第59話 巡り会い③
“メリン・ハースト領主”よれば、ある女性三人組が、お店を営んでいるらしい。
彼女らは、同じ孤児院で育ったのもあってか、とても仲が良いそうだ。
その施設は15歳で卒業しないといけないらしく、各自が[港町ジィーモ]のどこかしらの飲食店で修業を積み、共同で開業したらしい。
ちなみに、一人が18歳で、二人は17歳、なのだとか。
他にも〝全員が人間〟との話しだった。
こうした女性陣は、経営が上手くいかず、始めてから二ヶ月程で危機に陥っているらしい。
メリン領主は、かねてより“孤児院の支援”や“女性の社会的自立”に力を入れてきたので、放っておけなかったそうだ。
「三人ともやる気はありますので、承諾していただければ幸いです。」
そうメリン領主が望んだところで、
「私は大丈夫ですけど?」
アシャーリーが僕に視線を送ってくる。
「うん。」
「問題ないと思うよ。」
このように伝えたら、
「ご了承くださり、ありがとうございます。」
メリン領主が一礼した。
その流れにて、
「では、近いうちに、私が生活している本館にお越しくださいませ。」
「その三人も宿泊させますので、ご指導お願い致します。」
こうメリン領主が述べたところ、
「ん??」
「“ジィーモ”に赴くのではないのか?」
ルシム大公が首を傾げる。
「あー、そのぉ……。」
「できれば、私のもとで働いている料理人たちにも、お教えいただけないかと、考えております。」
「あれらの品々を、日常的に味わいとうございますので。」
どこか気まずそうなメリン領主に、
「構いませんよ。」
アシャーリーが微笑んだ。
一方、〝ふむ〟と頷いた大公が、
「〝余所には広めさせない〟と約束してくれ。」
「破った場合は、そなたを筆頭に、関わった者を、厳罰に処す。」
「それが条件だ。」
真顔で告げる。
「ええ、勿論です。」
メリン領主が受け入れたことで、お開きとなる会議だった…。
▽
翌日。
準備を済ませたアシャーリー達が、あちらへと出発する。
例の如く、大公なども一緒に渡るらしい。
今回は、メリン領主お抱えの魔術士さんが、迎えに来ていた。
補足として。
アシャーリーの調理には“プレーンオムレツ”と“冷製スープ”が加わっている。
“プレーンオムレツ”というのは、具を入れずに玉子だけを焼いたものだ。
“冷製スープ”のほうは、時期的に“トマト/トウモロコシ/オニオン”の三種類となっていた。
また、それらのレパートリーは、[南の港町スブキィ]で、ヴォルたち獣人の[ルワーテ]と、レイッジ―兄弟の[リヌボ]や、“長男さん家族の料理人一同”にも、既に伝授してあるらしい。
なお、大きさは異なるが、どこも[氷室]を有しているので、食材を冷やしておける。
余談になるかもしれないけれど、[リヌボ]では、パンとスープの直売を行なうようになっていた。
テイクアウトしてもいいし、店内で味わうのもOKらしい。
視察に訪れた事のあるアシャーリーによれば、こちらも繁盛しているそうだ……。
▽
一ヶ月がくらいが過ぎた。
秋になったとはいえ、残暑が厳しい。
そうしたなかで、アシャーリーなどが帰宅した。
“女性三人組の“お店は、[チキュウビストロ・リジュフィース]という名称になっている。
[リジュフィース]は、こちらの言語で“可憐な乙女たち”という意味であり、彼女達が最初から店名として使っていた。
それと、[大公家御用達]の謳い文句を掲げるのが許可されている…。
▽
二日後。
“細長眼鏡のマリー”による鍛錬や、“竜人のヴァイア”との手合わせを終えた僕は、館に入るため、皆で[正面玄関]へと向かっていた。
このメンバーには、ヴァイアの護衛である“エレブ兄妹”も含まれている。
ちょっと脱線するけれども、僕は、あれ以来、別々の武器でも稽古するようになっていた。
“剣VS槍”はもとより、“棍棒VS戦斧”みたいな感じで。
まぁ、全て“木製”だけど。
……、本線に戻ろう。
もうすぐ扉という位置で、館の敷地内を歩いて進んでくる四人が見えた。
誰の背丈も低い。
それらに対し、
「ドワーフみたいですね。」
マリーが呟く。
僕らの側で止まった集団のなかで、“ゆるふわパーマのショートヘア”と“瞳”がライトブラウンであり、“丸メガネ”を掛けている少年が、
「“日之永君”に“嶋川さん”は、いらっしゃいますか??」
こちらを窺ってくる。
「君は?」
僕が尋ねたところ、
「あ、失礼しました。」
「先に自己紹介するべきでしたね。」
「僕は、フリント=ロデール。」
「前世での名前は“竹村良鉄”です。」
その少年が穏やかに喋った。
これに、
「えッ??!」
「先生!!?」
僕は目を丸くする。
“ヴァイア=カナム”こと“城宮宗次くん”も驚いていた―。




