第50話 巡り会い②
“ルシム大公の長男さん”と“ティミドパーソ兄弟”は、男性魔術士の【瞬間移動】で、既に館から去っている。
“狼の獣人”であるヴォルには会議に加わってもらいたかったので、残ってもらった。
[客間]では、
「やはり、“リヌボ”とやらで、あれらの料理を扱わせるのは避けるべきでは??」
「マリー殿が言っていたように、本末転倒になりかねませんので。」
「そもそもの目的は、王子殿下とアシャーリーの旧友の方々に赴いてもらうことです。」
「となると、リヌボにも事情を知らせねばなりません。」
「それによって、王子殿下の情報が広まり、何者かに暗殺されてしまったならば、責任重大ですよ。」
“次男さん”の主張に、
「だが、この島を統治する身分としては、対策を講じねばなるまい。」
「しかも、アヤツは、うちの元料理長という縁がある故。」
「見捨てるのは、あまりにも薄情であろう。」
そのように大公が返す。
こうした流れで、
「お店は、現在、どのような状況ですか?」
アシャーリーがヴォルに尋ねる。
「かなり多忙です。」
「まぁ、廃業しかけていた頃に比べたら嬉しい限りですが…。」
「特にパンとスープは手間暇かかるので、正直なところ、店員を増やしたいですね。」
そうヴォルが述べたら、
「すみませんが、ラルーシファ王子のことをなるべく秘密にしておきたいので、それは控えてください。」
マリーが異を唱えた。
これによって、いささか考え込んだアシャーリーが、
「でしたら、パンとスープは“リヌボ”に任せましょう。」
そのように提案する。
「あぁー、委託か。」
「それは、いいかもしれないね。」
「で。」
「そこの料理人達が作るのに慣れて、一日で生産できる量が増えたなら、お店で直売させてあげるのは、どう??」
「あ、でも、スープは難しいか?」
「容器が無いし。」
僕が喋ったところ、
「それなら、屋台のように、お皿を持参してもらって、〝玉杓子で一掬い幾ら〟みたいにすれば、問題ないと思いますよ。」
こうリィバが意見した。
「屋台が在るの??」
「この世界にも?」
おもわず質問した僕に、誰もが〝ええ〟と頷く。
アシャーリーを除いて。
ちなみに、玉杓子とは、いわゆる[お玉]だ。
ま、そんなこんなで、再び[スブキィ]で暫く生活する事にした“アシャーリーたち”だった……。
▽
あれから二週間ほどが過ぎて、アシャーリー達が戻ってきた。
今回は、[長男さんの館]からアシャーリー母子が[リヌボ]に通ったらしい。
大公と、教育係が、付き添って。
調理人らは基本的に吞み込みが早かったらしい。
“レイッジー・ティミドパーソ”以外は。
そのため、余計に時間が掛かってしまったそうだ。
「ん??」
「あの人って、ここの元料理長だよね?」
首を傾げた僕に、
「その地位に就いてからというもの、慢心したのか、周りに命令してばかりで、腕を磨くのを怠っていましたからね。」
苦笑いする“アシャーリーの母親”だった…。
とにもかくにも。
[リヌボ]は〝ゆくゆくチキュウビストロ系列店といった看板を掲げて構わない〟との話しでまとまっている……。
▽
更に半月あたりが経ち、[大公の館]に“男性4人組”が訪れた。
なんでも、[ルワーテ]で“銀のカード”を見て、ここに来たらしい。
それは、つまり、日本語が読めるというのを意味している。
僕らが[客間]に足を運んだところ、紅茶を飲んでいた4人が立ち上がった。
全員、人間の容姿でありながら、頭には“上へ向かって曲線的に伸びている漆黒の角”が生えている。
こうした“渦巻きラインが入っているツノ”は、悪魔みたいな印象だ。
なお、角膜は黄色で、瞳孔は黒くて縦長に鋭い。
それだけでなく、4人は“色違いの翼と尾”を有していた。
このなかで最も背の低い少年が、
「私たちは“ドゥユールの王族”だ。」
そう告げてくる。
これに、
「なッ??!」
レオディンを筆頭として、大人達が驚く。
そうしたなか、セミロングの髪/眉/背中の翼/尻尾が黒い先程の男子が、
「“委員長”と“嶋川さん”は??」
そのように窺ってくる。
「僕だけど。」
「私です。」
ほぼ同じタイミングで答えたら、
「私は、ヴァイア=カナム。」
「前世の名前は“城宮宗次”だ。」
表情を緩める少年だった―。




