第196話 過ぎゆく季節のなかで⑫
あと数日で初夏を迎える。
気温としては、まだまだ涼しいほうだ。
[スサノオ帝国]では、七割近くの領主らが、恭順の意を示す書状を、僕に送ってきている。
以前、ラダン兄上側に付いた事で処刑されたヒト達の遺族は、半数ぐらいが音沙汰ない。
“リーシア姉上”や“各大臣”は〝おそらく、こちらを恨み、敵対する方針で固めているのだろう〟と考えていた。
残りに関しては〝やはり憎んではいるものの、お家存続を最優先にしたのかもしれない〟〝となれば、表面的に従うだけであって、いつ裏切るか分からないため、油断は禁物だろう〟とも語っている。
そうした状況となっているなか、お城の敷地内に[二両のユニコーン車]が入ってきたらしい。
乗っていたのは“ラグール叔父上”と“護衛の者たち”だったそうで、給仕によれば[第一客間]に通したとのことだ。
ちなみに、夕方の4時になろうかとしていた……。
▽
僕などが赴いたら、ソファーに腰掛けていた叔父上達が、床に跪く。
この流れで、
「新国家の樹立、帝王への御即位、ドゥユール王国との同盟、お慶び申し上げます。」
「誠におめでとうございます。」
叔父上が述べると、護衛の3名が「おめでとうございます」と続いた。
割と強めに〝うむ〟と頷いた僕が、
「ラクにせよ。」
そう許可した事で、「はッ」と応じた叔父上を筆頭に、起立する。
「堅苦しいのはここまでにしましょう。」
「ところで。」
「今日は全員が正装なんですね。」
このように喋った僕に、
「“王家の墓”に参ってきたからな。」
叔父上が穏やかに返す。
なお、[惑星ガーア]には、未だ喪服が存在していない。
ともあれ。
姉上の勧めで、座っていく…。
▽
「ライニルめの居城に攻め込んだところ、妻子と腹心どもを連れて既に逃げておった。」
「置き去りにされていた者らによれば〝今ごろ何処にいるのかは不明〟とのことだ。」
「一方で、あそこの家令などは、“北の隣国 スコーリ”に亡命したのかもしれない、と予想している。」
そうした叔父上の報告を受け、
「かつては、あの王国との和睦交渉を担っていたのだから、顔が利くでしょうね。」
「その縁故を頼ってもおかしくはないわ。」
姉上が納得なされた。
「ま、そうなんだが……。」
「実はな。」
「あの愚弟、もともと、いつか謀反を起こすために、スコーリとの外交役に立候補したらしい。」
「つまりは、〝その時が来たら援軍を要請するつもりでいた〟との話しだ。」
「しかし、あちらが先に内戦となり、国力が低下したので、無理だった、と。」
このように叔父上が教えてくれたら、
「それって…、〝もう何年も前から画策していた〟という事になるわよね?」
姉上が独り言みたいに疑問を口にされる。
そうしたところで、
「あぁ、間違いなく、な。」
「まったくもって、いけ好かない野郎だ。」
「子供のときから。」
叔父上が忌々しそうにした。
「ラグール公だって、王位を望んで、お祖父様に激怒されたんでしたわよね??」
こう尋ねられた姉上に、
「あー。」
「あれは、若気の至りだ。」
「文武両道に秀でていたライザー兄上に憧れ、いつしか〝超えてみたい〟と思うようになった結果、つい、な。」
「その件は、とっくに反省しておる。」
叔父上が〝ふッ〟と笑みをこぼす。
「諸々、理解しました。」
「それにしても、丁度いいときに来られましたね。」
「何せ、およそ1時間後には“カルスム王国”と同盟の調印式を行ない、そこから宴を催しますので。」
「よろしければ、叔父上がたも、ご列席ください。」
そのように僕が伝えると、
「天空人族か?!!」
「“浮遊島”の??!」
おもいっきり驚いて、
「〝一年の九割ほどを宙で過ごしているというのもあって、他国に殆ど干渉しない〟と、大昔から知られていたが……。」
自身の腕を組みながら〝うぅ~む〟と唸る“ラグール公爵”だった―。




