第202話 各個の主観⑪
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僕は、イグル・バジ。
夏を迎えれば12歳になる。
こうした僕は、世界の北東に位置する[ノイスト大陸]の、ある国で生まれ育った。
それは、大陸の最北西に存在している[ルゥターン王国]で、人間が統治している。
ここの[西の港町]が、僕の地元だ。
曾祖父さんが若かりし頃に開業した[商店]を、その血筋達が引き継いでいる。
今は祖父が代表を務めており、規模は[中企業]といったところだ。
敷地の南側に[お店]があり、中庭を挟むようにして北側に[家]がある。
ただし、そこに住んでいるのは“お祖父さん”と“伯母さんファミリー”だ。
僕などの父は、もともと冒険者だったらしく、やがて出会った女性と結婚して落ち着くため、実家に戻ってきたらしい。
その時には既に、父の姉が婿養子をもらい、お店で仕事をしていた。
なので、ゆくゆくは伯母さんが店主になる話しでまとまっている。
まぁ、生活のために父も働かせてもらっているけど。
こういった感じの僕らは、店舗から東に歩いて10分ぐらいの所で暮らしている。
家族構成は“父/母/僕/弟”の4人だ。
僕の二つ下に妹がいたけれど、およそ七年前の[伝染病]で亡くなっている。
あと、祖母や、伯母さんの旦那、なども。
ちなみに、僕の弟は、今年の秋で7歳になる。
かつて、僕がその年齢になった際に[鍛錬]と[勉強]が始まった。
父や母が時間に余裕があるときだけ、いろいろと教えてくれている。
そうしたなか、僕が【神法】とかいったものを扱えることに、一族の大人たちが驚いたり興奮した。
なお、【闇属性】だ。
他に、[槍術:壱]という【戦闘スキル】や、【亜空間収納】も、備わっている。
これらだけでなく、[研究]といった【特殊スキル】があった。
なんでも〝地球の薬品類を作れる〟そうだ。
しかし、その頃の僕には意味が分からなかった。
何もかもを思い出したのは、10歳の誕生日に見た夢によってだ。
[日本の高校生]だった件や、“宇留間洵”といった名前だった事など、記憶が甦る……。
ついこないだ、従叔父によって、[オオクニヌシ島]に新しくて物凄く美味しい料理店がある旨を報らされた。
30歳になる従叔父は、現役の冒険者で、近所に[自宅]がある。
結婚しておらず、両親などは永眠しているため、独り身だ。
本人の父が、僕などの祖父の弟だった。
こうした従叔父によれば、[タケハヤ島]から名称を変えたらしい。
また、そこと関係の深い[ダイワ王国]も、[スサノオ帝国]になったのだとか。
これは、僕みたいな“元日本人”が関与していると考えていいだろう。
そのように確信して、前世の事を一族に説明し、どうしても[チキュウビストロ・グラールス]とやらに行きたいと頼み込む。
結果、お祖父さんの許可を得る。
このため、長期休暇をもらった父と、母や、弟と一緒に、僕は、あちらの[中央都市]へと赴く…。
従叔父の【瞬間移動】で、[北門]あたりに渡った。
都市に入ってからは、[馬車]で一日ほど掛けて、目的地へ向かう。
お店は[北の大通りの路地裏]に建っている。
……、[メニュー]に書かれているのは、地球の品々に違いなかった。
初めて飲食した僕などの両親が大感激している♬
二度目となる従叔父も瞳を輝かせていた☆
その一方、僕は卵の、弟は小麦の、アレルギー持ちのため、限りがある。
こうしたなか、弟は、自分が食べられる物をクチに運んでは〝ん~♪〟と至福の表情を浮かべていた。
僕は久しぶりの[地球食]に満たされる。
ただ、できることならアレルギーを治す薬を製造したい。
僕や弟はもとより、似た症状のヒト達のためにも。
そうすれば誰もが食事を楽しめるようになるだろうから。
とは言え、専門的な知識がない僕には、かなり難しいけど。
補足として、この世界における〖異常回復〗の[ポーション]や【魔法】は病気などには効かない。
ま、それはおいといて。
地球の料理に関して店員さんに尋ねてみたところ、[別室]に案内された…。
店長だという男性から[金製のカード]を受け取る。
ここには、
スサノオ帝国ノ都デ待ツ
転生者ハ城ヲ訪問スベシ
初代帝王
そうした文字が刻まれていた。
「日本語。」
ふと呟いた僕に、店長さんが[裏面]も読むよう勧めてくる。
ひっくり返してみると、
コノ札ヲ城ノ者ニ提示シテモライタイ
ソレデ分カルヨウニナッテイルカラ
日之永新
こう彫られていた。
「……。」
「あ!」
「学級委員長。」
理解した僕は、彼に会うのを決める。
前世で接したことはあまりないけれど。
別に仲が悪いとかではなく、人見知りなほうだった僕が、皆と殆ど喋れなかったので。
いずれにせよ。
親族に事情を伝えた。
それによって、〝旧ダイワの都であれば数年前に立ち寄ったことがある〟という従叔父に、再び【テレポート】してもらう…。
[西門]を潜り、馬車を使って、二日くらいで到着する。
城兵の人に連れて行ってもらった先に、いろんな種族と“ライオンみたいな魔物”が居た。
緊張しつつ自己紹介したところ、
「おー。」
「宇留間君ですかぁ~。」
〝ニコニコ〟しだした“眼鏡の少年”が、
「僕は“フリント=ロデール”です。」
「以前は、“竹村良鉄”でした。」
このように告げる。
「え?!!」
「先生??!」
ビックリする僕に、“城宮くん/嶋川さん/吉野さん/山仲さん/高瀬さん”が名乗った。
順番に“竜人/人間/人間/天空人/兎の獣人”だ。
先生は“ハイドワーフ”になっていた。
そうして、“ラルーシファ=イズモ陛下”こと“委員長”と、僕は、挨拶を交わす―。
現時点での[イグル・バジ]
【神法】
・闇属性のみ使用可能
※段階は初級
【スキル】
・亜空間収納
※小規模
【特殊スキル】
・研究 (地球の薬品類を作れる)
※第一段階
【戦闘スキル】
・槍術
※段階は[壱]
前世での名は[宇留間洵]




