第40話 二重の意味で進む御飯③
アシャーリーの“教育係”も、5人だ。
まず、ルシム大公が“バトルアックス”や“モーニングスター”などの【打撃術】を指南するらしい。
それから、“50代半ば/七三分けの髪/鼻髭”といった執事さんは、[槍術]と[武術]を教えているのだそうだ。
“馬の白い耳&尻尾/白銀のロングヘア/ブルースカイの瞳”で30代前半に見える女性獣人が、[剣術]を受け持っているとのことだった。
20代半ばといった印象で小柄な“兎でオレンジ色の耳&尻尾/ゆるふわ黒髪ショート”の女性獣人は、[狙撃術]らしい。
あと、“60歳ぐらい/白髪交じりでソバージュみたいな黒色セミロング”の女性が、魔法を担当しているらしいけど…、ま、アシャーリーの場合も【神法】だ。
とにもかくにも。
このようなメンバーなどが、“長男さんの館”へと【瞬間移動】したのだった……。
▽
あれから約一ヶ月が経っている。
僕は僕で、休日を挟みながらではあるけれども、鍛錬に勉学を怠っていない。
そうした流れのなか、とある午後に、女性魔術師の【テレポート】によって、大公が帰宅した。
現在、僕らは、[客間]に集まっている…。
「明日の昼に開店します。」
報せてくれた大公に、
「こちらも、カードの用意が整っております。」
次男さんが続いた。
〝ふむ〟と頷いて、
「つきましては、本日の夕刻、あちらの館に直接お越しくださいませ。」
「あの者らの料理を食していただきたいのと、諸々の最終確認がございますので。」
こう伝えてきた大公が、
「無論、お主も一緒にな。」
次男さんに穏やかな視線を送る。
かくして、[スブキィ]に渡る運びとなった僕らだった。
▽
定刻の数分前に、レオディンによって、一階エントランスへと【テレポーテーション】している。
スタンバイしていたらしい“大公家の執事”が、
「お待ちしておりました。」
タキシード姿で頭を下げた。
そんな彼の先導で、僕らは[食堂]へ歩いて行く……。
▽
入室したところ、アシャーリー母子/長男さん家族/領主夫妻&息子さん家族/アシャーリーの教育係が、椅子から立ち上がって、「お久しぶりです」や「初めまして」と、お辞儀する。
「皆、ラクにして。」
声をかけた僕に応じて、各自が座り直してゆく。
ここに、
「到着なさっておられましたか。」
背後より近づいてきた大公が、
「ささ、殿下がたも、お席にどうぞ。」
そのように促してきた…。
僕たちも腰かけたところで、雑談が交わされていく。
暫くすると、コック姿のヴォル達と、この館の給仕らが、“銀製の配膳ワゴン”を押して来た。
足を止めて、帽子を脱いだ“狼の獣人”は、
「お集りいただき、ありがとうございます。」
「アシャーリー様のお陰で、どうにか提供しても恥ずかしくない腕前になりました。」
「これより皆さんに味わっていただきますが、お気づきの点がございましたら、遠慮なくお申し付けください。」
「より一層に精進してまいりますので。」
口上を述べ、お辞儀する。
これに、ヴォルの舎弟……、というか、従業員一同が倣う。
そこから、いろいろとテーブルに並べられていった。
なお、お皿はどれも小さめで、載せられている食べ物が割と少ない。
今回は、幾つかの品数となるので、すぐに満腹にならいよう工夫しているそうだ。
ただし、セミハードパンにオニオンスープは、通常サイズとなっている。
お店で提供する際には、定食みたいな形式にするので、お皿は大きめで、量も多くするらしい。
さて。
“おかず”はというと…、お馴染みの“フライドポテト”や“スクランブルエッグ”に、“鯵のチーズパン粉焼き/白身魚の塩カラアゲ/アサリのバター焼き”だ。
初めて口にするらしい“領主ファミリー”が、感激している。
余談になるかもしれないけど、領主の奥さんは、60代前半といったところだ。
息子さん夫婦は30代半ばらしい。
孫娘は11歳で、孫息子は7歳なのだそうだ。
ちなみに、全員が細身の体型だった。
……、話しを戻して。
最後に並べられたのは“チーズフォンデュ”だ。
溶かしたチーズ自体は、個々の“陶器鍋”に入れられている。
食材はというと“鶏の唐揚げ/アスパラガス/ブロッコリー/ニンジン/春シメジ/菜の花”だ。
これは、僕らも経験がない。
補足として、チーズそのものは、こちらの世界にも、もともと存在している。
地球に比べて種類は少ないみたいだけど。
まぁ、それは置いといて…。
ヴォルの説明で、誰もがスピックを使って味わう。
結果、僕の“教育係”と“お世話係”を中心に、瞳を輝かせた面子が、騒ぎ出す。
なかでも楽しんでいるのは、子ども達だった。
これらの光景に、ヴォルなどが安堵し、アシャーリーは満足そうに微笑んでいる。
「チーズフォンデュの器とスピック、よく有ったね、こっちの世界に。」
僕が尋ねてみたところ、
「いえ。」
「無かったので、お祖父様にお願いして、町の職人がたに作ってもらいました。」
「何十個も。」
「特注で。」
「お祖父様が〝よくは分からんが、美味い物が食えるのであれば金に糸目は付けん!!〟と乗り気だったので、助かりました。」
そうアシャーリーが答えた。
「あぁ、それで、一ヶ月くらい掛かったのか。」
「製品が完成するのを待って。」
勝手に納得した僕に、
「いいえ、そうではなく……。」
「ヴォルさんたちが、パンづくりに手間取っていました。」
アシャーリーが、ふと遠い目になる。
この傍らで、
「成程!」
「こうきたかぁあッ!!」
チーズフォンデュに興奮を隠しきれない大公だった―。




