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第61話 訳柄②

僕らの学級の担任だった竹村良鉄(たけむら・よしてつ)先生…、今はハイドワーフの“フリント=ロデール”が、


「あれらの調理法は、嶋川(しまかわ)さんが教えたのですか?」


ふと訊ねる。


「ええ、そのとおりです。」


肯定したアシャーリーに、


「やはり、ですか。」

「日本でのご実家は喫茶店を営んでいらっしゃいましたからねぇ。」


先生が穏やかに納得した。


少しの間を置いて、〝クスッ〟と笑ったアシャーリーに、


「どうしました??」


先生はもとより、僕らも首を傾げる。


「いえ、〝先生って、こちらの世界でも、誰に対しても敬語なんだなぁ〟と思ったら、懐かしさと、おかしさが、込み上げてきてしまいまして。」


このようにアシャーリーが述べたところ、


「あぁ、確かに、そうですね。」


先生もまた口元を緩めた。


そこへ、


「失礼ですが、なるべく現在の名前で呼ばれるよう、お願いできませんかな?」

「こうして我々だけの時は、問題ないのですが……。」


ルシム大公が申し出る。


意図を察したらしい先生は、


「仰る通りですね。」

「できるだけ(くせ)を付けるようにしましょう。」

「というわけで、三人も、僕の事は“フリント”で構いませんよ。」


こう許可してくれた。


けれど、僕は、


「先生は先生なので、難しいです。」

「勘弁してください。」


やんわりと断る。


それに、アシャーリーとヴァイアが揃って〝うん うん〟と頷いた。


「困りましたねぇ~。」


先生が苦笑いしたところ、


「その“センセイ”というのがなんなのかは分かりませんが、きっと敬愛を示しているのでしょ??」

「だったら別にいいんじゃありませんか?」


このように勧めてくれたのは、“ハーフエルフのリィバ”だ。


「ふむ。」

「では、それでよろしいでしょう。」


一応に納得したらしい大公が、


「話しは変わりますが…。」

「ひとつ、ご相談しても??」


“先生の祖父君(そふぎみ)”こと“トラヴォグ公爵”を窺う。


「ん?」

「儂が力になれる内容であれば、遠慮なく。」


そう返したトラヴォグ公に、


「ご厚意、ありがとうございます。」

「……、これより一ヶ月程して涼しくなった頃に、ラルーシファ殿下とアシャーリーの実戦(・・)を行ないたいのですが、防具を特注する所を悩んでおったのです。」

「何せ、殿下がタケハヤ(しま)におられるのは、基本的には内密ですからな。」


大公が伝える。


「あぁ、さっき、王子が、フリントに言っておられたな。」

「〝二度も暗殺されかけたので避難してきた〟と。」


こうトラヴォグ公が回想したら、


「ええ。」

「ですので、ラルーシファ殿下がたの情報が洩れるかもしれないことを危惧して、どこに依頼するか決めかねておったのですよ。」


更に事情を説明する大公だった。


「つまり…、儂らに発注したいと??」


トラヴォグ公の質問に、


「はい。」

「これも御縁というものでしょうし……。」

「ヴェルン王国は、ダイワとは別の大陸に在るため、割と心配ないのではないかと考えまして。」

「また、ドワーフ族ともなれば、そういう(たぐい)に優れているでしょうから。」


そのように答えた大公が、


「代金は勿論お支払い致しますので、如何ですかな?」


改めて尋ねる。


「ふむ…。」

「まぁ、儂を筆頭にした鍛冶師や、防具関連の職人が、町に何名もおるので、お安い御用ではある。」

「それに、数人ほど暮らしているエルフとハーフエルフが錬金術を扱えるので、王子たちの成長に合わせ、装備品を自然と変化させるのも可能だ。」


こうしたトラヴォグ公の言葉に、僕やアシャーリーは〝ん~??〟と理解できずにいた。


すると、


「エルフ族のなかには、そのような技を取得している者がチラホラいるのですよ。」

「すなわち、トラヴォグ公爵達の町で生活しているエルフなどの錬金術は〝武器や防具に衣服などを伸縮できる〟というわけです。」


そう“教育係のハーフエルフ”が喋る。


「リィバも使えるの?」


僕が疑問を投げかけたところ、


「いえ、ボクが得意としているのはポーションなどの薬品なので、正直そっちは苦手ですね。」

「ちなみに、エルフによっては、ありふれた金属を貴重な金属に転換する事ができますよ。」


このように解説してくれた。


そうした流れで、


「実戦に出るのか??」

「ならば、私も参加させてほしい。」


“竜人のヴァイア”が頼んでくる。


「別にいいけど?」


こう僕が承諾したら、


「それでは商談に移るとしよう。」

此度(こたび)の話し、受けるとして、条件がある。」


トラヴォグ公が真面目な口調になった。


「どのような??」


いささか表情が険しくなる大公に、


「アシャーリー嬢がチキュウの料理を作れるのであれば、報酬の一部をそれ(・・)にしてもらいたい!」

「身内にも食べさせてやりたいし、儂らもまた味わいたいからなッ!!」


トラヴォグ公が〝くわッ!〟とした感じで告げる。


その展開を、


「もぉ~う、お爺さんったらぁ。」


奥さん(・・・)が恥ずかしそうにした。


要は、“先生の祖母君(そぼぎみ)”だ。


ライトブラウンの髪を“お団子”にしており、本当の年齢は不明だけど、60代後半ぐらいに見える。


「む?」

「ダメか??」


意外そうにするトラヴォグ公に、


「いえいえ、全然。」

「大丈夫ですので、お任せください。」


アシャーリーが快諾したことで、ここらはスムーズに進んでいった―。

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