第30話 シークレット①
あれから約5分後――。
レオディンの魔法によって、僕達は、[港町スブキィ]の北側に【瞬間移動】した。
僕らが居る“土の道”の先には門が在り、町は壁で囲まれているようだ。
門の両脇では、兵士たちが、通行人とやり取りを交わしている…。
▽
僕らの順番となり、先頭の大公が、
「“ルシム=イズモ”である!」
そう名乗った。
大公に視線を送った数人の兵が、何かに気づいたみたいに〝ハッ!!〟として、敬礼しだす。
大公が着用している貴族風のジャケットの左胸元には、“雷”と“月”が合わさったデザインが銀糸で刺繍されている。
これは[大公家の紋章]だ。
以前も説明したことがあるけど、[イズモ王家]の場合は、“雷”に“太陽”と“月”がモチーフになっており、金糸が使われている。
今回、僕は、それらがあしらわれた服を着ていない。
どこに敵が潜んでいるか分からず、命を狙われる危険性があるからだ。
いずれにせよ。
[大公家の紋章]を認識したらしい兵士の一人が、
「どうぞ、お通りください。」
お辞儀した。
「うむ。」
「務め、大儀である。」
こう返した大公と共に、僕達は、無料で町へと入ってゆく……。
▽
門から15分ほど歩き、とある館に到着している。
そこでは“大公の長男家族”が暮らしているそうだ。
暫く[客間]で待っていたところ、外側から扉を開いた男性が、
「父上!」
「お越しになる際に連絡してくだされば、北門まで迎えを寄こしましたのに。」
いささか困惑した。
「まぁ、内密にしないといけない件もあったしな。」
そう伝えた大公が、
「お?」
「お主も来ておったか。」
長男さんの後ろに控えている人物に声をかける。
「お久しぶりでございます。」
「大公殿下。」
会釈した中年男性が、
「本日は、月に一度の定期相談がありましたので。」
このように答えた。
あとで聞いた話しによれば、彼は“領主”との事だ。
やはり[スブキィ]で生活しており、ここから、徒歩だと一時間くらいで、[ユニコーン車]であれば10分ちょっとの所に、館が在るらしい。
その領主の姪…、詳しくは妹君の娘さんが、大公の長男さんに嫁いだのだと。
補足として、“大公の長男家族”が過ごしている館は[領主の別宅]なのだそうだ。
ちなみに、大公の長男さんも、領主も、細身だった。
長男さんは、30代後半といったところで、ライトブラウンの髪をオールバックにしている。
領主はというと、60代前半あたりで、七三分けの髪と、鼻の下の髭が、ホワイトゴールドだ。
さて。
「弟君がたも、ご一緒でしたか。」
「……、おぉう、アシャーリー様、大きくなられましたなぁ。」
目を細めた流れで、
「して??」
「他の方々は?」
ふと尋ねる領主だった。
〝スッ〟と椅子から立った大公が、僕に手を向け、
「こちらは“ダイワの第二王子殿下”であらせられる。」
そう告げる。
「は??」
長男さんと、
「ご冗談ではなく?」
領主が、揃って首を傾げた。
こうした二人に、
「父上が、そのような戯言を口にするとでも??」
大公の次男さんが逆に質問する。
更には大公が真剣な表情を崩さないこともあってか、信じたらしい二人が、
「失礼いたしました!!」
慌てながら跪く。
「あぁ、そういうのは、別に」と、やめさせようとした僕に、またしてもマリーが急ぎ耳打ちした。
それによって、
「両者とも、ラクにせよ。」
こう許可した僕である。
▽
…………、大公が経緯を語り終えた。
「それでアシャーリーが“神法”を備えていたのか。」
長男さんが驚きつつも納得するなか、
「そのような事態になっていたとは。」
呟いた領主が〝うぅ~む〟と唸る。
「ここからが本題じゃ。」
「先ほど述べ知らせたとおり、ラルーシファ殿下とアシャーリーが“前世の友人知人”と再会を果たせるよう、スブキィに飲食店を開く。」
「が。」
「まずは、お主らに、アシャーリーたちの料理を味あわせたい故、厨房を借りるぞ。」
「昔から“論より証拠”と言うしな。」
大公に促され、
「ええ、勿論です。」
「こちらとしても、“チキュウ”とやらの調理法に興味がありますので。」
そう承諾する“アシャーリーの伯父君”だった―。




