第203話 展望⑦
僕は、“宇留間洵くん”こと“イグル・バジ”と挨拶を交わす。
前世での本人は寡黙な印象だった。
あちらの高校生だった頃、彼と喋った記憶はあまりない。
ともあれ。
宇留間くんが、同行している人々は親族である事を教えてくれた。
逆に、僕は、場に居る面子を紹介していく。
すると、むこうの父母や従叔父が、こちらのメンバーの殆どに90度でお辞儀した。
僕たちの大半が地位や身分が上なので。
そうしたのが済んだところ、
「皆は、ここで一緒に暮らしているの??」
宇留間くんが首を傾げた。
これによって、
「いえいえ。」
「実はですね…。」
先生が代表して今日に至るまでの経緯を簡単に伝えてくださる……。
▽
天を仰ぎつつ、
「神々の件は、にわかに信じられないけど…。」
「僕らを騙す理由はないだろうし……。」
〝ん~〟と考え込んだ宇留間くんが、正面を向き直し、
「一応、分かりました。」
そのように告げた。
まだ疑いが残っていそうな彼に、
「いつかお会いできると思いますよ。」
先生が〝ニコニコ〟なさる。
こうした流れで、
「宇留間く…、イグルも僕達の鍛錬に参加しない?」
「それが終わったあと、カトリ……、高瀬さんが“チーズケーキ”と“タルトケーキ”を作ってくれるから、良ければお昼ご飯ともども食べていって。」
そう僕が声をかけるも、
「あー。」
「ま、うん。」
「ありがたく、いただきます。」
イグルの歯切れは悪かった。
「もしかして、お嫌いなんですか??」
「ケーキ。」
このように先生が訊ねられると、
「いや、そうではなく。」
「アレルギー持ちなんです。」
「僕が卵の、弟は小麦の。」
苦笑いしたイグルが、
「でも、他の親族は平気なので、食べさせてあげたいです。」
そう述べる。
「ごめん。」
「よく考えもせず、提案してしまって。」
申し訳なくなる僕に、
「大丈夫…、です。」
イグルが距離感を掴めなさそうにしながら返した。
こちらは“帝王”で、あちらは“平民”のため、無理もない。
僕としてはタメグチで構わないんだけれども……、徐々に慣れていってもらうとしよう。
そうしたなか、
「なんです?」
「アレルギーっていうのは??」
“ハーフエルフのリィバ”が質問してきた。
「ん?」
「あ…。」
「どう言えばいいんだろう??」
僕が困ったところ、
「食物や塵埃とか金属などによる、気管支喘息に、皮膚炎や粘膜炎など、ですよ。」
「あと、花粉症とかも含まれる筈です。」
このように先生が説明してくださる。
それによって、
「成程。」
理解を示したリィバが、
「あれらは、ポーションであったり、魔法や神法でも、治せませんからね。」
〝うーむッ〟と難しい顔つきになった。
こうした状況にて、
「僕の“特殊スキル”であれば、地球の薬品類を製造できるみたいなんだけど、知識がないから、何もできないんです。」
いささか困ったようにイグルが語る。
そこへ、
「だったら、先生に本を取り寄せてもらえばいいよ♪」
カトリーヌが意見したところ、
「そうですね。」
「では、あとで、そのようにしましょう。」
先生が穏やかに承諾してくださった。
お城の兵や給仕などのなかにも、アレルギーのヒトが若干いるため、薬が完成すれば喜ばしい限りだ。
こうしたなか、
「料理する身でありながら、うっかりしていました。」
「卵や小麦粉の代用として大豆などがあるので、今度そこら辺のレシピも書くとします。」
そのようにアシャーリーが進んで引き受けてくれる。
更には、
「私も。」
どこか反省した様子になるカトリーヌだった……。
▽
イグルが僕たちとの[合同鍛錬]を行なう。
従叔父の人も〝面白そう〟とのことで加わっている。
一方で、イグルの弟くんは、両親と共に隅で見学していた―。




