第200話 進退⑦
野原で戦闘が繰り広げられている。
人間などの多くが死傷していく光景に少なからず気持ち悪くなった僕は、“マンティコアのラバス”に陸へと降りてもらう…。
ラバスの背に跨ったままでいる僕の周囲を、“教育係&お世話係”を始め、[都]から伴った千人の兵士が、固めてくれた。
万が一に備えて、護衛のために。
こうした数十分後、割と離れた前方から、勝利の雄叫びが幾つも響いてくる……。
▽
平地に仰向けで寝かされたのは、“ラハージャ従叔父”の遺体だ。
一部の臣下達に裏切られたらしい。
吐きそうになるのを僕は再び耐える。
“ラノワマ元宰相”は姿を消したとの事だ。
魔術士の【テレポート】によって。
それに関しては、未来が変わっている。
元宰相も、ここで亡くなる筈だったのに。
何が原因だろう??
ま、考えても分からないんだけど。
取り敢えず、
「将軍。」
「これからどうする?」
僕が質問してみたところ、
「当初の予定どおりになされて問題ないかと存じ上げます。」
そう“隻眼のベルーグ”が答えた。
「副将軍や大臣らに異論は??」
念の為に訊ねると、誰もが将軍の意見を尊重する。
これによって、まずは、僕に従ってくれた“三名の領主”に、恩賞として[爵位]などをそのままにしておく旨を告げた。
次に、投降した兵たちに罰を与えないことを宣言する。
更には、従叔父を討ち取った兵隊に、〝後日、何かしらの褒美を授ける〟と、伝えた。
それらを受けたヒトは皆、跪き感謝している。
この流れで、何百もの戦死者を実家などに帰してあげるべく、軍勢を撤退させた。
ただし、従叔父や元宰相の[屋敷]を知っている魔術士らには残ってもらう。
そこから、“都の兵など”を半数ずつに分け、2つの班を作る。
こうして、【テレポート】する僕達だった…。
▽
僕は、“お世話係/ラバス/約500名の兵士”と共に、従叔父の住居に渡っている。
正確には[敷地内の庭]だ。
〝元宰相はまだ生存しているので、乗り込んだ際に激しく抵抗された場合、危険度が増しますので〟との理由にて、あちらは“四人の大臣たち”が赴いた。
およそ500の兵隊を率いて。
……、一方。
僕は、庭で、何名かの兵に、従叔父の亡骸を丁寧に置かせる。
それを見聞きした遺族などが、おとなしく捕まった。
きっと諦めたのだろう。
逆らったとて、あまりにも数的不利なため簡単に敗れてしまい、この場で殺されかねないので。
なにはともあれ。
彼ら彼女らを[町の牢獄]に連行させたり、従叔父の埋葬を指示してゆく…。
▽
僕などは、お城に【瞬間移動】する。
ほぼ同時に、[別チーム]も【テレポーテーション】で現れた。
ベルーグ将軍の話しによれば、“ラノワマ一家”は既に居なかったらしい。
他国に亡命した可能性が高いそうだ。
ひとまず、僕の“教育係&お世話係”が、およそ千名の兵士に[特別手当の金貨]を配付する。
これが済み次第、解散とし、建物内に入ったところ、“リーシア姉上”や“妹のエルーザ”などが[1階エントランス]で迎えてくれた……。
▽
[第二広間]で、姉上はもとより、大臣らのなかでも留守を任せていたメンバーに、状況を教えていく。
なお、とっくに全員が[装備]を外している。
窓の向こうでは、雨が降りだしていた…。
聞き終えられた姉上が、
「ライニルに続いて、ラノワマまでもッ。」
眉間にシワを寄せて悔しがられる。
「逃がしてしまい、すみませんでした。」
僕が頭を下げると、
「ん?」
「いいのよ、別に、謝らなくたって。」
「ラル君達の責任ではないのだから。」
「悪いのは、あの二人よ。」
優しく仰せになられた。
そうして、
「出征していたヒトたちは疲れたでしょうから、ゆっくり休んでちょうだい。」
姉上が穏やかに勧めてくださる。
お言葉に甘え、僕はラバスと一緒に[自室]へと足を運ぶ。
今日は、若干ではあるけれど精神的に堪えていたので―。




