第4話 課程・破
ハーフエルフの“リィバ・シルブ”が、〝ニコニコ〟しながら、
「見せてください。」
「神法を。」
こう頼んできた。
彼もまた冒険者だったらしいのだが…、今から30年以上も前に勃発した[北の隣国]との大戦に“ダイワ王国の傭兵”として参加したらしい。
それは、僕などの祖父様が王だった時代のことだ。
5年ほど続いた戦で活躍したリィバは、先王によって[男爵の位]を与えられ、正式に仕える事になり、この国に定住した。
なんでも、子供だった時の父上の“教育係の一人”に選ばれたらしい。
その務めが終わると、王都で購入した“小さめの屋敷”で生活しながら、いろんな研究に没頭するようになったのだそうだ。
年に数回は参内しており、お城の廊下や庭で何度か挨拶されたことがあったので、以前から知ってはいる。
こうしたリィバは、現国王の父に、第一王子である兄上の教育係を依頼されたものの、
「第二王子であれば、お引き受けします。」
と辞退したとの事だった。
理由は誰にも喋らなかったらしいので、どういう意図があるのかは分からないけど……。
結局、それを父上が承諾したことによって、僕の担当を拝命したとの話しだ。
こういった経緯のハーフエルフは、【光魔法】を扱えるらしい。
ただ、【狙撃術】のスキルも身に付けている彼は、〝弓が最も得意〟とのことだった。
そんなリィバに、
「いや、“木製人形”が片付けられてるから、無理だよ。」
このように伝えたところ、
「では、ボクに向けて使ってください!!」
両手を広げて構えた。
「え?!」
「危なくない??」
「やめとこうよ。」
僕は説得を試みたものの、
「いえいえ、まだ低級であれば、大丈夫でしょう。」
「きっと問題ありませんよ。」
「さぁ、王子!」
「遠慮なく、どうぞ!!」
完全に押し切られてしまい、
「じゃあ、一回だけ。」
受け入れてしまったのだ。
「はい!」
「お願いします!!」
リィバが嬉々とするなか、僕は発動する神法について考える。
(火は燃えるし、雷は痙攣させてしまうみたいだし…。)
(うぅ~ん。)
(……、あッ!)
(あれにしようかな。)
悩んだ結果、どれにするか決めた僕は、リィバへと右手を突き出す。
その流れで、直径50㎝といった“ホワイトゴールドのサークル”を出現させて、
「アース・バレット!!」
25個の【土の弾丸】を放った。
上半身に当たりまくって、
「ぶっほッ!」
血を吐きつつ2Mぐらい後方に飛ばされたリィバが、地面に〝ゴロゴロゴロゴロ〟と転がる。
「えぇえ――――ッ!!!!??」
驚きのあまり大声を出した僕に、うつ伏せで〝ブルブル〟しながら、
「へ、平気ですよ、王子。」
「この震えは、神法を体験した喜びによるものなので、心配なさらないでください。」
親指を立てたハーフエルフが、〝ニヤリ〟とした。
こういった光景に、
(…………、間違いない。)
(リィバは、変態だ!!)
レオディンのとき同様、引いてしまった僕がいる…。
▽
自身の光魔法で治癒したリィバに、矢の射り方を指導してもらう。
幾度となく的を狙うも、まったくもって命中しない。
僕が落胆したところ、
「まぁ、王子は狙撃術のスキルが備わっていないので、今は、こんなものでしょう。」
「早ければ1年、遅くとも3年あれば、得られますので、気長にいきましょう。」
リィバが優しく微笑んだ。
彼によれば、戦闘のスキルには“狙撃術/打撃術/武術/槍術/剣術”があるらしい。
〝どれかしらを持って生まれた者もいれば、そうではない者もいる〟との事だった。
更に、これらにも段階があるのだそうだ。
それは“壱・弐・参・肆・頂”というものなのだと、説明してくれた……。
▽
再びの小休止を挟んで、改めて[勉強部屋]に訪れている。
まずは、【光魔法】に関して教えてもらう。
主に[治癒系]と[補助系]に分かれているそうなのだが、なかには[攻撃系]もあるみたいで〝どの種族にも有効だけれど、特にアンデッド達に効果抜群〟との話しだった。
他にも、暗い場所を照らす[ライト・ボール]や、対象者の目を眩ませる[フラッシュ]が、存在しているらしい。
あと、[ポーション]の効果についても解説してくれた…。
▽
〝修業は午前中のみ〟となっている。
お昼になり、食卓を家族全員が囲んでいた。
左右の壁には、男女合わせて数人の給仕が控えている。
ちなみに、父は34歳で、母は29歳だ。
二人とも、髪は金色であり、瞳が青い。
飲食しつつ、
「ラルーシファ。」
「神法を扱えるそうだな。」
父上に確認された。
「あ、はい。」
簡略的に答えた僕を、
「そうなのか?」
ラダン兄上が窺う。
兄は、赤茶色の髪を短くしている。
“ツンツン頭”という表現が一番しっくりくるかもしれない。
兄上の質問を、
「ええ、その通りです。」
僕が肯定したところ、
「あの神法?!」
「伝説の!?」
「ラルくん、すごいわね!!」
リーシア姉上が興奮しながら述べた。
これに続いて、
「らるにぃに、すごい! すごぉい!!」
妹のエルーザが意味も分からず〝キャッキャ〟と喜ぶ。
金髪ショートの妹は、僕よりも“巻き毛”だ。
エルーザによって楽しげな雰囲気に包まれたなか、
「ところで、リーシアよ。」
「また悪戯したとか??」
父上に訊かれ、姉上が〝ギクッ!〟とする。
「その反応からして本当のようだな。」
〝はぁ――〟と溜息を吐いた父上に、
「リーシアは、本日の夕食を抜きとする。」
そう宣告され、
「ぬぅお――――ッ!!!!」
痛恨の叫びを響き渡らせる姉上だった―。