第6話 四名の所感・前編
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ボクは、リィバ・シルブ。
ハーフエルフだ。
生まれ育った集落を出て、冒険を始めたのは、50年くらい前の事だったと思う。
そこからは、様々な種族と行動を共にしては別れを繰り返した。
とは言え、全員が亡くなったわけではなく、存命の者たちもいるけどね。
ま、見聞を広めるのが目的だったので、のんびりまったりした旅路だったけど、なかなか充実していた気がする。
こうした日々のなかで、ボクは、[ダイワ王国]に訪れた。
もう30年以上も前のことだ。
初代国王と近衛衆が、【神法】とかいう〝魔法を超越した術を使っていた〟との伝説に少なからず興味を抱いたのが理由だった。
そんなボクは、[弓]のほうが好きなんだけどね。
さて…。
ボクが入国して暫くすると、“北の隣国”が攻め込んできた。
路銀が乏しくなっていたボクは、[ダイワ王国]が傭兵を募集しているのを知って、参加したという訳さ。
5年ほど続いた戦が終わったとき、先王によってボクは[男爵の位]を賜った。
この流れで、当時まだ子供だった現国王の教育係に任命されたんだ。
そうした任が満了して、都に定住したボクは、[エリクサー]の再現を試みている。
薬草類やポーションを見直したりもしているけれど、なかなか上手くいかない。
あと、ギルドに顔を出しては、魔物の解体を手伝わせてもらっていた。
新しい発見があったときは非常に嬉しいものさ。
ただ、年に4回は参内しないといけないのは億劫だったけど……。
或る日、お城の庭で、生まれて数ヶ月の第二王子を王妃が抱っこしていた。
ラルーシファ王子を目の当たりにしたボクは、不意に固まってしまったんだ。
なんか、こう…、赤ん坊の王子から神々しさみたいなものを感じ取って、
(他とは違う!)
そのように思ったのさ。
だから、およそ1年半が経って、王より“第一王子の教育係”を頼まれたとき、「第二王子であれば、お引き受けします」と自分でもビックリするぐらい無意識に述べていた……。
あれから更に月日が過ぎて、本日、ラルーシファ王子に“弓矢の扱い方”と“ボクが実験している内容”を伝えるため、城に赴いている。
懐かしの[勉強部屋]を覘いてみたところ、王子は既に自室に戻っており、レオディン殿が片付けを行なっていたのだ。
レオディン殿に王子の様子を尋ねてみたら、「まだ低級ではありますが神法を備えておられました」と返ってきたので、ボクは〝はへッ?!〟と驚いてしまった。
だけれども、次の瞬間、(かつての直感は、これだったのか!!)と喜びが込み上げてきたのである。
こうして…、【神法】を実体験したくなったボクは、庭で〝自分に当てるように〟とラルーシファ王子に懇願していた。
王子は戸惑っていたものの、ボクの望みを叶えるべく【アース・バレット】を放つ。
その悉くが命中したボクは、衝撃で血を吐きつつ後ろに飛ばされたうえに、地面を転がっていた。
ラルーシファ王子が引きまくるなか、ボクは悦に浸る。
ん??
いや、ボクは、断じて、変態などではないぞ!
…………。
多分、きっと……。
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俺の名は、ベルーグ・ゾアノ。
[ダイワ王国]の“元師団長”だ。
二年ほど前に発生したモンスターどもの“スタンピード”で、右目を失明した。
まぁ、陛下より[騎士の爵位]を授けてもらえたので、“名誉の負傷”となっている。
ただ、戦闘には不利な状況となってしまったので、一般職に移ろうと考えていた。
これが陛下の耳に入ったらしく、[王の大執務室]に呼ばれた俺は、“第二王子の教育係”を提案されたのである。
しかし、ラルーシファ殿下が7歳になられるまでは、あと二年はあったので、暫く城兵として勤める事になった。
その頃は、まだ転職先など決めておらず、新たな人生の方向性などが漠然としていたので、陛下に従ったのだ…。
城兵は、正直、退屈だった。
これといった刺激が無い。
それでも[騎士]になっていた俺は、周りから尊敬してもらえたし、給金も他より良かったので、割と満足していた。
厄介なのは“睡魔”ぐらいだ。
暇を持て余すなかで、鍛錬だけは怠らなかった。
なにせ、やがては[第二王子]を指導しなければならないので、腕を鈍らせるわけにはいかない。
あと、個人的に、太りたくなかった……。
現在。
城の庭で、殿下が[木剣]を熱心に振っておられる。
だが、お世辞にも上手いとは言えない。
素質は皆無だ。
[木製の斧]に関しても同様だった。
攻撃系のスキルを一つも取得しておられないので、仕方のないことではある。
第一王子であらせられる[ラダン殿下]は、“剣術/槍術/武術/打撃術/狙撃術”の全てを生まれながらに持っておられた。
これを知っていらっしゃるのだろう[ラルーシファ殿下]は、ひどく落ち込んでいる。
俺も、もともとは【剣術:壱】しか備わっていなかったので、劣等感みたいなもんは理解できた。
なんとか励ましてみたところ、殿下は、文句を口にする事なく、前向きに応えられたので、俺は懸命に育成しようと思ったのである。
それから数日後…。
城内は騒然となっていた。
どこもかしこも、ラルーシファ殿下が【神法】を使われたとの話題で盛り上がっている。
(えッ??!)
(神法って、あの!?)
(だとしたら、別に、スキル、要らなくねぇか?)
首を傾げた俺ではあったが、殿下はまだ幼いので、イマイチよく分かっておられないのだろうと、考え直したのだった―。