[広間]に通しておいたそうだ。
[客間]だと手狭になるので。
僕らが足を運んだところ、メリン領主たちと共に、ある“人間の母子”が見受けられた。
母親は“セミロングヘア”で、少女は“ロングのポニーテール”だ。
どちらも、肌は白く、髪や眉が“レッドブラウン”で、瞳は“ブラウン”だった。
服装から“平民”と推測できる。
それはさておき。
僕達に気づいた面々が、〝スッ〟と起立した。
娘さんの年齢や身長は、僕らと同じくらいだろう。
余談になるかもしれないけど、僕やアシャーリーにヴァイアは、5㎝前後は背丈が伸びている。
先生はドワーフなので、成長が遅いらしく、変わりない。
話しを戻そう……。
「実は、こちらの少女が“チキュウの調理”と“ニホン語”を知っていましたので、お連れした次第です。」
このように述べたメリン領主が、
「さぁ、ご自分で。」
“女の子”を優しく促す。
軽く頷き、いささか不安げにしつつ、
「私は、“セゾーヌ・ディメン”です。」
「前世では“吉野薫”でした。」
そう名乗った少女に、
「おぉー、これはこれは…。」
「再会できたことを嬉しく思いますよ。」
いち早く反応した先生が、
「あ、失礼。」
「僕は、“竹村良鉄”です。」
「いえ、でした。」
〝ニッコリ〟する。
〝!!〟と驚いた様子の吉野さんが、
「先生。」
どこか安堵したかのように呟く。
ここから、僕とアシャーリーにヴァイアも、自己紹介していった―。




