第44話 交錯するもの⑦
▽
我が名は、ルシム=イズモ。
[ダイワの大公]にして[タケハヤの島長]である。
数年前から引退を考えるようになり、長男に座を譲るべく、いろいろと学ばせることにした。
隠居してしまうと張り合いをなくし、これまでよりも老け込んでしまうだろうが、ま、仕方あるまい。
年齢からして、しんどくなってきておったし……。
そんな儂の楽しみは、【神法】を備えていたアシャーリーの成長くらいだ。
いや、あの子が作る料理も、生き甲斐の一つではあるが…。
(次第に衰え、迎えが来るのを待つだけになってしまうだろう)と思うようになった矢先の事だった。
ラルーシファ殿下がたが、お越しになられたのは……。
あれからというもの、ほんっとに飽きない日々となっておる!
[神剣ムラクモ]の力を目の当たりにできたし。
[癒しの女神パナーア様]の提案で、飲食店を開く運びになった。
また、[武神カティーア様]の報せによって、アシャーリーの鍛錬回数が増えたのである。
これらが刺激となったのであろう、心が塞ぎそうになっておった儂は、自然と英気を取り戻していた。
諸々、喜ばしい限りだ!!
そうこうしておるうちに、店舗候補が挙がってきた。
代表の“ヴォル・リュウス”を首めとして、全員が[男性の獣人]である。
彼らは、悪化の一途を辿る営業利益を回復させるため、懸命になる所存のようだ。
こちらとしては、経済効果が見込めるうえ、殿下とアシャーリーの〝前世の友人知人との再会〟が掛かっておる。
しかも、その“元地球人達”は〝誰もが神法を扱える〟との話しだった。
これには〝わくわく〟が止まらん!
どうやら、殿下やアシャーリーの“教育係”に“お世話係”も同じらしい。
余談になるやもしれんが、我々の惑星の名は[ガーア]である。
さておき…。
“ヴォルの店”のために、アシャーリーが新しい調理を試した。
なかでも、儂は、[チーズフォンデュ]なるものに夢中になったのである。
チーズにかような活用法があるとは、驚きだ!!
長男の子供たちと競うようにして食した結果……、胃もたれした。
最近は若返ったかのような気がしておったが、勘違いだったのを痛感した次第である。
その件は忘れるとして…。
いよいよ、“実戦”を行なうことになった。
なるべく難易度の低い敵を選び、[東の森林]に赴いたのである。
森の中心周辺は、なかなかに手強い“魔獣”が占拠していたり縄張り争いを繰り広げているのが常だ。
よって、森林の外周に棲息しているものらに狙いを定めたところ、[植物型]が出てきおった。
連中は、決して弱くはない。
だが、儂らであれば負けはせんだろう。
かくして、魔物どもとの戦闘が始まった……。
我々の隙を突いて、二体の“マイコニド”と、一体の“アルラウネ”が、アシャーリー達の方へと走って行く。
危険を察した儂は、すぐに追おうとするも、他の魔物らに攻撃され、阻まれてしまう。
しかし、我が次男が対応し、リィバ殿が援護してくれたので、アシャーリーは無事であった。
〝ホッ〟と安堵した儂は、改めて戦いに専念していったのである―。
▽
儂は、レオディン・セル―ロ。
ダイワの王宮魔術…、今は違うな。
ライザー陛下の勅命にて、とっくに王城を離れておる故。
まぁ、細かいことはいいとしよう。
儂としては、ラルーシファ殿下の御傍にいられるだけで充分なのじゃから。
いや、正直なところ、欲を言いだせばキリはないのだが……。
ともあれ。
(殿下の教育係になれて本当に良かった)と、つくづく感謝しておる。
何せ、[ムラクモ]による【閃光斬】を目にできたし、神々にもお会いしたのじゃからな。
更には、鍛錬中のアシャーリー嬢に【光属性の神法】を拝見させていだたいだ。
おそらく、神法にも〖闇属性〗が存在しておるじゃろう。
これは“元地球人”の誰かしらが備えておるやもしれん…。
なお、〖闇属性〗は、“毒/混乱/麻痺/瞬間移動”である。
ちなみに、魔物のなかには“魅了”や“狂暴化”といった【スキル】を使えるものがおり、少なからず厄介じゃ。
【チャーム】は、精神的に未熟であるほど掛かりやすい。
【バーサーク】は〝発動者の攻撃力のみ二倍になる〟と伝承されてきた。
ま、それらはおいといて……。
アシャーリー嬢の料理は、どれもこれもが美味である。
現時点における儂の好物は[白身魚の塩カラアゲ]じゃ!
〝カリカリッ〟とした外側に〝ふわふわ感〟がある内側の対照さが、儂を虜にさせておーるッ!!
特に、平均2M大で鱈みたいな姿の[コッドゥン]という“一角魚”の身を用いた際には、頬が落ちそうなぐら…、あ、いかん。
はしゃぎすると、殿下に引かれてしまう。
自らを制御せねばならねば!
コホンッ。
なんにせよ、儂もまた、幸せである。
こうした日々のなか、魔物らと一戦を交える事になった……。
森に近い平原にて、儂の魔法が炸裂する!!
自画自賛になっても構わん。
流石、儂、じゃ!
ラルーシファ殿下も、ベルーグ殿とマリー殿に補佐されつつ、善戦しておられる。
最初のうちは緊張なされておったようじゃが、どんどん動きが軽やかになっていった。
素晴らしい限りであらせられる。
即席ではあるものの、皆で連係したことにより、数分後には魔物集団を殲滅できた。
そこからは、儂と、アシャーリー嬢の教育係である“女性魔術師”とで、敵の死骸を燃やしてゆく。
【火炎魔法】にて。
…………。
処理を終えたところ、
「レオディンもリィバも、変…、いや、凄かったね!」
「僕、感心したよ!!」
殿下にお褒めいただいた♪
ただ、“へん”という箇所が、よく分からぬが…。
ハッ! もしや!!
(片鱗に過ぎなさそうだ)との事であろうか?!
周りが嫉妬するかもしれないのを配慮して、異なる言い回しになされたのだろう。
やはり聡明であらせられる―。




