第84話 二重の意味で進む御飯⑤
一週間以上が過ぎている。
アシャーリーが“中央都市の職人”に発注していた[食パン用の型箱]が5つ完成したらしい。
それらを用いて、 [竈]でパンを焼いたそうだ。
なお、〝1個の型箱で二斤を作れる〟との事だった。
こうして出来上がった食パンは、上部が“山型”になっており少し焦げている。
ただ、とても香ばしい。
それらのうちの四斤を、アシャーリーが切り分けていく。
残りのパンは、[厨房]で、料理人や給仕の人たちが味わっているらしい。
一方で、[食堂]には、僕やアシャーリーそれぞれの“教育係”が居る。
他に、僕の“お世話係”であったり、“ルシム大公”と“次男さん夫婦”の姿もあった。
そうしたなかで、“バター”や“マーマレード”が入れられている幾つかの瓶も、テーブルに置かれていた。
この瓶の数に合わせて“銀製のジャムバターベラ”も用意されている。
なんでも、[食パンの型箱]と一緒に依頼していたのだとか。
それはおいといて。
各自が、パンに、バターを少し塗っては口に運び、マーマレードを少し塗っては口に運ぶ。
バターとマーマレードは好みが分かれているけど、食パンは好評だ。
「フライパンで“トースト”というものを作れますので、今度やってみますね。」
アシャーリーが伝えたところ、誰もが〝ほぉう〟や〝へぇ~〟と興味を示した。
余談になるかもしれないけれど、時刻はPM03:00あたりのため、食パンは1人につき一枚となっている。
夕ご飯のことを考慮して……。
▽
四日後の[食堂]で、
「こちらの世界には電気がなく、手動での醸造作業だったのもあってか、少なからず味は地球のものに劣りますけど。」
先生が苦笑いするなか、大人達が〝ぷはぁ――♪〟と息を吐く。
「なんと言うか…、キレが違いますね!!」
「泡が〝シュワシュワァ~〟って☆」
瞳を輝かせる“ハーフエルフのリィバ”に、
「ああ!」
「こいつは、うっめぇ!!」
“隻眼のベルーグ”も嬉々とする。
他の顔ぶれも凄く幸せそうだった。
「これを大量注文させていただくのは可能ですかな?」
“ルシム大公”に尋ねられ、
「実は、ラドン竜王陛下がたにも試飲してもらおうと思っておりまして……。」
「そうなると、竜人族もビールを気に入って、買い求める事でしょう。」
「なので、現在、“レンガの工場”と“数十個の醸造設備”に取り掛からせている最中のため、すぐにとは。」
「まぁ、来年の夏には販売できるよう、携わっている者らが尽力してはおりますが、今のところは、なんとも。」
こう喋りつつ首を横に振ったのは、〝トラヴォグ公爵〟だ。
「うぅ~む。」
「……、ならば仕方ありませんな。」
「近いうちにでも、ラドン陛下を交えて、ご相談させてください。」
そのように述べた大公に、
「ええ、勿論です。」
トラヴォグ公が頷く。
補足として。
先生たちが持ってきた“ビール容器”は“銀製の牛乳タンク”だった。
今後は〝サーバータイプを造りたい〟そうだけれども…、〝なんにしても炭酸が次第に抜けていくのが悩みどころ〟らしい。
なにはともあれ。
「あの、先生。」
「“バター製造機”みたいな物が欲しいんですけど、お願いしても大丈夫でしょうか??」
「基本的に〝瓶を振って作る〟という工程のため、皆さん疲れてしまうので。」
「ドワーフの職人さんがたはビール関連でお忙しいでしょうから、余裕があるときにでも。」
アシャーリーに窺われ、
「では、ひとまず、バターについて書かれている本を取り寄せてみましょう。」
「手動のものがないか、確認したいので。」
【スキル】を発動する先生だった―。




