表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/181

第2話 万感

ラルーシファ殿下が引いていらっしゃる事に気づいた儂は、冷静さを取り戻して、〝コホンッ〟と咳払いした。


いや、まぁ、正直なところ、恥ずかしは残っておる。


かなりいい(とし)じゃというのに、まるで(わらべ)かのように小躍りしてしまったからのぉう。


もはや年長者の威厳など何処にもない。


そんな儂の名は、レオディン・セル―ロ。


ダイワの[王宮魔術師]にて[言語学博士(はくし)]である。


かつては諸国を旅して回り、魔法の研鑽(けんさ)を積んでおった。


今から10年以上前に、寄る年波には勝てなくなり、故郷であるダイワ王国で隠居生活を過ごすようになったのである。


ある日のこと、この国の陛下に依頼され、王宮魔術師として城で暮らす事になった。


なんでも、既に仕えていた我が旧友が、儂の帰郷を知り、国王に勧めたらしい。


ちなみに、その者は、王宮魔術師の統括責任者であり、第一王子の教育係になっておる。


ま、気立ての良いやつじゃ。


……、さて置き。


城に住み込むのは人生が窮屈になりそうで、最初は断ろうかと思っていたものの、とある伝説について確かめたくなり、結局は話しを受け入れることにした。


儂が探求したかったのは、【神法(しんぽう)】である。


〝ダイワ王国の初代陛下と近衛衆(このえしゅう)が使っていた〟と言われておるが…、およそ五百年に亘って扱える者が存在しなくなった。


このため、いつしか〝神法は誰かしらが創作した虚構だ〟とされるようになり、真偽の程が定かではなくなっている。


子どもの時から【神法】に憧れを抱いておった儂は、〝城であれば何かしらの記録が残っているのでは??〟と考えて、王宮魔術師になったという訳じゃ。


しかし……。


どれだけ調べようとも、詳細の殆どが分からんかった!


〝やはり神法などは嘘じゃったか〟と諦めるようになった折に、ラルーシファ殿下によって再現されたのである!!


そりゃあ、もぉう、興奮せずにはおられんに決まりきっとるじゃろうがあ――――ッ!!!!


…………。


すまん。


また我を忘れてしもうた。


それにしても…、将来を有望視されておる第一王子や、魔法を極める素質ありと評価されている第一王女ではなく、第二王子が神法を操ったのは意外である。


いや、ラルーシファ殿下は、悪い御仁(ごじん)ではない。


寧ろ、優しい(かた)であらせられる。


ただ、これが“玉に(きず)”というか“(あだ)になりかねない”というか……、〝人の上に立つには適していない〟〝器ではなかろう〟など、陰口を叩かれている状況だ。


じゃが!


それも終わろうというもの!!


なにせ、ラルーシファ殿下は、【神法】の継承者なのじゃからぁあ―ッ!!!!


し、か、も。


これに関する師匠は…、儂じゃ!儂じゃ!儂じゃ!儂じゃあ――いッ!!!!


ハッ!


いかん!!


またしても気分が(たか)ぶりまくってしもうた。


……、反省。


現在――。


「取り乱してしまい、たいそう失礼いたしました。」


頭を下げた儂に、


「あ…、う、うん。」


殿下が微妙な反応を示される。


(これは、もう、心の距離が出来てしまったに違いない。)


そう危惧していたら、


「ねぇ? レオディン。」

「まほうって、“つえ”がないと、つかえないの??」

「しんぽうは、ひつようなかったけど?」


殿下が不意に質問なされた。


幼いながらにも、こういった点に気づかれるとは、割と聡明なのかもしれない。


断言するには、まだ尚早じゃろうが……。


「いえ、そういう訳ではございません。」

「まず、魔法陣を構築するには、落ち着いていなければならないのです。」

「例えば、実戦を想定した場合…、敵に襲われて焦りが生じると、完成させるまで無駄に時間が掛かってしまいます。」

「魔法陣の構築が遅くなってしまったら、相手に余裕で攻撃されてしまい、最悪、死にかねません。」

「それらを踏まえて……、“魔法の杖”は、術者の精神状態がどうであれ、魔力を流し込んでいくなかで詠唱さえできれば、魔法陣を容易く作り上げられるのです。」

「言うなれば、こうした杖は“魔法の安定装置”みたないものですじゃ。」


このように説明したところ、


「へぇー、なるほどぉ。」


と理解なされたのである。


それなりに難しい内容だった筈じゃが…、やはり、ラルーシファ殿下は、同年代の子供に比べて知能が高いのかもしれん。


こういった分析を行なっていたら、一階の[外廊下]より、


「お待ちなさぁ――――いッ!!!!」


そのような声が聞こえてきた。


儂と殿下が視線を送ったところ、走って逃げる第一王女を、60歳ぐらいの女性が追っていたのである。


第一王女の教育係の1人である彼女が、


「今日という今日は、ほんっとうに許しませんからねぇえッ!!」


更に怒鳴った。


大方(おおかた)、第一王女が悪戯(いたずら)したのじゃろう。


恒例的に。


まさに“おてんば姫”であらせられる。


にしても……、あの教育係、よく全速力で駆けられるものじゃ。


体は細いほうだというのに、どこからあのような活力が出るものやら??


若者に負けず劣らずの強靭(きょうじん)さである。


…………、単に意地と気合いなだけかもしれんのう。


まぁ、儂には、到底、無理じゃろうな。


年齢からして身が持たん。


そういった意味でも、〝ラルーシファ殿下の担当で良かった〟と、つくづく感謝する儂じゃった―。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ