第20話 巡り会い①
僕たちは一階エントランスに【瞬間移動】した。
どうにか自力で立った僕だけれども、割りとフラついている。
心配したらしいユーンが片膝を着いて、
「ラルーシファ様、おんぶ致しましょうか?」
そのように窺ってきた。
「いや、一人で歩くよ。」
さすがに恥ずかしくて断ったところ、
「ひとまず、ここから最も近い“客間”に行きましょう。」
こう述べたルシム大公が、先導してくれる…。
▽
靴を脱いだ僕は、レデイッシュブラウンの[革製ソファ]で仰向けになった。
すぐ側のアンティークテーブルに、ベルーグが[神剣ムラクモ]を置いてくれる。
「全員ぶんの飲み物を、侍女に運ばせよう。」
そのように告げた大公が退室していく……。
▽
30分ほどが経ち、かなり体調が良くなってきた僕が起き上がったタイミングで、誰かが扉をノックする。
ドアを開け、
「失礼します。」
お辞儀したのは、あの執事さんだ。
その流れで入って来ると、僕に気づき、
「ご回復なされたのですね。」
「それはなりよりです。」
穏やかに微笑む。
「皆様のお部屋の用意ができたのですが…、御案内させていただいても問題ないでしょうか??」
こう尋ねてきた紳士に、
「じゃあ、よろしく。」
簡易的に返す僕だった。
▽
それぞれに“個室”を準備してくれたみたいだ。
[ダイワ王城の僕の部屋]に比べると半分くらいの面積だろう。
いや、決して悪くはない。
あっちが広すぎるのだ。
とりあえず。
椅子に腰かけた僕は、[アイテムボックス]から“ラダーム様の記録”を取り出した。
これは余談になるかもしれないけど、室内には[木製]の“丸テーブル1台”と“イス2脚”が備えられている。
他にも、ベッドやタンスなどが設けられていた。
ともあれ。
僕は、“初代様の本”を熟読していく……。
▽
夕刻となり、僕達は、館の[食堂]に集まっている。
そこには、ある“親子”が居た。
「儂の“次男の家族”です。」
こう口を開いたルシム大公によって、3人が会釈する。
30代前半ほどの男性は“ライトブラウンのサラサラショートヘア”だ。
その人と大差ない年齢だろう女性は“赤髪ロングのクセ毛”だった。
僕と同じぐらいの歳らしき娘さんは“赤髪セミロングの三つ編み”だ。
「儂の長男は、統治や経済を学ばせるため“南方の港町”に赴任させております。」
「妻子ともども、いつか機会があれば挨拶させますので、ご了承の程を。」
軽く頭を下げた大公は、
「もともと、次男の嫁は料理人としてこの館に勤めておったのですが…。」
「息子が惚れ込みましてな。」
「彼女は〝結婚後も厨房に立たせてもらえるなら〟といった条件で承諾したのです。」
「そのため、今でも、たまにではありますが、腕を振るってくれております。」
「この2人の娘……、儂にとっては孫にあたる“アシャーリー”も、いつしか調理に興味を持つようになりましてな。」
「母親を手伝うようになっておったのです。」
「そのアシャーリーが、一ヶ月ほど前に10歳となった折に、料理が急激に上達しまして…、新しい品々を考案するようになりました。」
「いささか長くなってしまいましたが、此度はアシャーリーが作ったものを、ぜひ、ご堪能ください。」
「きっと殿下がたも満足なさるでしょうから。」
こう喋って、自身の手を〝パン!パン!〟と叩いた。
それによって給仕たちが配膳していく。
この途中で、
「え?!!」
「唐揚げ!?」
僕は驚いてしまった。
「おや??」
「殿下は御存知でしたか?」
「カラアゲを。」
そう聞いてきたルシム大公に、
「うん、まぁ。」
頷いた僕は、
「これを、君が??」
アシャーリーへと視線を送る。
「は、はい。」
彼女も少なからずビックリしているみたいだ。
お互いにフリーズしていたら、
「んん~?」
「なんですぅ??」
「ボクはそれなりに生きてますが、このような調理は初めてですけれど?」
「王子は、ダイワ城で食べたことがあるんですか??」
リィバが質問してきた。
「いや、そうじゃなく……。」
一瞬どう答えるべきか悩んだものの、意を決して、
「実は…。」
「僕は“転生者”なんだ。」
このように教える。
多くの者が〝は?〟と首を傾げるなか、
「王子様もですか??!」
そうした反応を示すアシャーリーだった。
「やっぱり、君も?」
確認する僕に、
「転生者とは、どういう事です??」
リィバが興味ありげに説明を求めてくる。
「あぁ、え~っと……。」
「信じてもらえないかもしれないけど、僕は、地球という惑星の日本といった国から、この世界に生まれ変わったんだ。」
「あと、ラダーム様や近衛衆も、そうらしい。」
「これは、初代様が書き残されておられたので、疑いようがない。」
僕が発言したところ、
「そうなんですね?!!」
またもアシャーリーがくいついた。
「うん。」
「ちなみに、僕は、高校の修学旅行中にバスの事故で亡くなったんだ。」
こう述べたら、
「私も一緒です!」
アシャーリーが前のめりになる。
〝偶然じゃないかもしれない〟と判断して、
「僕は前世で“日之永新”っていう名前だったんだけれど。」
試しに告げてみた。
「…、えッ??!」
「委員長!!?」
目を丸くするアシャーリーに、
「そういう君は??」
反射的に返す。
「私、嶋川由美です!」
「……、あ!!」
「ご実家が“個人経営の喫茶店”の?!」
「はい!!」
「そうです!」
そのようなラリーを経て、
(おぉーッ!!)
(10年越しに、元クラスメイトに再会できたぁ~!)
僕が感動していたところ、
「申し訳ございませんが、もっと詳しく話していただけませんでしょうか??」
[眼鏡の真ん中]を“右の人差し指”で〝クイッ〟とするマリーだった。
こうした意見に、
「ああ、うん、そうだよね。」
僕は〝もっともだ〟と納得する。
しかし、ふと思い直して、
「でも、その前に…。」
「ご飯にしよう!!」
「温かいうちのほうが、より料理が美味しいから!」
皆に“嶋川さんの唐揚げ”を勧めるのだった―。




