第22話 各個の主観①
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私は“アシャーリー=イズモ”です。
タケハヤの島長…、つまりは[ダイワの大公]の孫娘となります。
父は“島長の次男”で、母は“館の元専属料理人”です。
なお、お母様は、結婚後もたまに厨房に立ってきました。
その影響からか、いつしか私も調理に興味を持ったのです。
5歳あたりで“お手伝い”するようになったと記憶しています。
まぁ、大人たちにしてみれば“邪魔”にしかなっていなかったでしょうが……。
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ちょっとした転機が訪れたのは、7歳になったときです。
ある日の事、お祖父様に教えられて、「のうりょくかいじ」と唱えました。
脳内に浮かんだ文字を読み上げていったところ、
「は?!!」
「神法じゃとぉお!??」
お祖父様が驚かれたのです。
更には、ご本人が館中に報せたことで、騒然となりました…。
少しだけ脱線しますが、私の父親の兄には、2人の子供がいます。
長男は私の二つ上で、長女は私の一つ下です。
このため、妹ちゃんの方は、まだ教育が始まっていませんでした。
さて……。
私の【神法】は[光属性]となっています。
他には、 “小規模の亜空間収納”が備わっているみたいです。
一方で[戦闘系のスキル]は皆無でした。
お祖父様がたは【神法】に大はしゃぎしていらっしゃいましたが、私が個人的に嬉しかったのは[特殊スキル]です。
何故ならば、“プロレベルの料理人”と記されていたので。
そちらの腕を磨きたい私は、戦いにおける修行を拒みました。
もともとは“鍛錬”や“勉学”を週四で行なう予定だったのですが…、調理を優先したい私は猛反発したのです。
両親が間に入ってくれた結果、週二に変更されました。
お祖父様は残念がっていましたが、致し方ありません。
なんだかんだで、お父様による「アシャーリーを鍛えて力をつけすぎたなら兄上にとって脅威となるでしょう」「やがては長男家と次男家で跡目争いが勃発しかねません」との主張が効いたようです。
こうして、私は、お料理に割と集中させてもらえたのでした。
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およそ三年が経ち、伯父様がたは[南方の港町]に赴任する事になったそうです。
従兄妹の2人とは、とても仲が良いので、かなり寂しくなりました。
その数日後、私は“夢”を見たのです。
いえ、“前世の記憶”と言ったほうが正しいでしょう。
これによれば、私は、地球と呼ばれている惑星の、日本人でした。
また、[嶋川由美]という名前の〝高校生だった〟ということなども思い出したのです。
その流れで、クラスメイトや担任教師などの安否が気になりました。
もしかしたら、あの事故で亡くなっているかもしれないので。
こちらの世界に生まれ変われたのは私だけかもしれませんし……。
悲しみや不安に襲われるなか、唯一の希望は、やはり調理でした。
“日本の両親”が[喫茶店]を営んでおり、私は小学生の頃から料理を習っていたのです。
中学生以降は、親のカフェでバイトすることもありました。
あちらの父と母に弟が気掛かりではありますが、どうにも出来ません。
いつまでも〝くよくよ〟していると、“現在の家族”を心配させるばかりです。
そのためにも、私は、調理に邁進していくようになりました。
あと、〝こちらの世界の料理は、あまり美味しくない〟というのも判明したので…。
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“前世の知識”を取り戻した私は、いろいろと試していったのです。
まずは、お肉に挑んでみます。
こっちでは、ただ焼くか、燻製にするかの、二択でしかありません。
そこで、“揚げ物系”をテーマにしてみたのです。
最初は“トンカツ”や“メンチカツ”をイメージしたのですが、調味料となる“ソース”であったり“醤油”などが存在していません。
このため、[唐揚げ]に着目したのです。
しかしながら、先ほども述べたように、手に入らない材料があります。
よって、理想の下味は不可能でした。
それでも皆に好評だったので、合格点にしておきます。
鶏というか……、[コンバットチキン]とかいう魔物の骨が余ったので“スープの出汁”に用いてみました。
こうして、[野菜スープ]も完成したのです。
パンに関しては“イースト菌/小麦粉/塩/水”が使われています。
それだと[ハード系]にしかなりません。
少しでも柔らかくしたかった私は、ここに“バター”と“コーン油”を加えて、[ロール型のセミハードパン]に進化させたのです。
“日本の母親”とプライベートで作った経験が役に立ちました。
ただし、[ソフト系]はレシピが分かりません。
パンについては、ほぼ素人なもので…。
余談になるもしれませんが、バターは、“牛乳を入れた瓶”を大人達に振ってもらった事で、誕生したのです。
それと、窯の温度調整が私には難しく何度も失敗を繰り返しました。
ま、上手くいったので、オッケーとしましょう。
こうした生活を送っていたところ、[イズモ本家]から“第二王子殿下”がお越しになられたのです……。
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お祖父様の「殿下がたを持て成したい故」との要望で、私が夕食を担当しました。
“母”や“館専属の調理班”に協力してもらって…。
その品々がテーブルに並び始めたところ、
「え?!!」
「唐揚げ!?」
王子様がビックリなさったのです。
周囲が不思議がるなか、王子様が[転生者]であることを告げられました。
更には、私の元クラスメイトであり“学級委員長”の[日之永新君]だったのです。
こうした情報や、おもいがけない再会に、私は喜びを噛み締めます。
[ダイワ王国]の方々が料理に満足してくださったのにも、私は安堵しました。
ひと息ついたところで、お連れの“ハーフエルフさん”に頼まれた[ラルーシファ王子様]が語りだしたのです。
[初代ラダーム陛下]が書き残されたという“本”の内容や、私たちの転生に関する件を―。




