第205話 会商④
“セゾーヌ”だけ[第二広間]にやって来た。
彼女は、やれることがなくなったそうだ。
それから暫くして“アシャーリー”と“兎の獣人 カトリーヌ”も[厨房]から訪れた。
こうした2名が“イグル”に近づく。
そして、カトリーヌが、
「実家は商会を営んでるんだよね?」
「だったら、幾つか依頼してもいいかな??」
このように窺った。
イグルが〝ん?〟と首を傾げたところ、今度はアシャーリーが、
「普段うちで取り引きしているお店が在るのね、“コーヒー豆”とか“カレーのスパイス”とかを入手してくれる。」
「そちらに発注しても構わないんだけど…、〝せっかくだから前世の御縁で〟といった話しになったの。」
そう述べる。
〝あー〟とイグル親族が理解した一方で、
「代金はどうするつもりだ??」
「払えるのか?」
カトリーヌの“父親”が尋ねた。
この問いに、
「いや、ムリ。」
「だから、お祖父ちゃんにお願いしてみようと思う。」
そうカトリーヌが答える。
しかし、
「料理に関する事であれば、きっと難しいぞ。」
「経営しているのは“冒険者ギルド”であって、商業は専門外だからな。」
父に指摘され、
「やっぱりそうかぁ~。」
残念がるカトリーヌだった。
けれども、
「ちなみに、何を頼むつもりだったのかしら??」
“リーシア姉上”がお訊ねになられたことで、状況が変わる。
「チョコや和菓子の材料を、です。」
こうカトリーヌが返すなり、
「チョコ?!」
僕と、
「和菓子ですか??」
先生が、興味を示した。
それらの反応によって、
「……、つまり。」
「〝美味しいものが新たに完成する〟という事ね!!?」
姉上が推測なさる。
更には、
「ラルく…、いえ、陛下。」
「“スサノオ帝国”が正式に依頼しましょう☆」
瞳を輝かせる姉上だった……。
▽
カトリーヌがひとまず欲しがっているのは[カカオ]と[小豆]らしい。
だけど、こちらの世界では名称が違うらしく、通じなかった。
それでも、特徴を教えた結果、伝わったようだ。
こうしているうちに、お昼に合わせて各大臣が集まりだす。
そうした彼ら彼女らに、イグルたちを紹介していく。
両親と従叔父は、再び恐縮していた。
身分が違うため…。
▽
昼食の流れで、給仕達によって[ケーキ]が運ばれてくる。
まずは、[バスクチーズケーキ]だ。
〝外側を黒く焦がして作った濃厚な品〟とのことらしい。
これだけでなく、チーズが苦手だったり嫌いなヒトたちのために[苺のタルトケーキ]も用意された。
カトリーヌによれば、[タルト型]とかいう物を、先生の所に予め何個か発注しており、ドワーフ族の職人達に製造してもらったそうだ。
数は少なめだったので、それらの料金はカトリーヌが支払ったらしい。
アレルギー持ちのイグル兄弟のためには、[イチゴ盛り]が準備されている。
一緒にテーブルへと置かれた[銀製で小さめのミルクピッチャー]の中身について、
「練乳だよ♪」
このように告げたカトリーヌが、〝牛乳と砂糖を加熱するだけだから簡単〟といった旨を説明してくれた。
そうして、“イグルの弟”が練乳を掛けたイチゴを食べて〝うわぁ~♬〟と至福の表情を浮かべる……。
▽
解散となった。
イグルたちは、移住を前向きに検討してくれるみたいで、地元に帰ったら親族会議を開くらしい。
補足として、今回の[レシピ]などは“僕/竜人族/天空人族”が購入している。
これは余談になるかもしれないけれど、“妹のエルーザ”は、イグルの弟にあたる“イリース”に対して、どこか遠慮し続けていた。
(人見知りしないタイプなのに??)と、僕は不思議がる。
いささか心配になって、姉上にお伺いしてみたところ、
「おそらくだけど、同じくらいの年齢の子と接した経験がないから、最後まで距離感が掴めなかったのかもね。」
「でも、まぁ、そのうちすぐに慣れるでしょう。」
「エルの事だから。」
そのように分析なされた。
こうした考えに、僕は〝なるほどぉ~〟と納得する―。




