第199話 交錯するもの㉒
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我は、ラグール=イズモ。
“ラルーシファ帝王”の叔父である。
一ヶ月以上前、“兄のライザー”から届いた書状を読んだときには、唖然とさせられた。
“ラダン”が謀反を起こしたからだ。
しかも、背後には、我々の愚弟“ライニル”がいるらしい。
それだけでなく、“ラノワマ”も怪しいと。
更には〝次男のラルーシファに王位を譲る〟〝そなたは、急ぎ西方領を束ね、何かと協力してあげてくれ〟とも認められていた。
兄上を助けに駆けつけようかとも考えたが、魔術士の【瞬間移動】で渡ったとて、おそらく手遅れだろう。
此は、もはや、兄の[遺言]である。
そう悟った我は、すぐさま行動することにした。
かつて憧れを抱いた兄上の願いを叶えるべく……。
〝神剣ムラクモを抜いた〟というのは我が耳にも入っていたが、【閃光】を放った帝王、いや、あのときはまだ[国王]に、心からの忠誠を誓った。
〝初代ラダーム陛下の再来〟として…。
ライニルを逃がしてしまった事が腹立たしい!!
機会があれば必ずや息の根を止めてくれようぞ!
……、すぅー、はぁー。
何はともあれ。
“竜人族”や“天空人族”に驚かされる。
新しい[料理/調味料/ビール/ジュース]には、大感激だ!!
これからの発展は疑いようのない[スサノオ帝国]が楽しみで仕方ない―。
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私は、ライニル=イズモ。
[ダイワ王家]の三男として生まれ育った。
[玉座]に興味を示すようになったのはいつ頃だったか?
よく覚えてはないが、(絶対に王になってみせる)と強く思った。
そのためには戦力を手に入れなければなるまい。
昔から衝突を繰り返してきた[北のスコーリ王国]を味方に付けるのが良さそうだと判断した私は、表向き〝和睦交渉する〟として、父に領地を貰った。
実際は、時が来たらスコーリに援軍を送ってもらうために。
一方で、[都]の状況を定期的に把握していく。
やがて宰相に就任したラノワマを〝野心家だ〟と睨んだ私は、接触を試み、水面下で繋がっていった…。
スコーリで内乱が勃発する。
当分は他国に干渉できないだろう。
私が王になるのはまだ暫く待つしかなさそうだ。
こうしたところで、ラノワマが私を頼ってきた。
自身の娘が婚約しているラダンのために。
好機である!
奴らを利用してやろう!!
……、失敗した。
ラグールの動きが速すぎる!
何故だ??
前もって情報が洩れていたのか?
或いは、私の本性を見抜いていただけあって、ずっと警戒していた??
そうではなく、ライザーが生きていたときに手を打ったとか?
詳しいことは分からんが、なんとかせねば…。
無理だった。
こちらに付いていた“北方の領主ども”に裏切られたのもあって。
一気に形勢が変わったのが解せぬ。
私の知らないところで何が起きている??
さっぱりだ。
取り敢えず亡命するとしよう。
だが、国王になるのを諦めたわけではない―。
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オレ様は、ラハージャ=イズモ!!
王族である!
“ライザー/ラグール/ライニル”は従兄弟たちだ!!
オレ様の父親が[王弟]だったので!
あと、[王妹]だった人物もいて、西方領の貴族家に嫁ぎ、娘を出産した!!
なんにせよ!
オレ様は、他界した父の跡を継いで[公爵]かつ[領主]になっている!!
…………。
あ、すまん。
爺やでもある[執事]に「うるさいだけだと馬鹿に思われるから、およしなさい」と注意されたので、改めるとしよう……。
時が経ち、ラダンがきっかけで内戦になった。
オレ様は、国王になるべく、挙兵を決める。
すると、爺やはもとより、給仕に料理人などの過半数が、〝恐れ多い〟として、去っていった…。
ふんッ!
臆病者どもめ!!
後で泣いて謝ってきても、許してやらんからな!
せいぜい後悔するがいい!!
……、“帝王”と称するようになったラルーシファからの書状が届いた。
簡単にまとめると〝服従か死〟を迫ってやがる。
生意気な小僧だ!
憤慨していたところ、あちらに寝返る連中が続出した。
切羽詰まったオレ様に、ラノワマが共闘を提案してくる。
それを受け、およそ1万の軍勢を集め、約束の時間に魔術士によって【瞬間移動】した…。
どうなっているんだ?!!
ラルーシファどもが待ち構えていたぞ!??
ひょっとして、ラノワマがオレ様を売ったのか?
今はそんなことより、やばい!!
投降する者達がいるうえ、敵兵が徐々に近づいて来る!
こうしたところ、側にいた護衛の数十人が何かを相談した流れで、オレ様に武器を向けやがった。
!!
まさか、お前ら―。
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私は、ラノワマ・タリーフカ。
[イズモ王家]とは遠い親戚にあたる。
それもあって、先祖代々、割と厚遇されてきた。
こうした私は、およそ10年前に[宰相]に抜擢してもらえたのである。
ラダン殿下がたの祖父である当時の[国王]に。
それからというもの、私の人生は次第に順風満帆となっていった。
だというのに、どこで間違えたのだろう??
二度も暗殺し損ねたラルーシファに身を隠されてからか?
もしくは、将来の婿君であったラダン殿下を確実に王にせねばと、ライニル公に相談したのが誤りだったのかもしれん。
ラダン殿下による〝ラルーシファがムラクモの閃光を扱えるようになったそうだ〟との報せに焦ってしまった所為で、完全に歯車が狂いだした!
……、いや、本を正せば、宰相になったときから(より一層に権力を強めたい)と膨らむ野望を、抑えきれなかったのが原因であろう。
結果、ラダン陛下を死に追いやってしまい、帝王に即位したラルーシファに征伐されようとしている。
自業自得だ。
が、しかし…。
このまま殺られはせん!!
魔術士の【瞬間移動】で[屋敷]に戻り、家族などを連れて一旦は国外へ逃げるとしよう。
ラハージャは見捨てる事になるが、まぁ、いい。
新たな策を講じ、いつか反撃してくれる。
そして、この私が、国王にでも皇帝にでもなってやろうぞ―。
[備考]
ライニル
・金茶髪ベリーショート
・青い瞳
・痩せ型
・白肌
・陰険陰湿
ラハージャ
・金髪七三オールバック
・青い瞳
・マッチョ
・やや日焼けしている肌
・無駄に元気




