第73話 過ぎゆく季節のなかで③
午後となり、アシャーリーのところの“魔女さん”によって、[別館]の正面に【瞬間移動】した。
なお、先生やトラヴォグ公爵に、ヴァイアと竜人双子さんは、既に帰宅している。
さて。
別館は二階建ての幅広で、上から見ると凹形になっているらしい。
左右の奥には、四階建ての塔が設けられているようだ。
基本的には白色の石造りで、屋根は薄緑色だった。
そうした館の一室に、ルシム大公が僕たちを案内してくれる……。
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部屋は割と広めだった。
設置されている解体台と窓も大きめだ。
他にも幾つかの椅子と棚が見受けられる。
こうした室内で、大公などが順番に[亜空間収納]から魔物や魔獣を引っ張り出して、台に置いていく。
それを、“ハーフエルフのリィバ”が、自分の[アイテムボックス]に入れていった…。
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「では、夕ご飯までには本館に戻りますね。」
微笑むリィバと別れて、外に出た僕らは、魔女さんによって【テレポート】する。
ちなみに、別館は、中央広場から南西区に少し進んだ所に位置しているそうだ。
本館からだと歩いて30分は掛かるらしい。
なお、リィバは[攻撃系]と[闇属性]の【魔法】も備えている。
どちらも“低級”だけど。
[光属性]は“極級”なので、普段こればかりを使っていた。
あと、【精霊加護】も。
……、要は、〝リィバもまた瞬間移動を扱える〟ということだ。
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本館に帰ってから、すぐに大公が動いた。
まずは、魔女さんによって、[スブキィ]の“長男さん宅”に【テレポーテーション】する。
僕などは同行していない。
後で聞いた話しによると、むこうの領主さんにも経緯を説明したうえで、[ルワーテ]と[リヌボ]に納得してもらったそうだ。
ここから、“北方のメリン領主”のもとに【瞬間移動】し、更には[ジィーモ]に渡ったらしい。
そうして、[リジュフィース]にも事情を説明したようだ。
これらによって、三店舗に“張り紙”が出される。
島内にいる冒険者の方々が
現在ギルドで発注されている全ての依頼を達成するまで
無期限で休業します。
ルシム大公殿下の御指示によるものですので
ご理解ご了承の程よろしくお願いします。
そういった内容らしい。
南北の[港町]にあるギルドにこれらを伝え、戻って来た大公は、何枚かの手紙を書いた。
都市はもとより、他の町や村の[各ギルド]に、状況を教える目的で…。
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五日が経っている。
リィバは、別館に通っては解体を進めていた。
素材にならない部位などは、最終的に、周りに誰もいない野外で“魔術師のレオディン”あたりにまとめて燃やしてもらうらしい。
【極級の火炎魔法】で。
これは補足になるけれど。
別館の“中庭”に、長いこと使用されていない[大きめの氷室]が在る。
アシャーリーが、そこで“お酢作り”を試していた。
“エール/麦/林檎/葡萄”を、それぞれ壷に納めて発酵させるらしい。
「リンゴとブドウって、ジュースにできるよね。」
僕が何気なく言ったところ、
「あ。」
「確かに、そうですね。」
「うっかりしていました。」
「……、ただ、分からない工程もあるので、先生が今度お越しになった際に、また本を購入させてもらいます。」
こう述べるアシャーリーだった。
一方の冒険者たちは、大公の読み通り敏速になっているみたいだ。
各ギルドで受注するヒトが瞬く間に増えたらしい。
〝大公が自ら鉱石洞窟ダンジョンに赴いて魔物らを討伐した〟という情報が広まったのも効いているようだ。
冒険者としては立場がないのだろう。
何せ、王族貴族や兵士などが請け負っても構わないのだから。
ただ、王侯には政務があり、兵達には駐屯地の巡視がある。
都や町に村がモンスターなどに襲撃されそうになったときは、撃退および防衛を行なう。
また、他国との戦であれ、内乱であれ、争いが勃発すれば、それに対応する。
なので、魔物や魔獣に関する件は、冒険者に依頼されてきた。
それ以外にも“薬草積み”などの仕事があるらしい。
これらをやらないのであれば〝この世に冒険者は必要ない〟となってしまう。
もともとギルドなどのシステムが築かれたのは、400年ぐらい昔のことだそうだ。
そのため、大公の本館と別館に[解体所]が設けられていた。
当時は、まだ、ギルドが無かったので。
つまり、〝冒険者がいなくても問題なかった〟という事だ。
しかし、冒険者が活動してくれたほうが、王族貴族に兵士の負担が減るため、各国で〝任せるのが最善だろう〟となったらしい。
まぁ、こうした時代背景も踏まえて、[タケハヤ島]に訪れている冒険者たちは、その存在意義が問われていた―。




