第51話 各個の主観③
▽
私は、ヴァイア=カナム。
[ドゥユール]における王孫の一人だ。
ちなみに、ドゥユールは[竜の王国]とも呼ばれており、サウスト大陸の最北西に位置している。
[サウスト大陸]は、この世界の南東に存在しているそうだ。
さて。
私などは“竜人族”である。
普段は人間として生活しているが、ドラゴンに変身する事が可能だ。
いや、正確には、竜のほうが本来の姿らしい。
ドラゴンは巨躯のため、胃袋も大きいので、かなり飲食してしまう。
〝それだと食糧経済が破綻しかねない〟との理由にて、人になって暮らしている。
竜になるのは、余程の強敵と戦うなど、必要に応じてだ。
こうしたドラゴンの出産は、人間の姿で行なわれるらしい。
私の王族では、5歳になると、“学問”や“戦闘”の教育に、竜に変じる訓練が開始される。
それまで人として生きてきたので、最初のうちはなかなかドラゴンになれない。
まぁ、一年もすれば上手くいくようになるが。
なお、ドゥユールの王族貴族は、8歳で教育が終了する。
竜は、およそ二千年の寿命があるらしく、〝知識はゆっくり身につければよい〟との風習だ。
また、バトルに関しては〝実戦が一番〟といった考えがある。
こうしたなかで、私は10歳となった。
今から二週間ほど前のことだ。
その日の夜に、夢、というか、“前世の記憶”を見た。
これによって、もともとは“城宮宗次”という名前の日本人だったという事などを、思い出したのである。
しかし、何故このような状況になっているのかは、分からない。
そうこうしているうちに、諸国を旅して回っていた三兄が久しぶりに帰省なされた。
少し脱線するが、ドラゴンは二百年に一度の周期で身ごもる。
〝竜人族の女性がそういう体質〟とのことで。
そのため、だいたいではあるが、長兄は600歳、次兄が400歳で、三兄は200歳だ。
国王である祖父上は1000歳あたりで、第一王子の父上が800歳くらいであらせられる。
こうした“祖父上/父上/長兄”は、私が【神法】を扱えるのを知った際に、「まるでラダームたちみたいだ」と騒いでおられた。
そんな私には[攻撃/光/闇]の全属性が備わっている。
話しを戻そう…。
再会した三兄は、夕餉で集まった家族に「タケハヤ島の港町に珍しくて美味しい食べ物があった」と言いだされた。
更には[チキュウビストロ]や“カラアゲ”に“フライドポテト”などの名を口になさったのだ。
「本当ですか?!」
驚く私に、
「お、おう??」
三兄が少なからず引き、他の人達が首を傾げる。
これによって意を決した私は、前世の事を語っていったのだ……。
「旧友かもしれないので」との私の説得に、祖父母と両親が国外に出るのを許可してくださった。
〝護衛を伴って〟との条件つきで。
その役に、お店の場所を把握していて【瞬間移動】を使える三兄が、我先に立候補なさる。
どうやら、また、地球の料理を食べてみたいらしい。
これに続いたのは、長兄と次兄であらせられた。
二人とも興味があるようだ。
というよりは、祖父母と両親もそうだったみたいだが、立場的に〝ぐッ〟と堪えておられた。
あと、長兄と次兄の妻子も…。
かくして、私たち四兄弟は、翌朝、“北西の島”を目指したのである。
次兄による「ドゥユールの王族だとは悟られないような服装にしておきましょう」との意見を採用して……。
三兄の【魔法】で、[スブキィ]の“北門”あたりに移った。
町に入った後は、[ユニコーン車]で店舗へと向かう。
数十分が経ち、目的地の側で停まった。
降車しながら、
「まだ早いから行列ができてないな。」
「良かった。」
「こないだはすっごく並んでいて、危うくありつけないところだったんだぜ。」
そのように三兄が述べられる…。
形も味も、まさに“唐揚げ”であった。
「なんっだこれ?!!」
長兄と、
「うんっまい!」
次兄が、揃って瞳を輝かせる。
こうした反応に、
「だぁろぉ~。」
三兄が得意げになった。
自分が作ったわけでもないのに……。
食べ終わって余韻に浸りつつ、
「すまないが、ちょっといいかな??」
近くの店員に声をかける。
「はい?」
寄って来た“狸の獣人”に、
「調理したヒトに会いたいのだが。」
そのように頼んでみたところ、
「うちの従業員であれば誰もが作れますけど??」
「何か味にでも問題がありましたか?」
軽く首を傾げられてしまった。
「いや、そうではなく…。」
「〝もしかしたら私の知り合いが料理したのかも??〟と思って、念の為に訊いてみたのだ。」
こう伝えてみたら、
「あ!!」
〝ピン!〟ときた感じの店員が、
「どうぞ、こちらへ。」
[別室]に案内してくれる……。
数分が過ぎ、
「お待たせしました。」
入ってきたのは“狼の獣人”だった。
店長だという彼は、机を挟んだ対面に座り、“銀板の札”を渡してくる。
なんだか名刺のようだ。
余談かもしれないが、兄上達は、私の後ろに置かれた椅子に腰掛けている。
ともあれ。
カードに彫られている文字に、
「日本語?!!」
私は目を丸くした。
そこには…、
オ店ニ辿リ着イタ転生者ヘ
中央都市 ルシム大公ノ館デ待ツ
日之永新
嶋川由美
地球におけるデジタルみたいな字で、このように書かれていたのである。
「ひのとしん、しまかわゆみ。」
ふと呟いた私に、
「やはり、読めるのですね。」
理解を示した店長が、
「裏面もご確認ください。」
そう勧めてくる。
札を返してみたら、都市の簡単な地図と、星印が、刻まれていた。
「そこに、御両名がおられます。」
“狼の獣人”に教えられ、背後を振り向いた私は、
「ここの中央都市に赴かれたことは??」
このように三兄に尋ねる。
「ん?」
「あるぞ。」
頷かれた三兄が、
「あそこの南門にでも行ってみるか??」
そう提案なされた。
これによって、お代を支払い、
「ありがとう。」
店長に会釈した私は、兄上がたと共に、その場から去ったのである―。
[備考]
長兄=無造作ヘア/翼と尾はレッド/見た目は20代後半
次兄=超ロングヘア/翼と尾はブルー/見た目は20代半ば
三兄=ツンツンヘア/翼と尾はオレンジ/見た目は20代前半
・竜人族の体毛は黒い




