第70話 実戦④
アルミラージが跳ねつつ、シャドードッグは走りながら、シェイディバットが飛んで、こちらに向かって来る。
すぐさま、
「大地に刻まれし根源よ、その権能を我に授くべし。」
「深淵より出でて、全てを貫け。」
「深き底から湧き上がれ。」
“魔術師のレオディン”と、
「寒冷よ、我が呼びかけに応じて集まれ。」
「今ここに不動の形を成し、仇なす者を討て。」
アシャーリーのところの“魔女さん”が、それぞれに詠唱を行なう。
レオディンは右斜め前の地面に直径4Mの、魔女さんは左斜め前の空中に直径2Mの、魔法陣を構築した。
こうして、
「バンプ・アース!!」
レオディンが、魔法陣の範囲内で、地を幾つかに隆起させる。
高さは1M~4Mといったところで“不揃いの剣山”みたいなイメージだ。
その【極級魔法】によって、数十の魔獣が弾かれるのと共に致命傷を負う。
一方、魔女さんは、
「アイス・クリスタル!」
最大直径1M×長さ2.5Mあたりで【歪な楕円形の氷】を100個ほど降り注がせた。
これらの【高級魔法】が当たったモンスター達は、体の半分くらいが凍り付く。
次の瞬間、おもいっきり割れて、流血しながら倒れる。
「では、参りましょうか。」
“ルシム大公”に声をかけられ、僕ら[接近戦メンバー]は改めて進んでいった……。
▽
1M大のアルミラージは、ツノから【雷】を一本だけ発する。
それが直撃すると、感電してしまう。
シャドードッグは、全身がブラック色のドーベルマンといった印象で、瞳は赤い。
なお、口から直径15㎝の【火の玉】を放つ。
ヒットした部分は、当然、燃える。
とは言え、どちらも、ほんの数秒の効果でしかない。
まぁ、ダメージはあるけど…。
予備知識として。
魔獣には[光属性]の【フラッシュ】を使ってもあまり意味がない。
目を眩ませるのは可能だけれども、耳や鼻が利くため、こちらの居場所や動きを悟られやすいからだ。
いずれにせよ。
僕と先生は、一心不乱に【神法】や[武器]を扱う。
後方で援護してくれているアシャーリーも必死のようだ。
ヴァイアは余裕みたいだった。
ちなみに、彼は、[槍]を用いている。
少し余談になるけども、“双子のエレブ兄妹さん”は竜に変じれば[ドラゴンブレス]というものを吐けるらしい。
双子さんより弱い存在であれば、それに焼かれると、あっという間に“消し炭”になってしまうそうだ。
ただし、今回は、ブレスを控えてもらう事になっていた。
速攻で魔物を全滅させてしまったなら、僕などの成長に繋がらないためだ。
あと、ヴァイアは「まだ私にはドラゴンブレスは無理だ」と話していた。
……、本題に戻ろう。
僕たちは、モンスター集団とのバトルを繰り広げている。
やはり、シェイディバットの【超音波】は厄介だ。
アルミラージとシャドードッグは素早いほうだった。
経験が浅い僕などは、苦戦を強いられる。
けれど、周りのサポートもあって、どうにか対応していく…。
▽
5分ぐらいが経っている。
僕らは勝利を収めた。
“細長眼鏡のマリー”が、
「“第三波”もありえるでしょうね。」
誰ともなく述べる。
〝ふむ〟と頷いた“トラヴォグ公爵”が、
「また様子を見たがいいやもな。」
こう判断したこともあって、再び退がる僕達だった……。
▽
それぞれに体力系や魔力系の[ポーション]を飲んで、およそ2分が過ぎている。
“獣人のユーン”が集中して[鉱石洞窟]に視線を送りつつ、
「もう大丈夫みたいです。」
「足音などが聞こえてきませんので。」
このように告げた。
それによって、
「では…、念の為に内部を確認しましょうか?」
大公に提案したのは、アシャーリーの父親である“ルムザさん”だ。
「うむ。」
「それが良かろう。」
意見を受け入れた大公が、
「だがその前に!」
「アヤツラの遺体を回収するとしよう。」
「何かしらの素材を得られるからなッ。」
「あとで魔物ごとギルドに渡して、金にする。」
〝フッ〟と笑みをこぼした。
これによって、大公と、ルムザさんに、執事さんや、アシャーリーの教育係たちが、手分けして各自の[アイテムボックス]にモンスターを収納してゆく。
他の顔ぶれは、大公に「ゆっくりしておいてくだされ」と勧められたので、休憩させてもらっている。
僕とアシャーリーに先生は〝げんなり〟していたので、非常に助かった―。




