第32話 来訪①
レオディンの【瞬間移動】で、僕らは[大公の館]に帰ってきた。
“一階のエントランス”にて、〝んん~ッ〟と伸びをしたベルーグが、
「ルシム大公、庭をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「体がなまっているため、久しぶりに動きたいので。」
そのように伺う。
「ならば、東の一角を使うがよい。」
「“ちょっとした鍛錬場”になっておるゆえ。」
こう教えた大公に、
「ありがとうございます。」
会釈したベルーグが、
「ラルーシファ殿下も如何です??」
ふと誘ってくる。
「そうだね…。」
「じゃあ、アシャーリーも、一緒にどぉう?」
こう声をかけてみたところ、
「いえ。」
「〝お店を開く〟というのが現実味を帯びてきたので、他の料理も考えていきたいです。」
「やはり、あの品数だけだと、最初のうちは良くても、やがて飽きられかねませんので。」
「それに、私、今日は、“お稽古の日”じゃありませんし。」
キッパリと断られてしまった。
そんなアシャーリーが、
「お祖父様。」
「“港町”ということは、魚貝類が沢山とれますよね??」
大公に尋ねる。
「ん?」
「“スブキィ”か??」
「であれば、なかなかの水揚げ量を誇っておるぞ。」
このように大公が伝えたら、〝ふむ〟と頷いて、何やら〝ブツブツ〟と呟き、
「ま、いろいろと試してみましょう。」
「あと、野菜の調理も。」
一人で完結したアシャーリーが、
「それでは失礼します。」
お辞儀して、去ってゆく。
そうした状況に、
「うちの娘が、すみません。」
次男さんと、
「きつく言い聞かせておきますので。」
奥さんが、申し訳なさそうにする。
「ああ、いや、全然。」
「これを機に、いろんな美味しい料理が出来ていくのであれば、誰もが喜ぶだろうから、怒らないであげて。」
こう述べた僕に、
「お心遣い、感謝いたします。」
次男さんが頭を下げ、それに奥さんが続いた……。
▽
お庭にて。
僕は、ベルーグと、[木剣]を交えている。
近くでは、リィバや、ユーンを筆頭にした“お世話係”が、見守っていた。
念の為、僕を警護するために。
レオディンに、マリーは、それぞれの部屋に戻っている。
なお、レオディンは、僕の父上にいつかまとめて提出する用の“報告書”を作成していくのだそうだ。
マリーは“歴史学の専門家”でもあるため、[女神パナーア様]や[地球の調理]などに関する記録を取っておきたいらしい。
いずれにしろ。
リィバとの“弓術”や、ユーンとの“武術”も、数日ぶりに行なう僕だった…。
▽
翌朝。
[食堂]へと足を運ぶ。
昨日の件で軽く筋肉痛になっている事を、なんとなく口にしたら、リィバが【治癒魔法】を施してくれる。
おかげで回復したところへ、〝パッ!〟と現れた見ず知らずの女性が、
「やぁ、諸君、おはよう。」
このように挨拶してきた。
「何奴?!!」
ルシム大公を軸にして、殆どの顔ぶれが、咄嗟に身構えるなか、リィバだけが慌て跪く。
「……、もしや、こちらの方も神様ですかな??」
そう質問したレオディンに、
「間違いなく。」
「しかも…、パナーア様より神気を強く感じる。」
「おそらく、ここに居る全員が束になったとしても、わずか数秒で負けると思う。」
いささか震えながらリィバが答える。
背丈170㎝ぐらいで、ローマ時代みたいな服装に、肌は白く、くせ毛のショートが赤色かつ、瞳は金色、といった女性に、
「貴女様は、一体??」
レオディンが窺ったところ、
「自己紹介が遅れたな。」
「私は“カティーア”だ。」
威風堂々と告げたのだった。
〝ぬおッ?!〟と一歩退がった大公が、
「とんだ御無礼を!!」
恐縮して、ひれ伏す。
多くの面子が大公に倣うなか、
(え??)
(またこのパターン?)
僕は戸惑う。
「構わん。」
「皆、ラクにしてくれ。」
カティーア様が許可したことで、〝ははッ!〟と応じた各自が、立ち上がっていく。
この流れで、
「誰ぞ。」
「カティーア様の分の朝食も作るよう、料理人らに報せよ。」
大公が給仕たちに視線を送る。
それを、
「いや、少しばかり話しをしに来ただけだから、必要ない。」
「できるだけ早く終わらせるつもりだ。」
カティーア様が止めた。
「さようでございますか。」
「では…。」
「椅子を新たに一脚と、全員に紅茶を。」
「それから、儂らの食事の時間を遅らせるべく、厨房に経緯を伝えよ。」
改めて大公が指示したことで、一礼した給仕達が動きだす。
こうしたなか、辺りを見回して、
「懐かしいな。」
優しくも淋しそうに目を細める[武神様]だった―。




